隣の存在は、
secret talk72 安穏act.9 ―dead of night
箸がきれいだ、そう想った。
―初めて一緒したとき思ったんだよな、俺、
盛夏、初めて君を誘った。
外泊日は限られた自由、その全部を君と過ごしたい。
そう願った自分がいて今、今日も君がラーメン啜っている。
「…、」
黙々、静かな横顔が麺すする。
伏せられた睫毛が長い、蒼やわらかな陰影に視線うつむく。
黒目がちの瞳きっと丼の水面だけ映して、ちょっと悔しい?
―たまには湯原、俺のこと見てよ?
ほら心、勝手な独り言つぶやきだす。
こんなこと想う自分だったろうか?
“自分のこと見てよ?”
そんな願い自分にあったとしたら、いつのことだろう?
もう忘れた時間の涯、ただ今の願い微笑んだ。
「湯原のラーメンがうらやましいよ、俺、」
本音が声になる、こんなに自分は素直だろうか?
不思議で、けれど温かな想いに黒目がちの瞳が見上げた。
「…そっちおいしくなかったのか?」
醤油やわらかな湯気ごし問いかけてくれる。
そう解釈するんだな?可笑しくて嬉しくて笑かけた。
「こっちも旨いよ、でも湯原に食べられたら幸せかもなってさ、」
香ばしい醤油あまい、そんなテーブルに声が笑う。
こんな声だったろうか自分は、こんな言葉を?
自分でも解らなくなる、でも君の瞳ほら?
「…みやたぐあいわるいのか?」
黒目がちの瞳が自分を映す、いつもより大きな眼。
驚いて途惑って、それからたぶん期待したい感情。
「俺のこと心配してくれるんだ、湯原?」
ほら期待が声こぼれる、これが自分の声?
わからなくなるけれど、でも君が見あげてくれる。
「そんなわけじゃない…たぶん」
「たぶん?」
ほら訊き返してしまう自分の声、期待して。
どう答えてくれるだろう?
「よくわからないおれ」
くぐもるような静かな声、そっぽむく黒目がちの瞳。
だけど「たぶん」自分を見てくれている?
「解らないなら心配してるんだよ、たぶん?」
なにげなく笑いかけて見つめる真中、丼かかえた横顔が惹く。
長い睫すこし伏せた目もと赤い、ワイシャツの首すじ薄紅いろ昇る。
「…さっさとたべろよみやたのびるだろ」
つっけんどんな声、でも唇かすかに微笑んだ?
こんなふう誰かに期待するなんて、本当に自分だろうか?
「さっさと食べるよ、湯原の買物あるもんな?」
笑いかけて予定がはずむ、だって「君の」に付き合える。
こんなことすら鼓動はずんで自覚がにじむ、惹きこまれる。
ほら?やっぱり君の箸きれいだ。
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英二23歳side story追伸@第6話 木洩日
secret talk72 安穏act.9 ―dead of night
箸がきれいだ、そう想った。
―初めて一緒したとき思ったんだよな、俺、
盛夏、初めて君を誘った。
外泊日は限られた自由、その全部を君と過ごしたい。
そう願った自分がいて今、今日も君がラーメン啜っている。
「…、」
黙々、静かな横顔が麺すする。
伏せられた睫毛が長い、蒼やわらかな陰影に視線うつむく。
黒目がちの瞳きっと丼の水面だけ映して、ちょっと悔しい?
―たまには湯原、俺のこと見てよ?
ほら心、勝手な独り言つぶやきだす。
こんなこと想う自分だったろうか?
“自分のこと見てよ?”
そんな願い自分にあったとしたら、いつのことだろう?
もう忘れた時間の涯、ただ今の願い微笑んだ。
「湯原のラーメンがうらやましいよ、俺、」
本音が声になる、こんなに自分は素直だろうか?
不思議で、けれど温かな想いに黒目がちの瞳が見上げた。
「…そっちおいしくなかったのか?」
醤油やわらかな湯気ごし問いかけてくれる。
そう解釈するんだな?可笑しくて嬉しくて笑かけた。
「こっちも旨いよ、でも湯原に食べられたら幸せかもなってさ、」
香ばしい醤油あまい、そんなテーブルに声が笑う。
こんな声だったろうか自分は、こんな言葉を?
自分でも解らなくなる、でも君の瞳ほら?
「…みやたぐあいわるいのか?」
黒目がちの瞳が自分を映す、いつもより大きな眼。
驚いて途惑って、それからたぶん期待したい感情。
「俺のこと心配してくれるんだ、湯原?」
ほら期待が声こぼれる、これが自分の声?
わからなくなるけれど、でも君が見あげてくれる。
「そんなわけじゃない…たぶん」
「たぶん?」
ほら訊き返してしまう自分の声、期待して。
どう答えてくれるだろう?
「よくわからないおれ」
くぐもるような静かな声、そっぽむく黒目がちの瞳。
だけど「たぶん」自分を見てくれている?
「解らないなら心配してるんだよ、たぶん?」
なにげなく笑いかけて見つめる真中、丼かかえた横顔が惹く。
長い睫すこし伏せた目もと赤い、ワイシャツの首すじ薄紅いろ昇る。
「…さっさとたべろよみやたのびるだろ」
つっけんどんな声、でも唇かすかに微笑んだ?
こんなふう誰かに期待するなんて、本当に自分だろうか?
「さっさと食べるよ、湯原の買物あるもんな?」
笑いかけて予定がはずむ、だって「君の」に付き合える。
こんなことすら鼓動はずんで自覚がにじむ、惹きこまれる。
ほら?やっぱり君の箸きれいだ。
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