曙光、花咲く実りへ
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卯月二十八日、梅桃― twilight of the morning
朝陽が昇る、木洩日に慕わしい。
「教授、おはようございます、」
「おはようございます、」
微笑んでたどる時間、あいさつ交わす学生たち初々しい。
あの時間どれだけ今は経たのだろう?透ける樹影たどる道、キャンパスが響く。
「おう、1限から?」
「2限だよ、その前に図書館ちょっとさ、」
「あの演習のテキスト買った?」
ソール敲く道、弾んだ声たち聞こえてくれる。
毎春から一年いくども聴くだろうな?若葉やわらかに薫る風、あちらの声が笑う。
「シラバスよりも、だったろ?」
「うん、講義のほうが良かった。取って正解だな、」
講義取得の話題、これは新学期ならではだな?
「サークルは決まった?」
「うーん、ワンゲルもいいけどTUSACやっぱりなあ」
ああ、サークル部活動なら新入生だろう?
こんな会話はるかな時間、この隣たしかに君はいた。
『なあっ、あんたアルパインやってんだろ?一緒に行くぞ、』
面影そっと響いて笑う。
あんな時間を自分も生きた、その涯に今ここを歩む。
けれど「結実した」ともう言える?
「ん…途中だな?」
微笑んだ言葉ほら、背すじ静かに伸ばす。
すこし上げた視線に花が映る、その先はるかな空が青い。
「青いなあ…」
青く深く高く、そうだ、この涯はまだ遠い。
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4月28日誕生花ユスラウメ
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卯月二十八日、梅桃― twilight of the morning
朝陽が昇る、木洩日に慕わしい。
「教授、おはようございます、」
「おはようございます、」
微笑んでたどる時間、あいさつ交わす学生たち初々しい。
あの時間どれだけ今は経たのだろう?透ける樹影たどる道、キャンパスが響く。
「おう、1限から?」
「2限だよ、その前に図書館ちょっとさ、」
「あの演習のテキスト買った?」
ソール敲く道、弾んだ声たち聞こえてくれる。
毎春から一年いくども聴くだろうな?若葉やわらかに薫る風、あちらの声が笑う。
「シラバスよりも、だったろ?」
「うん、講義のほうが良かった。取って正解だな、」
講義取得の話題、これは新学期ならではだな?
「サークルは決まった?」
「うーん、ワンゲルもいいけどTUSACやっぱりなあ」
ああ、サークル部活動なら新入生だろう?
こんな会話はるかな時間、この隣たしかに君はいた。
『なあっ、あんたアルパインやってんだろ?一緒に行くぞ、』
面影そっと響いて笑う。
あんな時間を自分も生きた、その涯に今ここを歩む。
けれど「結実した」ともう言える?
「ん…途中だな?」
微笑んだ言葉ほら、背すじ静かに伸ばす。
すこし上げた視線に花が映る、その先はるかな空が青い。
「青いなあ…」
青く深く高く、そうだ、この涯はまだ遠い。
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梅桃:ユスラウメ、花言葉「輝き、郷愁、ノスタルジー、貴び」
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ここから駆けて、
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卯月二十七日、著莪―resolve
月が昇る、この海から先へ。
「…、」
呼吸ひそやかに門を開く。
一歩、けれど足音たたず踏みだした。
かたっ…コンっ、
忍んだ金属音そっと沈む、足もと闇に包まれる。
まだ明けない空、遠い朝、それでも微かな風が薫らせる。
まだ暗くて昏くて、けれど空の涯まどろむ曙あわく照らしだす。
「行くか、」
ひとりごと微笑んで一歩、踏みだして靴底そっと大地なぞる。
この道もう帰らない、それが返らせて自分はきっと見つけられる。
だってほら、頬ふれる風は海から柔らかい。
その風はるかな原点は、きっと。
『海風は包むカンジだけど、山の風は冴え冴えしてるんだ、』
記憶の声なぞる風ゆるやかに甘くて、けれど闇に澄む。
額なぶる冷気しずかに冴えている、これよりも冴えた空気だと彼は言った。
ふれてみたい、唯それだけの想いへ四駆の扉を開く。
かちり、
シートベルト締めてエンジンキー開錠する。
もう後部座席に登山ザック座りこむ、トランクではダンボール箱3つ待ちかねる。
あの積み方で本は傾かないだろうか?小さな心配と、それよりも未知の先へアクセルそっと踏んだ。
『水が違うよ、だから風が違うのかもね?』
たどる記憶にあなたが微笑む、遠い記憶のエンジン音。
タイヤ軋む音、ヘッドライト彩るオレンジの輪、そして今この足に響くエンジン音。
いつもの街路樹が流れていく、けれど今この一瞬ごと「いつもの」は日常から遠くなる。
変えてしまう日常それでも、まだ明けない夜を駆ける今この先で、5年後の自分が笑ってくれるだろうか?
それよりも誰よりも、あなたは?
「逢えるのかな…」
ひとりごと零れて、窓の夜にとけてゆく。
こんなふう走りだして故郷を背にしてしまった、それでも唯ひとり待っていてくれるなら?
その願いただ羽ばたいてしまった、そうして暁すら待てずに駆けている。
あなたの山はるか遠い海岸線の道、遠すぎて、それでも繋がるから。
『山里なんて嫌だってヒト多いけどね、僕には幸せなだけ、』
ほら窓の月に声なぞる、あの月をあなたも見るのだろう。
ただ一緒に眺めたくて、それだけの理由で見慣れた風景たち後へ流れていく。
かたっ…たっ、
パワーウィンドウ下がって髪なぶられる。
額かすめる冷気ゆるく甘い、この馴染んだ香も今が最後。
そうして山の花ゆらす朝へ駆けて、だから誰より何よりも、あなたが僕を見とめて?
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4月27日誕生花シャガ
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卯月二十七日、著莪―resolve
月が昇る、この海から先へ。
「…、」
呼吸ひそやかに門を開く。
一歩、けれど足音たたず踏みだした。
かたっ…コンっ、
忍んだ金属音そっと沈む、足もと闇に包まれる。
まだ明けない空、遠い朝、それでも微かな風が薫らせる。
まだ暗くて昏くて、けれど空の涯まどろむ曙あわく照らしだす。
「行くか、」
ひとりごと微笑んで一歩、踏みだして靴底そっと大地なぞる。
この道もう帰らない、それが返らせて自分はきっと見つけられる。
だってほら、頬ふれる風は海から柔らかい。
その風はるかな原点は、きっと。
『海風は包むカンジだけど、山の風は冴え冴えしてるんだ、』
記憶の声なぞる風ゆるやかに甘くて、けれど闇に澄む。
額なぶる冷気しずかに冴えている、これよりも冴えた空気だと彼は言った。
ふれてみたい、唯それだけの想いへ四駆の扉を開く。
かちり、
シートベルト締めてエンジンキー開錠する。
もう後部座席に登山ザック座りこむ、トランクではダンボール箱3つ待ちかねる。
あの積み方で本は傾かないだろうか?小さな心配と、それよりも未知の先へアクセルそっと踏んだ。
『水が違うよ、だから風が違うのかもね?』
たどる記憶にあなたが微笑む、遠い記憶のエンジン音。
タイヤ軋む音、ヘッドライト彩るオレンジの輪、そして今この足に響くエンジン音。
いつもの街路樹が流れていく、けれど今この一瞬ごと「いつもの」は日常から遠くなる。
変えてしまう日常それでも、まだ明けない夜を駆ける今この先で、5年後の自分が笑ってくれるだろうか?
それよりも誰よりも、あなたは?
「逢えるのかな…」
ひとりごと零れて、窓の夜にとけてゆく。
こんなふう走りだして故郷を背にしてしまった、それでも唯ひとり待っていてくれるなら?
その願いただ羽ばたいてしまった、そうして暁すら待てずに駆けている。
あなたの山はるか遠い海岸線の道、遠すぎて、それでも繋がるから。
『山里なんて嫌だってヒト多いけどね、僕には幸せなだけ、』
ほら窓の月に声なぞる、あの月をあなたも見るのだろう。
ただ一緒に眺めたくて、それだけの理由で見慣れた風景たち後へ流れていく。
かたっ…たっ、
パワーウィンドウ下がって髪なぶられる。
額かすめる冷気ゆるく甘い、この馴染んだ香も今が最後。
そうして山の花ゆらす朝へ駆けて、だから誰より何よりも、あなたが僕を見とめて?
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著莪:シャガ、花言葉「決心、抵抗・反抗、私を認めて、清らかな愛、友人が多い」異称・胡蝶花
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