萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

soliloquy Valentine's Day 街角から君に―another,side story

2018-02-14 23:10:06 | soliloquy 陽はまた昇る
想いを今、届けたい。
周太24歳2月another,ss


soliloquy Valentine's Day 街角から君に―another,side story

雪が降る、君のもとに。

「天気予報です、奥多摩地方は昨夜零時から降り続く雪が今日も…」

ほらテレビも言っている、きっと銀色まばゆい君の町。
正確に言えば「君が今いる町」だろう、でも、きっと。

「ずっといたいよね…英二?」

呼びかけた名前ひとつ、唇に甘い。
ただ名前を呼んだだけ、でも甘い。
こんなふうなってしまった、君に。

―今ごろ奥多摩だよね…去年の今日は、僕も、

去年の今日、君に逢いに行った場所。
そこに今年も君はいるのだろう、去年のよう雪山に笑っている。
あの銀色まばゆい記憶ごと名前が甘くて、甘く痛んで周太は立ちあがった。

「…、」

言葉ひとつ呑みこんでダッフルコート羽織る。
マフラー巻きつけて鍵つかんで財布に携帯電話、ポケットに詰めて玄関扉を開いた。

かたん、

施錠して頬そっと冷気ふれる。
部屋の空気と違う温度たどって、階段くだるごと呼吸が凍る。

―奥多摩はもっと冷たいね…今年も、

都心の冬、それより冷たい奥多摩の今。
凍える大気に水はすべて凍る、雪の銀色に氷の蒼白。
もう滝すら凍っているだろう、そんな冷厳の稜線に君は今、きっと笑う。

「は…、」

呼吸ひとつ、凍える白に街路樹くゆる。
葉を落としたアスファルトの木々は寒々しい、でも根は春を蓄え待っている。
こんな都会でもたくましい、だから尚更どうしても記憶が森をたどりだす。

―あの森は雪の底だね、今…あのブナも、

ブナの大樹たたずむ森、あれは君の場所。

―落葉松の森をくぐって、大きな水楢、桂の木…それから苔のひろば、

記憶たどる森の道、錦秋いろどる黄金とモスグリーン。
蔦あざやかな深紅に蘇芳、朱色きらめく漆にナナカマド、青紫の星は竜胆たち。
色彩まばゆい深い秋の森、あの懐ふかく雪こめられて今、君は銀色の時間すごすだろうか?

「…は、」

白い息、都会の梢ゆれて消える。
あの森でも白かった息、冷たい風、でも温かに甘かった君の一杯。

「ココア…ごちそうさま」

そっと声にして秋が蘇る。
もう一年以上すぎてしまった記憶、古びた時間。
もう遠くなった秋の幸福、けれど香も温度も甘く瞬いて、去年の今日に重なってゆく。

『周太は俺にチョコレート、くれないの?』

低い綺麗な声が呼ぶ、ほら甘い。
こんなこと想いだす今日の名残に都会の道、銀色ちいさく舞う。

未来点景 soliloquy 秋を、君―another,side story
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未来点景 soliloquy 秋を、君―another,side story

2017-10-07 08:03:24 | soliloquy 陽はまた昇る
like Adamant
周太another,ss予告編@第85話+XX日


未来点景 soliloquy 秋を、君―another,side story

黄金かそけき、森の風。

「ん…、」

もう冷たくなった風ふれる、頬なでられ秋おとなう。
こんなに寒くなる山の10月、去年と違う日常に襟もとよせる。

「だいじょうぶかな…?」

ひとりごと首すじふれる、すこし冷たい。
提げたエコバッグかさかさ風ゆらす、その音に黄金が舞う。
光ふくんだ金色の映え、そんな帰り道をあおいで瞳そっと細めた。

「…きれい、」

まぶしい、だって黄金だ。

金色ゆらす枝さらさら響く、光こぼれて黄金が舞う。
まだ10月の初めで平地は緑、けれど今ここは金色そまる時が降る。

「…こんな空いつも見てたんだ、ね?」

ふらす黄金に想いこぼれる。
今あのひとはいない、それでも語りかけたくなる。
それくらい心交わしたのだと信じていて、そのまま唇に風があまい。

「ね…もっと上は黄葉すすんでる、でしょ?」

ひとり声がでる、あのひとに話したくて。
だって今ごろ黄金の森にいる、ここよりずっと輝く場所に。

“黄葉かなり染まりだしたよ、休みに一緒に登ろ?”

ほら、昨夜の声が笑ってくれる。
あの声も今こんなこと想うだろうか?それとも駈けているだろうか?
駈けて、駆けて、そうして日が暮れるとき帰ってきてくれるだろうか、今日も無事に。

「どうかぶじに…、」

ほら祈りが零れる、願いたくて。
この願い誰に告げているのだろう、この森だろうか、君の山だろうか?

それとも、それとも?ああ、そうだ、

「お願い、おとうさん…?」

呼びかけて祈って、面影そっと見る。
もう消えてしまった姿、それでも鼓動ふかく通っている。

『そうだ…山に行こうか、周?』

通う、遠い声が呼んでくれる。
おだやかな深い優しい声、この声をあのひとは知らない。
それでもどこか似ていて、だから想い出しては恋しくなる、そして軋む空白感。

「あいたいな…今、」

あいたい、逢いたい、今あなたに。
もう失いたくなんてない、ずっと。

「…ぁ、いたいな?」

声つまる、のど軋んで鼓動が絞まる。
ただ会いたくて逢いたくて恋しい、今夜にはあえるのに、帰ってくるのに?

帰ってくる、わかっているのに今こんなに逢いたいのは、たぶんきっと。

「っ…」

黄金がにじむ、青空ゆっくり金いろ霞む。
木洩陽ゆるやかに霞しずむ、瞳が熱い、頬ふれる風あまくなる。
あまい冷たい風なでて一滴、ひとしずくの熱やわらかに零れて、鼓動ふかく声が、

『周、わたしの宝物さん?』

想い出してしまった、あの声。

「…ぁ、」

黄金ゆるやかに青とける、霞んでしまう。
霞んで震えだす、歩いているのに膝ゆれて崩れだす。

「ぁ…っ、」

膝くずれる、森にひざまずく。
枯草あまく薫って膝うずめてくれる、梢かわす囁き降る。
黄金ゆれて木洩陽きらめいて、エコバックゆれる光に黒い波うつ髪を見る。

そうして思い知らされる、もう、僕には父だけじゃなく消えてしまった。

『周太、お願い。お母さんの我儘を訊いて?』

聴こえてしまう、声が。

『あなたが生き抜いて、この世と別れるとき。生まれて良かったと、心から笑ってね?』

聴こえてしまう聲、声、もういちど目の前で聴けたらいい。
それなのにもういない、もう、今ごろきっと父の傍にいる。

ああ聴こえてしまう、声、

『お母さんより先に、死なないで、』

どうしてあんなこと言ったの?
そう責めたくなる、でも叶えられて良かった、だけど、だけど、

「ぅ…お、か…」

もっと傍にいたかった、父の時間を埋めるほど。
けれど埋まることなんて不可能で、代わりなんてどこにもなくて、だからこそ傍にいたかった。

だって母の時間どうすれば埋まるのだろう?父の時間すら空いてしまった僕の時間は、どうしたら?

「っ…、ぅ」

熱こみあげる、喉をいたんで声も忘れて。
こみあげる熱が瞳あふれる、こぼれて頬つたって風が甘い。
梢さらさら交わす音、黄金ふる木洩陽の翳、エコバック波うつ黒髪の面影。

『最後の一瞬には笑うのよ?きっとその時、私は、お父さんの隣で、あなたの笑顔を見ているから』

聴こえてしまう聲、声、やさしい懐かしい。
けれど優しい分だけ鼓動を穿つ、痛くて首そっと振る。
こんなことで痛み止むわけじゃない、そんな視界に白い花ひとつ映った。

「…やまははこ、」

名前こぼれる、その唇が止まる。
今、こんな今この花を呼んでしまった、もう僕にはいないのに?

“山母子”

ヤマハハコ、この白い花の名に穿たれる。
だってずっと呼ばれていた、父が消えてからずっと、

『母子家庭って言われても気にしないのよ?だって母子ふたり生きていくのは悪いことじゃないわ、胸張ってもいいでしょう?』

優しいメゾソプラノ朗らかに笑う、明るい強い深い声。
あの声もっと聴いていたかった、でも消えて、その名残りが白い花。

『大切な一瞬を積み重ねていったなら、後悔しない人生になっていくはずよ。だから胸を張って前を見て?』

なつかしい優しい声、色白やさしい笑顔は凛と輝いていた。
あの輝きは底ふかい涙の光、その強さに自分は護られて、愛され育まれた。

「ぉ、か…さ、」

呼んで風ゆれる白い花、秋枯れても優しい山母子。
どうしてこんなものにまで見てしまうのだろう?
どうしたらいいのだろう、

「周太?」

呼ばれる声、けれど熱あふれて止まらない。
呼んでくれている、草踏む音、砂利、駆けてくる足音の風。
ああ誰かくる、涙ぬぐわないと、でも膝くずれたまま黄金の霞しか見えない。

「しゅうたっ、周太、」

呼んでくれる声、低く透って響いてくる。
けれど喉あふれて答えられない、ふるえる唇に動けない。
鼓動ふかく熱あふれて瞳こぼれて、けれど温もりくるまれた。

「周太、しゅうた…、」

呼んでくれる、温かい。
ただ優しい温度くるまれる、背から肩ふれて腕を胸をつつむ。

「しゅうた…周太、」

頬ふれる吐息が囁く、低く透って優しい声。
たしかな温もりくるまれる、そして鼓動が響いた。

「…ぁ、」

ことん、ことん、鼓動が聴こえる。
おだやかで強い深い音、この響きよく知っている。

「周太…泣いていいよ?俺がいるから、」

低く透って優しい声、よく知っている。
ああそうか、あなたが駆けてきたんだ?

「ぇ…いじ、ど、して?」

どうして今ここにいるの?

そう訊きたいのに声が変だ、喉あふれる熱きしむ。
それでも見あげた真中、切長い瞳がやわらかに微笑んだ。

「もう帰るとこだよ、今日は早退にしたから、」

ああ、そうか?

そんな納得ことんと落ちて、その温もり鼓動ふれる。
ふれて温かで緩められてしまう、そして声こぼれた。

「ぁ…ぃたかった、ぇぃ…」

声あふれて想い噎せる、熱になる。
ほら瞳が熱い、ゆれる黄金あふれて切長い瞳が映る。
この瞳にあいたかった、会いたかった逢いたかった、その想い抱きしめた。

「え、いじっ…、」

逢いたかった今あなたに、今このとき、この温もりに。
こんなに温かい、こんなに鼓動が響く、温度に音に命が通う。

「俺も周太に逢いたかったよ、だから帰ってきたんだ、」

抱きしめてくれる声、こんなに深く静かに温かい。
おだやかな鼓動ふかく強い、抱きしめてくれる温度こんなに強く離れない。

「一緒に帰ろう、周太?」

抱きしめてくれる言葉、この声で聴きたかった。
もう失いたくない、喪いたくない、どうか傍に。

「ん…かえろう?」

傍にいて?


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未来点景 soliloquy 微睡の庭で―another,side story

2017-08-24 14:53:00 | soliloquy 陽はまた昇る
The Winds come to me from the fields of sleep,
周太another,ss予告編@第85話+XX日


未来点景 soliloquy 微睡の庭で―another,side story

君を待つ、眠りの水面。

「…ん」

瞑らす闇あわく光る、木洩陽きっと瞼の上。
ゆらゆら微睡む光の影、この影いくつ数えたら逢えるだろう?

“いってきます”

笑って君は扉を開けた、庭木立あの門をくぐり山へ発った。
木洩陽ゆれた輪郭まぶしい緑、あの横顔いくども描いて眠りに見る。
緑きらめく横顔すこし振りむいて、そうして門のかたわらガレージ空になった。

あの場所が埋まる時を待っている、いつものベンチ緑ゆれる夢。

「…まだお昼だ、ね?」

瞼の木洩陽に時つぶやく、ほら?ひとりごとすら待ちわびる。
瞑った明滅ゆれる光に時を読む、君が帰るころには光あわいだろう。
こうしてベンチ座るまでには来ない、それでも、もしかしたらと居眠り揺れる。

“ただいま”

その声を聴きたい、君の声で。
この頬ふれる風が涼しい、この温度が君の指になれ。
やわらかな甘い樹木の香、この芳香が君くゆる香になれ。

君は帰る?森から、僕の隣に。


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未来点景 soliloquy 堕天使―another,side story

2017-02-08 01:52:10 | soliloquy 陽はまた昇る
prelude of Tisiphone
周太another,ss予告編@第85話+XX日



未来点景 soliloquy 堕天使―another,side story

君を追う、だって椿が咲いた。

「…っ、」

駆け下りる階段に足が跳ぶ。
一段とばし駆けて、駆けて、古材ステップ軋む。
それでも追いつかない玄関ホール、あった革靴を履いて呼ばれた。

「周太くん?シャツ一枚じゃ寒いわよ、」

落ち着いた深いアルト、でも驚いている。
その眼ざし背中のまま扉を開いた。

「待って!周太くんっ、」

アルトが呼ぶ、でも待てない。
だって椿が咲いてしまった、見つけた一通のままに。

「…しゅうたくんっ、…」

駆ける、アルトが遠く遠く呼ぶ。
飛石を駆けて芝生を踏んで、青草やわらかな香に深紅が燈る。
駆けても視界こまやかに深紅がゆれる、あの花に君が残した謎、その一通が。

―…この椿でいいかな、周太?

深紅に記憶が問う、もう遠い春の聲。
あのとき幸せだった、君の隣で春を見ていた。

「…っ、」

がたんっ、

門を押し開けて道、でも深紅まだ燈る。
視界のはしっこ花はゆれる、深く黒いのに透ける紅。
あの花は君に似合うと想ってしまった、その言葉も知らないで。

―…知ってる周太?この花の意味、

記憶が笑う、きれいな綺麗な笑顔。
あの笑顔まだ間に合うだろうか、黒く染まってしまう前に?
願い掌一通ごと握りしめて、駆けだす道に一通の手が映る。

―…山で生きたいんだ、山で命を救って、

白皙の笑顔、きれいな綺麗な笑顔、その手も美しい。
長い指の手あちこち傷痕うかぶ、火傷、裂傷、無数の傷。
その傷すべてが命の軌跡、君の誇りで、そして君が生きた時間。

「…えいじっ、」

呼んで、願う。
どうか春告げる花、紅いままで。


紅椿の花言葉“You’re a flame in my heart 君は僕の心臓に燈る炎


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未来点景 soliloquy 冬夜待人―another,side story

2017-01-23 23:10:37 | soliloquy 陽はまた昇る
待ちぼうけ、それでも。
周太某日@第85話+X日後


未来点景 soliloquy 冬夜待人―another,side story

数えているうち眠りこむ、君がいない夜。

「…ん、」

浮かびあがる、ゆるやかに明るむ。
うずもれる温もり頬ふれる、やさしい緑深い艶、ふるいけど懐かしい天鵞絨の波。
クッション波うつオレンジの光、かすかな甘い深い香、そのむこう暖炉の彫刻が光る。

「ねちゃった…ね、」

ひとりごと瞬いて、クッションそっと抱く。
緑やわらかに波うねる、しずかな光沢そっと温かい。
いつのまに眠ったのだろう?寝ころんだソファに時計が鳴った。

振り子、11回。

「遅い、ね、」

音の時刻つぶやく、めぐらす瞳に文字盤が遠い。
そっと瞳細めて、あと1時間の今日に扉が寂しい。

「…、」

腕を伸ばす、つかんだスマートフォンの画面なぞる。
でも着信なにもない、ただ見つめる風景写真に送り主を想う。

―どうしたのかな、こんな時間まで…なにも連絡ないなんて、

連絡がない、でも、珍しくない。
こんなこと日常のひとつ、それでも待ちわびる癖が治らない。

―だって…笑顔でいつも言うんだもの?

心つぶやく、君のこと。
だって今朝もそうだった、君は笑顔で言って出たんだ。

『早く帰りたいよ、今日こそはさ?』

今日こそは、

そんなこと言うから「今日こそは」と待ってしまう。
そうして数えてしまう古い木彫は、今夜も暖炉なつかしく縁どる。

―…いくつあるか周太は知ってるかい?

ほら記憶の声が訊く、待ち人とは違う声。
でも似ている、どこか似ているから今夜も幼くなる。

―…この暖炉の彫刻、意味がある数を彫ってあるんだ…いくつあるか知ってるかい?

やさしい優しい穏やかな声、幼い自分が見あげる声。
やわらかな緑のクッション抱きしめて、隣、優しい切長い瞳が微笑む。

―…数えてごらん周太、僕も自分で数えたんだ…僕のお父さんに言われて、ね?

だから数えてしまう、座るたび。
もう薪くべることない暖炉、ただ置かれたストーブが温もり醸す。
けれど数えることは昔のままで、そうして今夜も数えて眠りこんで、そんなひと時は逃避かもしれない。

だって泣きだす、待ちわびた記憶が。

「もう…早く帰ってこないから、」

唇がとがる、文句つい口ずさむ。
それでも解っている、あのひとだって帰りたい、だから、

「…ん?」

音、いま音がした?

音ひとつ遮って文句が止まる、何の音だろう?
音、あ、家の中どこかで、

「え…」

水音、そうだ水の音。
なにか水から出るような?そんな音に見つめる扉、ほら、また。

「…、」

ひそめた息に音が響く、木が軋む、扉の音?
扉が開いて閉まる、それから軋む床音に静かな足音。

「え?」

なぜ、?ほら、疑問にドアノブ光る、回る。

「お、周太おはよ?」

低い声きれいに響く、かたん、扉が閉じる音。
まだソファ寝ころんだ横倒しの視界、タオル被った長身ふりむいた。

「ただいま周太、起こしちゃってごめんな?寝顔すごく可愛かったよ、」

タオルの翳から瞳が笑う、切長い瞳が笑ってくれる。
濃やかな睫きれいで、けれど唇つい尖んがった。

「おかえり…かわいいいわれてうれしいとしじゃありません、僕も男ですから、」

ああもう、どうしていつも僕はこう?

「男とか関係ないだろ?可愛いよ周太は、」

ほら切長い瞳おだやかに笑う、どうして君はいつもこうなの?
こんなだから数えて待ってしまう、こんな日常いつもにクッション抱えこむ。

「かんけいあります、あのね英二?いい歳した男がかわいいって変でしょ、恥ずかしいでしょ?」

常識の盾かまえる、だって惹きこまれてしまう。
どうしても君のペース防ぎたい、けれど、ほら君は、

「恥ずかしくないよ周太、本当のこと言うって恥ずかしいことじゃないだろ?」

ほら、またそんなこと言うんだ?

こんな君だから今日がある、この家で君を待つ羽目になった。
こんな夜いくど座りこんだろう?なんだか悔しくて、けれど大好きな声が言った。

「周太、こんな時間だけどコーヒーつきあってくれる?淹れたい気分なんだ、」

コーヒー、ほんと「こんな時間だけど」だ?
こんな深夜の提案に呆れ半分、心配のまま唇とがらせた。

「こんな時間にダメです、しっかり眠って明日に備えてください、救助隊員が寝不足なんていけません、」

睡眠、その不足が命とりになる。

そんな任務に生きる素足が床を踏む、伸びやかなスウェット脚が長い。
タオルひるがえす白皙は端正で、まぶしくなる。

「…そんなえがおしたってだめです、」

そっぽむく、だって惹きこまれる。
こんなふう巻きこまれたら負け、負けたくなくてクッション抱きしめる。
けれど湯の香ふっと頬ふれて、とん、ソファやわらかに弾んだ。

「ダメじゃないよ周太、明日は休みだから、」

ほらまたそんなこと言って、って、あ?

「…やすみ?」

問いかけ振りむいて、タオルの翳に瞳逢う。
見つめられる湯の香に君が匂う、ほろ苦い深い、でも甘くとける。

「そうだよ周太、今夜はのんびりできるよ?周太も明日は休みだろ、」

濃やかな睫が笑う、切長い瞳まっすぐ弾む。
楽しくて仕方ない、そんな笑顔の香なつかしくて、ほどかれる。

「たまには夜更かしいいだろ?周太が好きそうなワイン買ってきたんだ、甘いやつ。」

きれいな瞳が笑いかける、この笑顔ずっと好きだった。
だから思ってしまう、夜更かしもきっと楽しい。

「だから周太、今夜は俺につきあってよ?周太とのんびりしたいんだ、」

きれいな低い声が近づく、タオルの翳から視線が捕える。
きれいな瞳が惹きこんで、見惚れて、ダークブラウンの髪タオルこぼれる。

「ね、周太?今夜はつきあってよ…朝まで、」

ダークブラウンの艶こぼれる、濡れた髪を瞳が透かす。
タオルこぼれる腕なめらかな隆起、肩、また逞しくなった白皙まぶしい。
こんなふう何度もう惹きこまれたろう?見惚れて、ぱさり、タオル落ちて叫んだ。

「っ、だめですふくきてばかえいじっ、」

ああもう君はいつもこう。

(to be continue)



周太と英二の休日番外・冬編、笑
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未来点景 soliloquy 秋の午後―another,side story

2016-10-23 23:57:34 | soliloquy 陽はまた昇る
願い来れば、
周太某日@第85話+X日後



未来点景 soliloquy 秋の午後―another,side story

黄金色やわらかに風なびく、頬もう冷たい。
いつのまにか涼しくなった、そんな街路樹の道に黄葉がふる。

それからほら、君の声。

「待ってよ周太、なんか怒ってる?」

低い声きれいに響く、この声も好き。
だからこそ腹立たしくもなる、つい許してしまいそうで。

―だけどたまにはお灸すえないと…英二すぐ調子のるもの、

ほんとうに、どうして君はいつもそうなんだろう?
今日も困らされて足早になる、レザーソールかたことアスファルトゆく。
この道こんなふう前も歩いた、ふたり一緒に出掛けた初めてから何度も。

―最初の日って…そうだあのとき、

ほら記憶かたこと革靴に鳴る。
あのときも急いで歩いた、君に腕を掴まれてこの道ずっと。

「周太、」

またつかまれる腕、ほら君の手。
からむ長い指ニットを透かす、掌おおきく温もり沁みる。

ほら、あのときと同じだ。

「…腕、痛いんだけど、」

あのときみたいに言ってみる、きっと君は憶えていないけど。
そのままに見上げた真中、切長い瞳おだやかに笑った。

「ごめん周太、これならいい?」

大きな掌そっと腕ほどく、温もり離れてしまう。
あのときは離れなかった腕、その長い指が手をくるんだ。

「周太、ちょっと買い物つきあってくれる?」

つながれた手そっと引いてくれる。
くるまれる掌やわらかに温かい、その肌が記憶と違う。

―ザイルで硬くなったんだ、ね、

初めて手を繋いだ日、あれから君は変わった。
その歳月が掌にわかる、積まれた努力が君の手に厚い。

「段差あるよ周太、」

呼ばれて見た足元、レンガ洒落たステップ踏む。
どこか店に着いたらしい?ひかれた手に扉くぐって瞬いた。

「…あ、」

ここって、そうだ。

「いらっしゃいませ、あら?」

ほら、あいさつの笑顔もやっぱりそう。
懐かしいまま隣がきれいに笑った。

「おひさしぶりです、見せてもらいますね?」
「どうぞ、冬物も入っていますよ?」
「ありがとう、」

端正な白皙が笑う、やさしい笑顔が手を引いてくれる。
大きな手つながれたまま階段を上がり、記憶の場所に着いた。

―やっぱりここだ、ね?

マホガニーの床、ダークブラウン革張りソファ。
深い栗色のカーテン天鵞絨やさしい、ブラウン上品な空間にならんだ服。

「周太、これどうかな?」

かたん、大きな手がハンガーとる。
ふわり淡いブルー広がらす、やわらかなニットに切長い瞳が笑う。

「うん、似合うな?次これかな、」

端正な唇ほころばせ次、シャツひるがえって肩ふれる。
コットンやさしい藍色ギンガムチェック、それからブルーグレイまた当てられる。

「このニットもいいな、衿元と袖ぐりの紫が映える、」

切長い瞳が微笑む、濃やかな睫の陰翳きらめく。
とても楽しそう、そんな穏やかな笑顔きらきらハンガーとる。

「こっちも似合うよ周太、ブラックに見えるけど濃い紫だな。ジャケットどれにしようか?」

大きな手またハンガーとる、きれいな色そっと肩ふれる。
いくつも合せられる素材、色彩、そうして切長い瞳が笑う。

「周太?どうして何も言ってくれないんだろ、」

あ、困った顔してる。

「…どうして、って…かってにみるんだもの、」

ああ声つい出てしまった、お灸すえるつもりだったのに。
もう零れてしまった声に白皙の笑顔ぱっと咲いた。

「やっと喋ってくれたね周太、ごめんな?」

ほら笑顔すごく嬉しそう、でも「ごめんな?」は本当だろうか?
いつもの笑顔と台詞に長身の笑顔を見つめた。

「ごめんなって…英二、わかって言ってるの?」
「勝手に見るって、さっきのメールだろ?ごめんな周太、」

謝ってくれる、その言葉ちゃんと正解だ。
けれど本当だろうか?疑わしいままライトグリーンひるがえる。

「このシャツもいいよ周太、チェックの色合わせが洒落てる。このパンツとニットと合わせてさ、」

大きな手がハンガーとる、マホガニーのテーブルに色彩ならぶ。
もう何着めだろう?選ばれていく服たちに口開いた。

「あのね英二、服よりも僕…ぷらいばしー守ってくれる気持ちがほしいよ?」

本当に困る、勝手にメール見るなんて。
もう何度も困らされて、けれど端正きれいな笑顔ほころんだ。

「それくらい俺、ほんと嫉妬深いんだよ周太?もっと周太がかまってくれたら止められると思うけど、」

ああもう、またそんなこと言うんだから?

いつもそうだ、こんなこと言われて困らされてしまう。
ほら首すじ熱昇りだす、もう火照りだした頬さすり訴えた。

「…だからおかまいしています、これでも…ぼくなりせいいっぱい、です」

ああ、もう、またお灸けっきょく据えられない。
こんなこと何度も繰り返して、そして今日も笑ってくれる。

「かわいい周太、大好きだよ?」

ほら君が笑う、記憶の場所で記憶よりも幸せに。


(to be continue)

周太と英二の休日番外編、笑
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未来点景 soliloquy めぐる秋に、―another,side story

2016-09-30 00:10:10 | soliloquy 陽はまた昇る
For all sweet sounds and harmonies あまい香も聲も、
周太某日@第85話+X日後



未来点景 soliloquy めぐる秋に、―another,side story

ちいさな日常ちいさな喧嘩、その始まりは君。
だって遅れてきたくせに、いきなりその質問?

『おまたせ周太、そのメール誰?』

こんな質問ほら、あれだ、プライベートの侵害?
つい睨んだテーブル越し、白皙の笑顔きれいに言った。

「遅れてごめんな周太、これでも走ってきたんだけど許してくれる?」

ずるい、その笑顔。

―ついゆるしたくなっちゃう、ね…きれいで、

切長い瞳ふちどる睫こまやかな陰翳、あの翳り哀しそうで。
白皙なめらかな輪郭シャープに削ぐ、そのライン凛々しくて見惚れてしまう。
特にほら、顎から首すじ凛々しいライン、シャツの襟元あざやかな鎖骨のくぼみ、まるで彫刻のよう惹きこまれる。

もう言いなり全部ゆるしてしまいたい?そんなカフェの窓辺、マグカップに白皙の指ふれた。

「これココア?ひとくち飲ませてよ、周太?」

長く細い指がマグカップからむ。
そんな仕草ひとつ綺麗で、つい惹きこまれかけて首ふった。

「だめ、英二は英二で頼んで?」
「俺は俺でオーダーしたよ、でも今すぐ飲みたいんだ、」

言い返してくれる低い綺麗な声。
見つめ返す瞳も綺麗で、つい見惚れてマグカップ盗られた。

「あ、」

声が出て、でも手が出遅れる。
そのまま白皙の手はマグカップかたむけ、凛々しい唇そっと口つけた。

ほら?首すじもう熱い。

―だめこんなのいしきしちゃだめ、でも、

意識してしまう見てしまう、あの唇。
こんなこと馬鹿みたいだ?そう解かっているのに逆上せて熱い。
こうなると解かっているから止めたい唇、けれど勝手に飲んでしまった笑顔ほころんだ。

「ほっとするな、あまいのも良いね周太?」

きれいな低い声が笑ってくれる。
こんな声ほんとうに大好きで、つい頷いた。

「ん…あまいのもいいよ?」
「そうだな、周太なんか甘いもの頼んだ?オレンジケーキとか美味そうだよ、」

笑ってメニュー広げてくれる。
指さす白皙あいかわらず綺麗で、でもどこか逞しくなった。

―きっと山だね…毎日の訓練でザイル繰って、

出逢ったころ、長い指は節くれ一つなかった。

―苦労知らずの手って思ったな、おぼっちゃまのクセにって…はらがたって、

なめらかな白皙の手、細く長い美しい指。
傷ひとつない手に育ちから全て見えるようで、けれど今はもう違う手。
いくども豆潰し、火傷も負い、薄れてはいるけれど無数の傷痕が刻まれた手。

―こんなだから憎めないんだよね、こんな…遅刻されても、ね?

どうして今も遅れたのだろう?
なんて話してくれるまで訊かない、でもそれでいい。
そんなふう想えるほど時間いくつも重ねた相手は綺麗な笑顔で言った。

「それで周太、さっきのメール誰?」

やっぱり訊くんだね?ああもう台無し。

「かんけいないでしょ?」

ほら言い返してしまう、だから訊かれたくないのに?
こんな面倒リンクの始まりに綺麗な低い声が笑った。

「関係あるよ周太、周太の予定が解からないと俺も困るだろ?」
「こまるって、なにが困るの?」

また言いかえす、マグカップ取り返し抱えこむ。
口つけかけて、ふっと馥郁かすかな甘さに首かしげた。

「…英二、香水を変えたの?」

いつもと違う甘い香、これは君の匂いと違う。
けれど知っている甘い香に大好きな声が笑いかけた。

「変えてないよ?たぶん花じゃないかな、」
「…花?」

尋ねて見た先、白皙の笑顔が窓を見る。
切長い瞳の視線そっと追いかけて、懐かしいオレンジ色に微笑んだ。

「ん…きんもくせい咲いたんだね、」

あまい芳香やわらかに咲く、この香は秋を呼ぶ。
あまい風さわやかに頬ふれて、すこし開いていた窓に笑ってくれた。

「そうだ、キンモクセイだったな?匂いは憶えてたんだけどさ、」
「記憶に残る香だよね、金木犀…いいにおい、」

微笑んだ唇そっとあまくなる。
風かすめる甘さにマグカップ口つけて、ひとくち甘くて息呑んだ。

―あ、かんせつきす?

ああどうしよう、同じマグカップ口つけてしまった。
気恥ずかしくて、もう熱い首すじ掌そっと隠しこんだ。

―だからだめっていったのにえいじったらもう、

心裡つい文句ながれる。
でも声にできない気恥ずかしさに綺麗な低い声が言った。

「周太の予定がわからないと俺、困るよ?予定を考えないといけないだろ、飲みいくなら誰とどこなのか教えて周太?」

また話が戻るんだ?
飽きず廻らされる会話にタメ息こぼれた。

「予定って…別にいいでしょ?英二いつも帰り遅いんだから、」
「俺のが遅いかもしれないけどさ、でも夜の予定は大事だろ周太?」

すぐ言い返して見つめてくれる、この眼ざしに揺らぎそう。
だって睫こまやかな陰翳が綺麗だ、つい惹きこまれそうで首ふった。

「…しつこいえいじ、」
「しつこいよ俺は?周太にそれだけ夢中だから、」

さらり言い返してくれる、その言葉に熱また逆上せだす。
こんなに赤くなるなんて恥ずかしい、唇そっと噛んだまま言われた。

「周太は酒弱いだろ?俺が迎えにいかないといけないし、飯も俺一人になるしさ、夜のこともあるから教えてよ周太?」

たしかに自分はアルコールに弱い。
たしかに迎えに来てもらうかもしれない?納得して、けれど止まった。

「…よるのこと?」

それ、何のことだろう?
立ち止まった思考に綺麗な声が笑いかけた。

「飲みすぎた夜はセックスよくないだろ?だから前の晩にしとかないといけないからさ、いつどこで誰と飲むのか教えてよ周太?」

ああもうなんてこと言うんだろうこんな場所で?

「……もうしらない、」

かたん、

椅子が鳴って立ちあがる、だって顔こんなに熱い、きっともう真赤だ。
こんなの恥ずかしくて、読みかけの本と鞄つかんで見おろして告げた。

「おかいけいしといてえいじ、じゃあね?」
「え、待ってよ周太?」

がたん、椅子もうひとつ鳴る。
立ちあがった長身はシャツさわやかで、その困り顔も綺麗で見惚れたくなる。
こんな顔いつも毎日ずっと見ていたい、そんな想い見つめながらもカフェの片隅、そっぽ向いた。

「さきにかえってるから、」

先に帰っている。

そう言える日常なんて、ありふれている。
だけど自分には大切で、愛しくて、得難かった今に扉を開いた。

同じ帰り道へ、君と。


(to be continue)

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未来点景 soliloquy めぐる秋―another,side story

2016-09-29 22:00:20 | soliloquy 陽はまた昇る
The day is come when I again repose 安らぎの再来を、
周太某日@第85話+X日後



未来点景 soliloquy めぐる秋―another,side story

いつかと願っていたのは、ごくふつうの日。

「…まだかな?」

ひとりごとページ零れて窓を見る、空が青い。
見あげる梢は金色ゆらす、もう黄葉の季が訪れる。
昨日までは夏の陽ざしも今は澄んで、きっと風さわやかに涼しい。
だって街ゆく誰もが長い袖、シャツ一枚の短い季に週末がさざめいている。

ほら、ふつうの風景。

―でも新宿はまだ暑いのかな…川崎も、

なつかしい地名なつかしい気候、でも今は遠い。
遠くなってしまった懐かしい場所、それでもう良いと解かっている。
それでも鼓動ふかく欠片まだ疼くのは、帰りたい願いがあるのだろうか?

―どうしているのかな、みんな…深堀と柏木さん元気かな、瀬尾も…伊達さんも、

めぐりだす名前に懐かしい、そして最後の一人。
あの人にまた会えるのだろうか、もう生きる世界が違ってしまった人。
それでも繋がり全て忘れるなんて出来なくて、その証拠がスマートフォン揺らした。

「あ…、」

受信の画面そっと開いて、ほら懐かしい名前。

From:箭野孝俊
件名:春からよろしく
本文:湯原の後輩になるよ、学部は違うけどよろしくな。

「よかった…、」

うれしくて微笑んでしまう、この人と毎日また会える。
こんな日常が続いたらいい、もう数年前とは違う今に指先なぞった。

To :箭野孝俊
本文:合格おめでとうございます、同門になること本当に嬉しいです。
   お祝いに飲みいきませんか?ご都合また教えてください。

「ん…、」

指先そっと送信ボタンなぞる。
送られたデータ確認して、かたん、目の前の椅子が鳴った。

「周太、それ誰と飲みいくって?」

低い綺麗な声、でも不機嫌。
そんなトーンに顔上げた先、切長い瞳が見つめていた。

「おまたせ周太、そのメール誰?」

あ、面倒なことになりそう?
そんな待ち人の声につい言い返した。

「…質問の前に英二、遅刻したのに言うことそれだけ?」

ほら言い返した、これも今の日常。
こんな日常が幸せで、だから今、ささやかな幸せの喧嘩しよう?


(to be continue)

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soliloquy 夏の一睡―another,side story

2016-08-05 22:53:11 | soliloquy 陽はまた昇る
露の干ぬ間に
周太某日@If子供時代



soliloquy 夏の一睡―another,side story

もしもあなたがずっと傍にいたのなら、違う今だった?

「しゅーうたっ、あーそぼー、」

澄んだ声、そのくせ落ちついて大人びる。
この声なぜか知っていて、そっと開いた視界に天窓が青い。

「しゅーたっ、しゅうたー雨やんだよーあーそーぼーっ、」

ほら呼んでくれる、この声は好き。
好き、けれどすこし怖くて起きあがっても立ちたくない。

「しゅうたー、いるんだろー、窓開いてるよ周太ー、」

澄んだ落ちついた声が笑ってくる。
そのとおり出窓は開けっ放し、それでもタオルケットくるまった。

「しゅーうーたっ、どんぐり拾いにいこー、」

あ、それいいな?

「ん…、」

釣られて眼をこすり立ちあがる、でもタオルケットは離せない。
するする青色ひきずって窓辺、見おろした庭でランドセル姿が笑った。

「周太っ、しゅーうーたっ、公園いこーよー、どんぐりすごいぞーっ、」

ぶんぶん振ってくれる手が白い。
まだ子供、そのくせ大きな手に周太はため息吐いた。

「…ぼくよりずっと大きいんだもの、」

窓の桟つかむ自分の手、その指は短くて丸い。
けれど庭から振られる手は指長くて、シャツ白い腕も長い。

「しゅーうたー、降りてこいよー、雨あがりきもちいいぞーっ、」

手を振ってくれる無邪気な笑顔、でも背が高い。
同じ齢のはず、それなのに頭ひとつ分ずっと高い。

「…いつも見おろしてくるんだもの、」

つぶやいて胸ちりっと疼く。
あの身長いつも羨ましい、あの大きな手も。
足だって自分より大きい、それから大人びたあの声。

「しゅうたーっ?どんぐりだぞーくぬぎがいいぞー、いこうよーっ、」

あ、くぬぎなんていいな?

「でも…、」

でもダメ、だけどクヌギのドングリは好き。
ちょっと誘われてしまう、それでもダメな理由を澄んだ声が呼んだ。

「しゅうたーもしかしてさーっ、るすばんなのかー?」

それ大きな声でいっちゃダメでしょ?

「…ほんとこまるんだもの、」

ほんとうに困る、いつもそう。
いつもこんな調子ふりまわされて、でも窓から離れられない。

「るすばんならさーしゅうたーっ、俺もまぜてよーっ?」

ほら、まぜて、だなんて。

「…ほんとずるいんだもの、」

本当にずるい、まるで分かってるみたいだ?

「るすばんならさー俺もまぜてよーしゅーうたっ、すみれさんのスコンもってきたぞー、」

おやつまでもってきた、こんなのずるい。

「…ぼくのすきなものまで持ってくるんだもの、」

好きなお菓子、好きな声、そして「るすばんまぜて」だなんてずるい。
こんなのいつもずるい、ずるくて胸ちりっと疼いて、それなのに声が。

「しゅーうーたっ、げんかん開けないんならいくぞー?」

いくって、え、帰っちゃうの?

「…っ、」

帰っちゃうの?そんなの待って。
想い窓また見おろして、けれどランドセルの少年もういない。

「あ…、」

帰っちゃった?

「…、」

帰ってしまった「まぜて」って言ったのに?
こんなふう消えられてしまって胸きゅっと絞まって、ほら痛い。

「…ぼくのばか、」

ほんとうにばか、こんな僕。
こんなに痛いくせ帰らせてしまった、こんなに痛いほど「まぜて」がほしい。
欲しいくせに応えられなかった動けなかった、こんな臆病そっと咬みつかれて瞳こぼれた。

「ぅ…、」

ほら窓がにじむ、青い空あわく薄くなる。
見つめる庭木立も深緑あわい、緑ぼやけて薄れて色が消えてゆく。

ほら色が薄れる世界が薄れる、あの声ひとつ消えてしまったせいだ。

「…ごめんね、えぃ…」

しゃくりあげて名前も言えない。
ほんとうは呼びたかった、呼んで「まぜて」したかった。
それなのに応えること出来なかった臆病が疼いて、けれど呼ばれた。

「しゅうーた、スコン食べよ?」

え?

「…、」

瞬いた真中、ほら笑顔が。

「木登りしたら腹へったよ、牛乳だしてよ周太?おやつしようよ、」

ほら切長い瞳が笑う、子供のくせ大人びた眼。
濃やかな睫の陰翳あざやかに白皙を映える、子どものくせ整った頬。

「どうした周太?靴ならちゃんと脱いだから安心してよ、」

ほんとだ、黒いソックスの足。
黒ソックス端正な制服の脚は伸びやかで、見おろしてくる笑顔やたら綺麗だ。

「なんか熱っぽい顔してるな周太?周太の学校も登校日だったろ、休んだのか?」

きれいな笑顔すっと近づく、白皙の指そっと額ふれる。
ふれて指の輪郭が長い、すこし甘いほろ苦い香ふれる、この匂いも好き。

でも好きだからほら、そっぽ向く。

「かんけいないでしょ…なんでかってにまどからはいってくるの?」

ほら唇また勝手に動く、つっけんどんな自分の声。
こんな言い方なぜだかしてしまう、その唯一の相手はきれいに笑った。

「周太もじもじしてたろ?もじもじ周太かわいいから見たかったんだ、ほんと周太ってかわいいよな?」

ほらまたこんなこと言う。

「…かわいくなんかありません、おとこにかわいいとかへんなこといわないで?」

ほんと変なコト言わないで?だって心臓ひっくり返る。

「かわいいのは変じゃないよ周太、俺は好きだよ?」

ほら「すき」って?

「…だからそういうことかんたんにいわないで、ほんとへんたいちかん、」

ほんと簡単に言わないで、だって心臓ひっくり返る。

―それに僕ばっかりきたいしてるみたいで、

自分ばっかりだ、いつもこんなふう。

いつもこんなふう心臓ひっくり返る、疼いて痛い。
君がいつも疼かせる痛くさせる、ずるくて痛くて、だけど。

「周太のヘンタイチカンってかわいいよな、もっと言ってよ周太?」

ほらまたからかうんだ、本当にずるい。
こんなだから怖くて応えられなくて、ほんとうに本当に君はいつも、

「…ばかえいじ、」

でも、いつも好きで。



周太と英二が子供時代に出逢ってたら?の短篇です、笑


周太と英二もスマホで押せます↓笑
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soliloquy 初夏の夢―another,side story

2016-07-06 22:53:12 | soliloquy 陽はまた昇る
君は知らねど、
周太某日※念のためR18(露骨な表現はありません)



soliloquy 初夏の夢―another,side story

どうしよう、こんな夢?

「…、」

ああ声もでない解からない、だって恥ずかしすぎる。
こんな夢こんなふう見てしまった、こんなこと一体なんの深層心理?

―どうしようこんなの…僕ってよっきゅうふまん?

ああ恥ずかしいそんなんだったら?
だって知られたら何を想われるだろう?

―英二は昨夜すごく大変だったのに僕ったらこんな夢…なんでこんな、

途惑って困って首すじ逆上せる、だって申し訳なさすぎる。
こんな自分を知られたら嫌われる?哀しくて頬熱くて、寝返りうって声がでた。

「…え、いじ?」

白皙の寝顔すぐ至近距離、安らかに寝息やさしい。
ずっと見なれた寝顔は美しくて、けれど意外で枕そっと隔てた。

―なんでいるのえいじ救助で徹夜っていってたのに…?

帰られない、そう連絡くれた独り寝だった。
それなのに目の前たしかに寝顔よりそう、驚いて、けれど嬉しい。

「…おかえりなさい、英二?」

手そっと伸ばして髪ふれる。
ダークブラウンさらさら指こぼれて、寝顔きれいで微笑んだ。

「…おつかれさま英二…よく眠って…?」

あれ?なんで英二ったら裸なんだろう?

―…疲れてシャワーそのまま寝ちゃった、かな?

ブランケット素肌のぞかせる、その白皙まばゆい。
朝陽はじく肌理なめらかで、筋肉ゆるやかな稜線つい惹きこまれる。
シャープに研がれた肌つい見惚れて、けれど小さな紅い痣に止まった。

「…ぇ?」

なんで英二、そんなとこ痣つけてるの?

「…っ、」

どうして痣なんでそんな?
そんな疑念もたげだす、昨日ほんとは何していたの?

『もう周太だけだよ周太、だから…信じて周太?』

そう言ってくれた、だから今こうして同じ家。
それなのに痣がついている、裏切られてしまった想い枕投げた。

「っ…いてっ?」

眠たく唸る、でも低く綺麗な声。
この声ずっと好きだった、けれど赤い痣に周太は睨んだ。

「えいじ…ゆうべはおつかれさまタノシカッタミタイダネ?」

ほんと「おつかれさま」だ?
想い睨みつけた視界ゆるく滲みだす、その真中で切長い瞳が瞬いた。

「ただいま周太、楽しかったってなんで?」

わからないな?

そう見つめてくれる瞳は睫が濃い。
こちら向く肩の稜線なめらかに綺麗で、見惚れそうで、けれど周太は睨んだ。

「…きゅうじょって言ってたけどその痣って救助でつくのと違うよね…なんでそんな」

あ、声が詰まってしまうだって哀しい。

―嘘を吐かれるなんて嫌だ…こんなばれる嘘なんで?

嘘は吐かない、そう約束してくれた。
けれど今こうして嘘を吐かれる、だったら、どうせなら知らないままでいたい。
そんなこと想うほど臆病に怯んで卑屈で、哀しいままブランケットもぐりこんで息止まった。

「…え?」

なんで、どうして僕いま裸なの?

「そうだよ周太、この痣って周太がつけてくれたんだよ?」

待って声なんて嬉しそうなの?

「昨夜、帰ってきてこっそりベッド入ったんだけどさ?周太すぐ抱きついてくれて、せがんでくれて嬉しかったよ?」

ちょっと待ってあれ夢でしょ夢だから恥ずかしがってたのに?

「周太すごく色っぽかったよ…続きしていい?」

あああああちょっと待って追いつかない、

「いてっ?!」

ぽふんっ、

枕が唸って隣が唸る、羽根ふわり舞いあがる。
白いカバー散った白い羽根、白ひるがえる朝陽に恋人が笑った。

「照れてる周太?かわいいね、」

ああもう余裕の笑顔してくれるんだから?

「か…ってになにしてくれてんのっえいじっ!」

声がでる、でも言葉きっと矛盾だ。
だって昨夜の夢は「勝手に」じゃなかった、そのとおり低い声きれいに笑った。

「勝手じゃないよ周太?昨夜は周太からキスしてくれたよ、してって」
「いわないでばかっ!」

怒鳴りつけて、でも声うわずって弾む。
こんなこと恥ずかしい、恥ずかしくてブランケット被りこんだ。

―どうしよう僕こんなよっきゅうふまんみたいなことなんで?

どうしよう混乱する今いったい何なんだろう?
こんな時どうしたらいいの?解からなくて、けれど温もり抱きしめられる。

「馬鹿でもいいよ周太、俺ほんと周太にバカになってるから、」

きれいな低い声が微笑む、ブランケット透かす体温やわらかい。
ほろ苦い森みたいな香が甘い、この香ほんとうはずっと待っていた。

「ねえ周太、周太に逢いたくて昨夜も帰ってきたよ?だからご機嫌なおしてほしいな、周太?」

きれいな低い大好きな声、その声が呼んでくれる。
抱きとめられる温もり優しくて、それから窓やわらかな雨の音。



ひさしぶりの英二×周太ツンデレです、リクエストから描いてみました、笑
こういうシーンちょっと好みだったら↓
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