萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

山岳点景:紅光る翳

2015-10-31 00:42:13 | 写真:山岳点景
梢の影絵、紅葉の楓ゆらす光に影。


なんて写真を貼ってると、
明日っていうか今日の土曜は忙しいけど、日曜は紅葉ドッカの山行けたらなーなんて考えてしまいます、笑
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第83話 辞世 act.25-another,side story「陽はまた昇る」

2015-10-29 21:47:00 | 陽はまた昇るanother,side story
救いの手
周太24歳3月



第83話 辞世 act.25-another,side story「陽はまた昇る」

ざぐり、ざくっ、

雪ふみしめる音、アイゼンが氷を噛む音だ。
着実に進んで澱みない、負ってくれる背の筋肉ひろやかに波うつ。
出逢ったころよりずっと頼もしい背中、だけど耳元の呼吸が荒い。

「周太、もう少しだぞ、」

呼びかけてくれる声、ずっと大好きだった。
きれいな低い透る声、でも今は吐息かすかに熱あえぐ。

「えいじ、っこほんっ…熱が、」

呼びかけて、だけど聞えていない。
ざくりピッケル撃つ音、アイゼン踏みだす音、細めた瞳の視界ただ眩しい。
もう陽が高くなってゆく、今いったい何時だろう?その涯から澄んだ声が徹った。

「宮田っ、こっちだ!」

ああ、この声が来てくれた。

「…こういち、っごほ…っ」

呼んだ喉すぐ噎せかえる、呼吸やっぱり苦しい。
それでも足音たち駈けてくる音に周太は微笑んだ。

―よかった、光一が来てくれたなら…英二は大丈夫、

あの幼馴染が来たなら大丈夫、このひとを救ってくれる。
ただ安堵に微笑んで意識ゆれて、それでも指先の傷は離せない。

―きっと血は止まってる、ね…でも動いてまた、

咳きこんで苦しい、それよりも指に押えこんだ傷に痛む。
この傷は自分のものじゃない、だから尚更に痛くて泣きたくなる。
だって傷ついている人がなにより大切で、唯ひとり選べというなら迷わないのに?

―おとうさんお願い、英二をたすけて…ぼくよりえいじを、

このひとを救けたい、本当は自分が救けたい。
だけど出来ない現実が喉ふるわせ奥から軋む、痛くて苦しくて、だけど自分よりこのひとだ。

―もう血がいっぱいでてる、ほんとうはもう…はやく、

早く止血ちゃんとしてあげたい。
ただ願い開いた視界、白皙のこめかみに鮮血こびりつく。
サングラスの柄はさませた三角巾もう赤い、それを押える自分の指も血に染まる。
黒いグローブの指先から赤いろ滴らす、なんとか止めたくて押さえ続けて、そして呼ばれた。

「周太、しゅうたっ!俺だよ光一だよっ、」

澄んだテノールが呼んで、ぐらり傾いて温もり離れる。
すぐ抱きとめられて香ふわり甘い、水仙とよく似た空気に瞳を開いた。

「…こういちっ、ごほっ…はやくえいじ、血が、」
「すぐやるよ、周太コレ飲んで、」

テノールが応えて薬ふくませてくれる。
テルモス口つけられ飲み下して、幼馴染は笑ってくれた。

「よし、ちゃんと飲みこめたね?英二を診たらすぐ戻るからね、井川こっちよろしく、」

手早く告げて青い長身が立ちあがる。
入れ替わり抱えてくれた微笑がやわらかに言った。

「呼吸ゆっくり深く、焦らないで、」

深い落着いた声おだやかに支えてくれる。
浅黒い肌なめらかな微笑は優しい、その大きな眼にうなずいた。

「はい…っごほんっ、こほっ」
「返事も無理しないで、荷物おろします、」

背中を支えてザックのハーネス外してくれる。
登山グローブの手がスリングふれて瞬間、体くるり反転した。

「ごほっ…すみま、せ、」

咳きこみながら恐くなる、いま勝手に体が動いた。
もう染みついてしまった反射に大きな眼すこし笑った。

「銃は下ろさない方がいいか?」
「はい…ごほんっ、」

頷きながら申し訳なくなる。
ただ配慮してくれただけ、それでも銃は他人に渡せない。
どんなに重たくても自分で負うしかない、そんな現実に会話が聴こえる。

「谷口は宮田のザックと最短距離よろしくね、井川は消防に連絡、喘息発作1名に全身打撲1名、」
「谷口さん、井川さん、よろしくお願いします、」
「こちらこそ、」

肯いてくれる井川の笑顔はやわらかい。
年は自分と変わらないだろう、そのくせ老成された落着きにほっとする。

―山のひとは落着いてるかんじ多いね…えいじも山をはじめてから、

どこか朦朧として、だけど頬なぶる風に覚まされる。
雪の森、光あわい斜めの陽、黒い梢、それから白皙の笑顔のぞきこんだ。

「周太、あと少しだ、一緒に帰ろう?」

あ、英二?

―ぶじで…けがは、えいじ、

見つめてすぐ近くなる、広やかな背に負われて視界が上がる。
青いウェアの肩に頬ふれて、ふっと森と似た香ほろ苦くかすめた。

「周太、咳すこし楽になったか?我慢はしないで良いぞ、」

懐かしい香に懐かしい声が重なる。
サンブラスの瞳こちら見つめて、応えたくて微笑んだ。

「ありがと…こほっ、さっき薬飲ませてもらったから、だいじょっ…こんっ、」
「無理に返事しなくてもいいよ、聴いててくれたら、」

きれいな笑顔ほころばせ前を向く、その左額にガーゼが白い。
きっと光一が手当てしてくれた、守られた約束に低いきれいな声が呼んだ。

「周太、また奥多摩の雪を見せたいよ?桜もいいな、」

ほら、約束また話しかけてくれる。
ほんとうに雪も花も見たい、ただ願うまま声が微笑む。

「帰ろうな周太、体治して奥多摩に行こう?」

帰ろう、帰りたい。

この人とふたり帰りたい、もういちど一緒にあの山をみたい。
願いごといくつも繰りかえして懐かしい香ふれる、そんな背中に声こぼれた。

「あったかい、英二のせなか…」

あたたかい、ずっとそうだといいのに?

そんな願いごと負われてゆく道、ときおり体ぐらり傾く。
この人も無傷じゃない、それでも自分を背負ってくれるのはなぜ?

―えいじ、どうしてこんなにするの…あなたは誰?

このひとは誰なのか、名前は知っているけどほんとうは知らない。
このひとの家族も会ったことがある、でもほんとうは何ひとつ知らなかった、だって教えてくれない。

ほんとうは祖母の従妹の孫にあたる人、そんな血縁も一年前まで知らなくて母と自分は二人きりだった。

―えいじはしらないのかな、それとも知ってぼくのまえにあらわれて…あなたは誰?

聴きたい、でも訊けない。

なにも訊けなくて知らなくて、それでも一緒に過ごした時間は現実だった。
その証は今も自分の左手首に鼓動する、そんな想い見つめたクライマーウォッチのバンドは赤く染みてゆく。



あたたかい、あのひとはどこ?

「ごほっ…こんっ、ごほんっ」

咳きこんで睫ふるえる、視界ゆっくり披いて薄明るい。
慣れてゆく瞳に白いふとんが映りこむ、ふれる温もりに低い声が呼んだ。

「湯原、ゆっくり呼吸しろ、腹からゆっくりだ、」

聴きなれた声に唇すこし開いて息を吸う。
ゆっくり腹式呼吸して、落ち着きだした息に微笑んだ。

「だてさん…こほっ、ぶじでした、ね、」
「お互いな、」

沈毅な瞳ふわり笑って優しい。
見なれた制服姿の他は誰もいない部屋、あいかわらず落着いた微笑に唇すぐ開いた。

「伊達さん、えい…宮田は無事ですか?」

つい名前で呼んで、気づいてすぐ言い直す。
けれどもう気づかれたかもしれない、心配の前に水さしだされた。

「まず水を飲め、喘息発作は水分いっぱい摂らないとだろ、」
「こほっ…はい、」

素直に頷いてペットボトル受けとる。
キャップ開いて口つけて、こくり喉とおる香が甘くて微笑んだ。

「…スポーツドリンク買ってきてくれたんですね、ふつうの水でいいのに、」

自販機で買ってきてくれたのだろう。
かけてくれた手間に笑いかけて、けれど沈毅な瞳は低く言った。

「湯原、支度されたものは口つけるな、」

ことん、

肚底なにか落ちて記憶たち蘇える。
なぜ今ここにいるのか、その前に何があったのか?たぐった時間にため息吐いた。

「伊達さん、僕…この病院にくるときマスクしてなかったですね、」

顔を曝してしまった、それが何を起こすのか?
その原因もう一人に鼓動が軋んで、恐くて傍らの腕を掴んだ。

「伊達さん、宮田は何も悪くありません。山岳救助隊として救助の任務をしただけです、」

告げて掴んだ腕かすかに脈うつ。
きっと図星だ、その可能性に先輩を見つめた。

「救助が任務なら僕のマスクを外して当り前です、宮田に落ち度は何もありません。伊達さん、僕が処分されても宮田を護って下さいお願いします、」

あのひとを護りたい、自分どうなっても。
ただ願い見つめる真中、沈毅な瞳ふっと笑ってくれた。

「湯原、まず約束しろよ?病院で出されたものは口つけないって約束して実行しろ、話はそれからだ、」


(to be continued)

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山岳点景:秋の道

2015-10-28 23:00:00 | 写真:山岳点景
When,in a blessed season



山岳点景:秋の道

この秋、現時点いちばんの道。


撮影地:大菩薩峠登山道@山梨県


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山岳点景:黄葉の空

2015-10-28 00:35:20 | 写真:山岳点景
The spirit of pleasure and golden wind


山岳点景:黄葉の空

北奥千丈岳の帰路、落葉松と青空がきれいでした。


落葉松は針葉樹だけど黄葉→落葉します、
だから「落葉松」なんですけど「唐松」とも書きます。


細やかな葉は若葉のとき柔らかです、黄葉のころは少し硬くなります。
道路いっぱい落ちてるトコ踏むと滑るので要注意、車でもタイヤが滑ることもあります(!)

これ↓は山吹の黄葉、黄金色に咲く春花のヤマブキの葉なんですけど黄葉も名前にそむかぬ黄色まぶしいです。


この日は青空かなり綺麗でした、おかげで写真も黄葉が映えます、笑


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山岳点景:冬×monochrome

2015-10-26 23:54:07 | 写真:山岳点景
墨彩の光



山岳点景:冬×monochrome

雪の森、見あげた梢も空も墨色の光。
こういうシーンは好きです、で、冬が楽しみにもなります寒いけど。笑


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山岳点景:極彩黄昏

2015-10-26 23:20:00 | 写真:山岳点景


山岳点景:極彩黄昏

朱色×金色×菫色、街角と山際と。

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第83話 辞世 act.24-another,side story「陽はまた昇る」

2015-10-26 12:30:52 | 陽はまた昇るanother,side story
夜明の夢
周太24歳3月



第83話 辞世 act.24-another,side story「陽はまた昇る」

周、あれが北岳草だよ?

呼びかけられ見あげた先、白い花たち群れて咲く。
ちいさな菊ともよく似た白い花、よく知っている姿に嬉しくて笑った。

―かわいい…たくさん咲いてるね、きれい、

かわいいね、だけどすごく強い花なんだよ?

―氷河期から咲く花だよね、図鑑では見たよ?

そうだね、一緒に見たね、周?

―ん、一緒に見たね…お父さん?

笑いかけ見あげて、ほら父が笑ってくれる。
帽子かぶった笑顔は明るい、切長い瞳ただ幸せに山を見る。
白い雪渓はるかな緑の山嶺、岩壁そびえるバットレス、風ゆるやかな花の色。

それから雲まぶしい青、光。



「生きろ周太っ、」

誰、呼んでる?

「周太っ、口を開けっ、」

ああこの声よく知っている。

深くて低い透る声、この声よく知っている。
そう想いだして微笑んだ口元、硬いなにか押しつけられた。

「紅茶だ周太っ、すこしで良いから飲んでくれ!」

あつい、熱い?

「少しでも飲んでくれ周太っ、ちょっとでも楽になるぞ?」

そっと唇ふれる温度が喉すべりこむ、こくん、喉うごいて飲み下す。
温度ふわり広がって胸から温かい、ほっと息ついて喉こみあげ咳きこんだ。

「ごほっ…うっ、ぁ…?」

咳している?

気づいて喉ふるわされ苦しい、でも唇また熱く香ふれる。
流しこまれ飲みこんで温かい、喉もすこし治まりだして訊かれた。

「周太、医者にはかかってるんだろ?」

この声よく知っている。
その顔ただ見たくて瞳ゆっくり開いて、まぶしい雲に白皙の顔とびこんだ。

―えいじ、いきて…?

呼んで、生きてくれている。
その顔よく確かめたくて見つめるまま大好きな声が訊いた。

「薬は持ってるか?」

ああこの声よく知っている、だってずっと逢いたかった。

―よかった、生きてる英二、

逢いたかった、そして生きている。
その声に顔に記憶すべて押しよせて、ふわり頬ふれる風が冷たい。
ここはどこなのか、自分は何のためここにいるのか、想いだした全身が咳きこんだ。

「ごほっ、こんこんっ…ぅな、ぃっ」

だって薬を持っていたら「万が一」が怖い。
だから置いてきてしまった、その結果叩きつけるよう喉ふるえる。
それでも質問に答えた真中で切長い瞳は睫そっと伏せて、それでも笑ってくれた。

「周太、もう少し飲んでみろ?ゆっくり焦らなくて良い、」

口元また熱くふれる、その香おだやかに懐かしい。
芳ばしい温度すべりこんで呑みこます、あまい香ほっと息ついた。

―たすかったんだ、ぼくも…英二のおかげで、

抱き寄せてくれる懐ひろやかに温かい。
けれど青いウェアの肩ざくり裂けている、見つめてくれる笑顔の頬も赤一閃いくつか傷む。
他に傷いくつも負っているだろう、それなのに白皙まぶしい笑顔は陽の光に咲く。

「よく飲めたな周太、ちょっと楽になるだろ?紅茶は喘息の薬の原料にもなるんだ、」

きれいな低い声が笑ってくれる、その輪郭を赤色が伝う。
どこか頭を怪我している?ただ突き飛ばされて唇が動いた。

「こほっ…え、いじ、」

あなたは怪我してる、早く手当して?
そう伝えたくて、けれど咳きこんでしまう。

「周太、どうした?」

訊きかえしてくれる頬を赤色すっと奔る。
まだ血が止まっていない、傷を知らせたくて声押しだした。

「ごめんねえい、じ…っごほっき」

まず謝りたい、すぐ手当してあげたい。
想い起きあがろうとして、だけど強い腕に抱きしめられた。

「なんで周太が謝るんだ、それより寒くないか?」
「へ、いきっ…ごほんっこほっ…け」

応えて、けれどまた咳きこんでしまう。
途絶えてしまう声、それでも伝えたいのに言えないまま大好きな声が笑った。

「周太、今は下山することだけ考えよう?ベッドでまたゆっくり聴かせてよ、」

ゆっくりなんてダメ、今すぐ手当して?
そう言いたいのに喉ふるえて咳とまらない、その傍ら笑ってくれる。

「背負って降りるぞ、スピード勝負だから我慢してくれ、」

きれいな低い声が言う、登山グローブ慣れた手つきでザイルを解く。
ザック降ろしレインウェア出しながら端正な横顔が微笑んだ。

「太陽が出たから気温が上がると想う、次の雪崩が来る前に降りきるぞ、」

まだ終わっていない?

また次の雪崩が来るかもしれない、そんな言葉に焦りだす。
だって怪我している、血が頬を滴ってゆく、雪へ深紅が散ってゆく。

「ちょっと苦しいかもしれないけど我慢してくれな、銃は背負ってくれるか?」

気づかない笑顔は手を動かす、その仕草ひとつごと深紅が散る。
朝陽まばゆい白銀に赤い花が咲いてゆく、こんな花びら怖くて声押しだした。

「こんっ…ぇっぃじ、ごほんっ、ち、がでっ…こほっ、」

出血が多い、早く止めないと?
知らせたいのに咳が遮る、言えないまま広い背中に負ぶわれた。

「周太はなるべく目をつぶっててくれ、雪の反射でやられると困るから、」

きれいな低い声が笑って立ちあがる。
高くなった視界、見つけた傷にポケット探った。

「はい…ごほっ、」

うなずいて瞳を閉じて、だけど右手だけで引きだす。
指ふれる感触は絆創膏、これを貼ればすこしは血止めできる。

「どうした周太、眼が痛い?どこか苦しいのか、」

まだ顔見つめられている?

そんな視線が近い、そして瞳の熱が自覚する。
睫ゆれて頬ぬれる、吹きつける風は冷たくて、けれど微笑んだ。

「ううん、ごほっ…へいき、こんっ」
「苦しかったすぐ言えよ?行くぞ、」

きれいな声が微笑んで前を向く。
そっと薄目ひらいた視界、サングラスの柄と赤色が見えた。

―山用のサングラスだね、これなら三角巾も押えこめるかも、

ぺりっ、絆創膏のシート外して見つめた傷は髪のはえぎわ裂く。
こういう場所は出血が多くなる、そっと貼りつけた上から畳んだ三角巾で押えた。

―圧迫して止血しながらいけば、すこしは…英二、

そっと左手で押えながら瞳を閉じて、一滴また零れだす。
こんなに傷だらけの背に負われなくてはいけない、この現実に悔しくて哀しくて、だけど温かい。

―あったかい英二の背中…でも僕こそ背負いたいのに、どうしていつも、

自分こそ背負わせてほしい、あなたを護りたい。
それなのに現実は自分が負ぶわれ雪山を下る、頬なぶる風こんなに冷たいのにあなたの背中は温かい、そして傷も。

―いつもごめんなさい英二、こんなに怪我してるときにまで…どうしたら僕は、

どうしたら自分はこのひとを護れるのだろう?
願いめぐらせながら負われる体に温もりふれる、アサルトスーツ透かして体温しみてゆく。
髪から凍えそうな風、頬かすめる氷の粒、けれど傷おさえる指先かすかな脈動が温かい。

とくん、とくん、

押さえる傷が脈うつ、指先ゆるやかに濡れてゆく。
あふれる血に怖くて、だけど少しずつ止まり始めている。
うすく開いた視界はグローブ赤く染めて、それでも脈うつ温もりに涙こぼれて優しい。

だって生きている。

―生きてる、英二が…ちゃんと歩いてる、

傷だらけでも生きている、背中もちゃんと温かい。
このひとが生きて山を歩いている、唯それだけで涙こぼれて温かい。
このひとの無事が唯うれしくて、だからこそ願ってしまう祈ってしまう。

どうか生きて、そして笑って?


(to be continued)

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山岳点景:Flatland 森の10月

2015-10-25 20:15:16 | 写真:山岳点景
初秋の朝に



山岳点景:Flatland 森の10月

朝ひさしぶりに近場の森を歩いたら、杜鵑草ホトトギスが咲いていました。
鳥のホトトギスと柄が似ているのでこの名前、赤紫まだら×翡翠色の葉はコントラスト綺麗です。



あまり標高が高くない山や沢でもよく見ます、ちょっと翳っている場所で咲く姿が多いです。
コレ撮った森でも葉がよく繁った木蔭で咲いていました、春にはスプリング・エフェメラルたちが咲くポイントです。



この森が黄葉するのは11月、それでもナントナク緑があわくなってきました。
小川しだれる桜は紅葉あわく水鏡、春なら花が映るところです、笑



ここんとこお馴染の野菊も咲いていました、これは嫁菜ヨメナだと思います。



野紺菊ノコンギクとの見分け方は萼(総苞片)の形と葉。
萼が平たい+葉がつるつる=ヨメナ、萼がつぼんだカンジ+葉は基部が細く毛が生えている=ノコンギクです。
あとヨメナは山地では少なく、対してノコンギクは耕地から山と広く見られます。

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山岳点景:360度×Highest point 続篇―北奥千丈岳

2015-10-25 02:21:08 | 写真:山岳点景
360度の空



山岳点景:360度×Highest point 続篇―北奥千丈岳

標高2,601メートル北奥千丈岳@山梨県、奥秩父山塊の最高峰に登った続きです。


石楠花と岩の道を一挙に15分、よく見ると↓小さな草紅葉も。


で、いきなり開ける視界は山頂です。


標高2,601メートル奥秩父山塊の最高峰、岩だらけで遮るものない山頂は風もろに吹きつけます。
山頂は這松ハイマツ=寒くて風が強い植生、わずかに生える木も受ける風のまま枝がこんな↓形に育っています。


10月下旬の晴天だけど想像より寒いです、歩いて熱かった汗あっというまに引きます=風邪に要注意、笑
温かいもの飲むのがおススメです、湯を沸かすなら岩陰の風当らないところでコンロ使えばいけます。

そんなワケで雲も刻々かたちを変えて、空のブルーがきれいでした。


展望ひろがる落葉松林の金茶色と青色が映えます。


で、なぜ“北”奥千丈岳なのかっていうと、標高2,409.6メートル奥千丈岳があるからです。
国師岳へ向かうための北奥千丈岳←奥千丈岳←乾徳山への縦走路=石楠花新道といいますが、大弛峠が開通して現在は廃れています。
白檜平シラベダイラから下方はだいぶ荒れて道も解かり難いようです、登山地図を見ても道迷い注意が多く記されています。


ロッククライミングの廻目平↓カッコいいです、笑


来た道を戻って大弛峠、まだ幼木の落葉松が黄色あざやかでした。


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ホントは国師岳も登る予定だったんですけど、予定より2時間寝坊したので国師岳は延期しました、笑
代りにいつもの高原→山奥の茶店で蕎麦たぐって美味しかったです。

黄葉も撮ったけどさすがに眠い、のでまた後で。笑

【補足】
○大弛峠は朝日岳→金峰山→瑞牆山、北奥千丈岳・国師岳→甲武信ヶ岳と2ルートの起点になっています。
そのためシーズンは駐車場かなり混雑、下手に登山口傍の駐車場へ停めると帰りに出られないこともあるそうです。
○大弛峠の駐車場にトイレ有、ただし手洗い場が使えないのでウェットティッシュ持参がおススメです。
○テントは大弛小屋の管理で10張、小屋のメニューはカレーや鍋焼きうどん等ありました、笑
○大弛峠は標高2,365メートル=高山病の発症高度1,800イキナリ超えてスタートになります、水分糖分ちゃんと摂りつつ焦らずで。


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山岳点景:360度×Highest point―北奥千丈岳

2015-10-24 23:00:12 | 写真:山岳点景
最高地点の視界



山岳点景:360度×Highest point―北奥千丈岳

上は標高2,601メートルからの南アルプスです。
北奥千丈岳@山梨県、マイナーかもしれませんが奥秩父山塊の最高峰になります。
三百名山の国師岳と至近=途中まで同じルートなんですけど、標高2,365メートル大弛峠から岩の道×木道を一挙に登ります。



こんな↑木が途中にあったり楽しいです、笑
樹林帯のはざまも山が見えて高度感があります。



10分ほどで分岐→夢の庭園まわりを選ぶと↓こんな眺望。



夢の庭園までは木道メイン=運動靴でも登れるカンジです、
が、こっから先は登山靴必須×山の三品がない人は引き返した方がいいと思います。
三品=水筒・雨具・照明具でコレ持たないヤツは山登るべからずの必須アイテム、雨具はゴアテックス素材のレインスーツが防寒にもいいです。

で、夢の庭園の岩場ぐるり回ると登山道になり岩ごろごろルート×高度感ある木道が続きます。



標高2,400を超える山肌は風もろに吹きつけます、今日も気をつけないと煽られそうな強風もあり。
その分だけ眺望は良くて楽しいんです、が、標高が高いだけあって焦って登ると高山病が怖いと思います。

高山病は標高1,800から2,500を越えると発症の危険あり、
頭痛+食欲不振や吐き気・倦怠感・めまいが発症サインで、高度2,500メートルを急激に登ると左記症状が25%に現れるそうです。
ゆっくり歩く+適度な休憩+糖分と水分補給で高度に体を馴化させながら登ることがコツ、水分を摂らないと脱水症状なども危険です。



こんな↑岩ごろごろ幾つも超えます、
登山靴なら滑ることも少ないですが、いわゆる運動靴だと靴底のグリップが効かないかもと。
飛び降りたりも膝や腰を痛めたり転倒の危険が怖いです、慎重に一歩ずつ上り下りで、笑



この↑長楕円形の葉は石楠花です、花の時期はさぞ綺麗だろうなあと。
夢の庭園から国師岳山頂までのルートはシャクナゲ林道と呼ばれています、その通りに石楠花だらけです。
が、国師岳が花の百名山として有名なのは「雲居小桜」クモイコザクラという桜草みたいな花になります。



ダケカンバの脱皮中↑ちょっと削り節みたいで面白いんですよね、笑



ちょっと急登をあがると岩場にでます。
ここは富士山と南アルプスの眺望がいいです、今日は雲海の富士がきれいでした。



ここからもう少し頑張ると前国師岳2,576メートルに着。



大岩の山頂は空360度、ブルー大らかに広がります。



ここから少し下って樹林帯をぬけると三繋平ミツナギダイラっていう分岐点です。
直進が国師岳から甲武信ヶ岳への縦走ルート、そっちへ行かず右手の北奥千丈岳へ登ります。

この三繋平で霜柱↓登場、午前10時半ごろでまだ残っていました。


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続き貼りたいんですけど眠い&長くなったのでまた次号、笑


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