predawn 暁闇の光
第78話 冬暁 act.12-side story「陽はまた昇る」
ほら、カーテンの隙間もう夜が終わる。
まだ薄青い空は太陽が遠い、けれど刻限6時は近づく。
夏ならもっと明るい時間、だから今この昏さは夜なのだと眠りこめたらいい。
そんな想い横たわるベッドはオレンジ色あわいランプ明るんで、並んだ寝顔に英二は約束を見た。
『北岳草を必ず見せて?英二、』
次の夏には北岳草を見せてあげる、そう約束したのはいつ?
すぐは思い出せないほど約束の時は遠くなった、それほど離れた時間が長い。
その距離を映すよう今このベッドも並んで眠るだけ、隣の体温は離れてこの胸は合鍵ひとつ温まる。
今は抱きしめるなんて許されない?そんな想い竦んで触れること出来ない夜を見つめながら白い花の約束なぞる。
『これは北岳草って言うんだ、絶滅危惧種だよ、』
北岳、標高3,193m「哲人」と呼ばれる本邦第2峰。
あの山を自分は好きだ、そこで初めて見た花を教えたのは光一だった。
純白の花に山っ子の瞳は静かに微笑んで、その現実のまま教えてくれた。
『氷河期の生き残りの花なんだ、この北岳の山頂直下ここだけに咲く。ここ以外では咲かない、もうどこにもない、』
厳寒の氷河期から咲き続ける花は星霜と厳しい植生が信じられないほど清楚にやさしい。
うすい花びら纏う小柄で可憐な穏やかな花、けれど風雪にこそ咲く強靭を短い夏の空に開く。
絶滅と言われても峻厳の鋭鋒に咲いて命を輝かす、そんな花は見つめる寝顔と重なってしまう。
『この花がここで咲くように、周太も英二の懐で生きられるね、』
そんなふうに自分のアンザイレンパートナーは三千メートル峰の花に笑ってくれた。
あの言葉が嬉しくて、だからあの花を見せたくて来夏には連れて行くと約束を結んだ。
あの花の約束ひとつ信じて見つめて叶えたくて山も任務も努力した、けれど昨夜に迷う。
君は本当に自分が必要?それとも邪魔にすぎない?
『どうして本庁の壁をスーツ姿でクライミングしていたの、なぜ蒔田さんの執務室からボルダリングする必要があったの?』
あの問いかけに自分は結局、答えていない。
『コピー取りに蒔田さんの部屋に行ったよ、コーヒーも買いに出たけど。俺は普通に廊下を歩いてエレベータに乗ったよ、』
そう答えて核心なに一つ答えていない。
嘘など一つも言っていない、だけど質問をはぐらかして黙秘した自分に周太は微笑んだ。
「英二、明日も訓練があるんでしょう?もう寝ないと…僕も寝るね、」
ただ微笑んでカーディガン脱ぐと周太はベッドに入ってしまった。
ビジネスホテルの一室はセミダブル一台きり、他はソファをサイドベッドにするしかない。
そんな部屋にソファ支度しようとした背後ベッドから羞んだ声はつっけんどんに言ってくれた。
「ちゃんとベッドでねたら?」
そう言われたまま素直にベッドへ入って、そのまま今夜が明けてゆく。
「今日はお昼、なに食べたの?」
そんな他愛ない話を少しだけして周太は眠ってしまった。
ただ向きあい並んで話すだけ、けれど話すべき続きを口にしない。
もう「話」は続けない、それでも背を向けないでくれたことが嬉しかった、けれど本当は泣きたい。
―もう質問してくれないのは周太、俺のこと見放したのか?
こんな思案ずっと見つめて眠れない。
眠りこんだ寝言に秘密を洩らすミスが怖くて、けれど眠らなかったのは黙秘の為だけじゃない。
ただ眠れる貌を一瞬でも多く見つめていたかった、だから3ヵ月の逢えない時間が眠らせず夜は明ける。
「…寝顔かわいいね、周太は…相変わらず、」
そっと笑いかけたベッドの隣、寝息は安らがす。
微睡んだ睫の影やわらかに長い、すこし紅潮した頬なめらかにランプ照る。
幼い寝顔は呼吸音すこやかに澄んで規則正しい、その寝息の聞えない雑音に英二は微笑んだ。
―よかった、喘息そこまで悪化していないんだ周太、
まだ間に合う、その可能性と見つめるカットソーの肩すこし細くなった。
このまま攫って養生させられたら?そんな願いごとブランケット包まるベッドはまだ仄暗い。
12月の夜明は遅い、それでも必ず明けてゆく時間を寝顔に見つめながら長かった夜の記憶が軋む。
『英二、なぜ蒔田さんの執務室からボルダリングする必要があったの?』
周太は、見たのだろう。
―本庁のどこかに周太もいたんだ、たぶん窓から俺を見て、
金曜日の本庁で自分が何をしていたのか、その断片を見たのだろう。
だから問い詰めるため昨日は逢う約束して結局、この夜は質問と他愛ない話だけで終わる。
ふれたのは泣いているシャワーの背中と林檎の手、それだけの夜は抱きあえず寝顔を見つめて明ける。
けれど呼吸が聴こえる、触れなくても体温は温かい。
これだけでも自分には幸せで離れていた孤独すこし癒えてゆく、だからこそ今このまま願ってしまう。
ビジネスホテルの一室のベッド今ここから連れ出したい、そして高峰の世界へ攫ってしまえたら取り戻せるだろうか?
「…周太、北岳草のこと憶えてる?」
そっと呼びかけて腕すこし伸ばす。
ほんの少しで良い、そう願うまま眠る手の指先ふれる。
相変わらず少し小さな手、けれど指先だけでも温もりは優しくて縋ってしまいたい。
だけど今すべきことは縋ることじゃない、だって時動かしたのは五十年を超えたのは自分だ。
『私は馨くんも晉伯父さんも見殺しにしたんだ…すべて事実だと伯父さんは認めたよ、いつもどおり静かに笑ってな、』
そう自分に告げたのは父だ、そして晉の証言と証拠を渡してくれた。
この証言も証拠も三十数年前のもの、そこにある罪の連鎖は五十年前に始まっていた。
それは今も、この指先ふれている小さな手を絡め取ろうとして「昨日」が来て、けれど五十年前と同じに「昨日」は秘匿されている。
だって多分まだニュースになっていない、そんな推測と開いた携帯電話から昨日のページにアクセスして、その検索結果に微笑んだ。
「は…削除か、」
“ いま向かいのビルが窓割れた、なんか機動隊っぽいの突入したけど全員マスクしてる怖い何? ”
そんな一般市民の匿名記事が昨日は載っていた、けれど今もう消されて無い。
この発信した人は削除を怪訝に想うだろう、それでも「怪訝だ」という匿名記事もきっと消されてしまった。
こんなふうに現実は事実も圧殺する、それが誰の指示で何を目的とするのか?そして今指ふれる小さな手は「昨日」事実を見ていた。
『英二、僕は誰も死なせていないから』
そう周太は言ってくれた、あの言葉ひとつに「昨日」は解かる。
そこで周太は「誰も死なせていない」と告げて微笑んだ、それは周太の勝利だと言ってあげたい。
だって父が晉に告げられたのは「昨日、誰も死なせていない」とは真逆の現実だった、その鎖に周太は捕えられていない。
「すごいな、周太は…かっこいいよ、」
そっと微笑んだシーツの波の向こう寝顔は優しい。
くせっ毛やわらかな黒髪にランプ艶めかす、その前髪はざま小さな傷が見える。
額の生え際ごく小さな傷はあわい、それでも確かにある傷痕は夏のベンチの記憶に愛しくて、離れたくない本音の真中で寝顔が身じろいだ。
「ん…」
ちいさな吐息、きっと目が覚めるのだろう?
また離れてしまう刻限が来る、その覚悟に鼓動また軋んで痛い。
それでも縋れない小さな手から指先ゆっくり離して、けれど温もりが指を掴んだ。
「あ、」
眠りながら指を掴まれる、こんなこと前にもあった。
あのとき見つめた寝顔が今このベッドに瞳を開く、そして見つめてくれた黒目がちの瞳に自分が映りだす。
「…えいじ、」
ほら、優しい声が自分を呼んだ、この目覚めの声が好きだった。
同じ警察学校寮の隣の部屋、いつも徹夜で勉強して一緒に眠りこんだ。
そうして目覚めるベッドの朝はオレンジの香かすかに甘くて、開いたばかりの瞳の潤みが綺麗だった。
『宮田、なに見てんの?』
名字で呼んでくれる貌すぐしかめっ面になる、そんな貌は照れ隠しだったろうか?
あの頃ぶっきらぼうだった君の声、呼んでくれる言葉も今とは違っていた、それでも嬉しかった想いのまま微笑んだ。
「おはよう周太、そろそろ行くか?」
もう行かないといけない、自分も君も。
もうあの夏には戻れない、だって時間はリセットボタンなんてどこにもない。
ただ明日へ一秒後へ動いて留まることなど無い、3ヵ月前と今ですら夏の終わりと冬の初めに隔たれる。
そんな時の距離に横たわったベッドは抱きあうことすらなくて、それでも3ヵ月後その先には願えるかもしれない?
だって時間は今も動いていく、だから願える可能性の瞬間に英二は穏やかに笑いかけた。
「周太、今度の夏は必ず北岳草を見せてあげるよ?絶対の約束だ、」
絶対の約束を幾つもう結んだろう?
けれど今ひとつも叶えていない、まだ足掻いているばかりだ。
あの男を捕える証言も証拠もまだ足りない、足りることなんて無いかもしれない。
これは涯など見えない独りよがりの喧嘩にすぎない、それでも願いたい唯ひとりは黒目がちの瞳きれいに笑ってくれた。
「北岳草を僕に見せて、英二…信じるから、」
ほら、もう夜明は近い、今は暁闇に昏くても。
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第78話 冬暁 act.12-side story「陽はまた昇る」
ほら、カーテンの隙間もう夜が終わる。
まだ薄青い空は太陽が遠い、けれど刻限6時は近づく。
夏ならもっと明るい時間、だから今この昏さは夜なのだと眠りこめたらいい。
そんな想い横たわるベッドはオレンジ色あわいランプ明るんで、並んだ寝顔に英二は約束を見た。
『北岳草を必ず見せて?英二、』
次の夏には北岳草を見せてあげる、そう約束したのはいつ?
すぐは思い出せないほど約束の時は遠くなった、それほど離れた時間が長い。
その距離を映すよう今このベッドも並んで眠るだけ、隣の体温は離れてこの胸は合鍵ひとつ温まる。
今は抱きしめるなんて許されない?そんな想い竦んで触れること出来ない夜を見つめながら白い花の約束なぞる。
『これは北岳草って言うんだ、絶滅危惧種だよ、』
北岳、標高3,193m「哲人」と呼ばれる本邦第2峰。
あの山を自分は好きだ、そこで初めて見た花を教えたのは光一だった。
純白の花に山っ子の瞳は静かに微笑んで、その現実のまま教えてくれた。
『氷河期の生き残りの花なんだ、この北岳の山頂直下ここだけに咲く。ここ以外では咲かない、もうどこにもない、』
厳寒の氷河期から咲き続ける花は星霜と厳しい植生が信じられないほど清楚にやさしい。
うすい花びら纏う小柄で可憐な穏やかな花、けれど風雪にこそ咲く強靭を短い夏の空に開く。
絶滅と言われても峻厳の鋭鋒に咲いて命を輝かす、そんな花は見つめる寝顔と重なってしまう。
『この花がここで咲くように、周太も英二の懐で生きられるね、』
そんなふうに自分のアンザイレンパートナーは三千メートル峰の花に笑ってくれた。
あの言葉が嬉しくて、だからあの花を見せたくて来夏には連れて行くと約束を結んだ。
あの花の約束ひとつ信じて見つめて叶えたくて山も任務も努力した、けれど昨夜に迷う。
君は本当に自分が必要?それとも邪魔にすぎない?
『どうして本庁の壁をスーツ姿でクライミングしていたの、なぜ蒔田さんの執務室からボルダリングする必要があったの?』
あの問いかけに自分は結局、答えていない。
『コピー取りに蒔田さんの部屋に行ったよ、コーヒーも買いに出たけど。俺は普通に廊下を歩いてエレベータに乗ったよ、』
そう答えて核心なに一つ答えていない。
嘘など一つも言っていない、だけど質問をはぐらかして黙秘した自分に周太は微笑んだ。
「英二、明日も訓練があるんでしょう?もう寝ないと…僕も寝るね、」
ただ微笑んでカーディガン脱ぐと周太はベッドに入ってしまった。
ビジネスホテルの一室はセミダブル一台きり、他はソファをサイドベッドにするしかない。
そんな部屋にソファ支度しようとした背後ベッドから羞んだ声はつっけんどんに言ってくれた。
「ちゃんとベッドでねたら?」
そう言われたまま素直にベッドへ入って、そのまま今夜が明けてゆく。
「今日はお昼、なに食べたの?」
そんな他愛ない話を少しだけして周太は眠ってしまった。
ただ向きあい並んで話すだけ、けれど話すべき続きを口にしない。
もう「話」は続けない、それでも背を向けないでくれたことが嬉しかった、けれど本当は泣きたい。
―もう質問してくれないのは周太、俺のこと見放したのか?
こんな思案ずっと見つめて眠れない。
眠りこんだ寝言に秘密を洩らすミスが怖くて、けれど眠らなかったのは黙秘の為だけじゃない。
ただ眠れる貌を一瞬でも多く見つめていたかった、だから3ヵ月の逢えない時間が眠らせず夜は明ける。
「…寝顔かわいいね、周太は…相変わらず、」
そっと笑いかけたベッドの隣、寝息は安らがす。
微睡んだ睫の影やわらかに長い、すこし紅潮した頬なめらかにランプ照る。
幼い寝顔は呼吸音すこやかに澄んで規則正しい、その寝息の聞えない雑音に英二は微笑んだ。
―よかった、喘息そこまで悪化していないんだ周太、
まだ間に合う、その可能性と見つめるカットソーの肩すこし細くなった。
このまま攫って養生させられたら?そんな願いごとブランケット包まるベッドはまだ仄暗い。
12月の夜明は遅い、それでも必ず明けてゆく時間を寝顔に見つめながら長かった夜の記憶が軋む。
『英二、なぜ蒔田さんの執務室からボルダリングする必要があったの?』
周太は、見たのだろう。
―本庁のどこかに周太もいたんだ、たぶん窓から俺を見て、
金曜日の本庁で自分が何をしていたのか、その断片を見たのだろう。
だから問い詰めるため昨日は逢う約束して結局、この夜は質問と他愛ない話だけで終わる。
ふれたのは泣いているシャワーの背中と林檎の手、それだけの夜は抱きあえず寝顔を見つめて明ける。
けれど呼吸が聴こえる、触れなくても体温は温かい。
これだけでも自分には幸せで離れていた孤独すこし癒えてゆく、だからこそ今このまま願ってしまう。
ビジネスホテルの一室のベッド今ここから連れ出したい、そして高峰の世界へ攫ってしまえたら取り戻せるだろうか?
「…周太、北岳草のこと憶えてる?」
そっと呼びかけて腕すこし伸ばす。
ほんの少しで良い、そう願うまま眠る手の指先ふれる。
相変わらず少し小さな手、けれど指先だけでも温もりは優しくて縋ってしまいたい。
だけど今すべきことは縋ることじゃない、だって時動かしたのは五十年を超えたのは自分だ。
『私は馨くんも晉伯父さんも見殺しにしたんだ…すべて事実だと伯父さんは認めたよ、いつもどおり静かに笑ってな、』
そう自分に告げたのは父だ、そして晉の証言と証拠を渡してくれた。
この証言も証拠も三十数年前のもの、そこにある罪の連鎖は五十年前に始まっていた。
それは今も、この指先ふれている小さな手を絡め取ろうとして「昨日」が来て、けれど五十年前と同じに「昨日」は秘匿されている。
だって多分まだニュースになっていない、そんな推測と開いた携帯電話から昨日のページにアクセスして、その検索結果に微笑んだ。
「は…削除か、」
“ いま向かいのビルが窓割れた、なんか機動隊っぽいの突入したけど全員マスクしてる怖い何? ”
そんな一般市民の匿名記事が昨日は載っていた、けれど今もう消されて無い。
この発信した人は削除を怪訝に想うだろう、それでも「怪訝だ」という匿名記事もきっと消されてしまった。
こんなふうに現実は事実も圧殺する、それが誰の指示で何を目的とするのか?そして今指ふれる小さな手は「昨日」事実を見ていた。
『英二、僕は誰も死なせていないから』
そう周太は言ってくれた、あの言葉ひとつに「昨日」は解かる。
そこで周太は「誰も死なせていない」と告げて微笑んだ、それは周太の勝利だと言ってあげたい。
だって父が晉に告げられたのは「昨日、誰も死なせていない」とは真逆の現実だった、その鎖に周太は捕えられていない。
「すごいな、周太は…かっこいいよ、」
そっと微笑んだシーツの波の向こう寝顔は優しい。
くせっ毛やわらかな黒髪にランプ艶めかす、その前髪はざま小さな傷が見える。
額の生え際ごく小さな傷はあわい、それでも確かにある傷痕は夏のベンチの記憶に愛しくて、離れたくない本音の真中で寝顔が身じろいだ。
「ん…」
ちいさな吐息、きっと目が覚めるのだろう?
また離れてしまう刻限が来る、その覚悟に鼓動また軋んで痛い。
それでも縋れない小さな手から指先ゆっくり離して、けれど温もりが指を掴んだ。
「あ、」
眠りながら指を掴まれる、こんなこと前にもあった。
あのとき見つめた寝顔が今このベッドに瞳を開く、そして見つめてくれた黒目がちの瞳に自分が映りだす。
「…えいじ、」
ほら、優しい声が自分を呼んだ、この目覚めの声が好きだった。
同じ警察学校寮の隣の部屋、いつも徹夜で勉強して一緒に眠りこんだ。
そうして目覚めるベッドの朝はオレンジの香かすかに甘くて、開いたばかりの瞳の潤みが綺麗だった。
『宮田、なに見てんの?』
名字で呼んでくれる貌すぐしかめっ面になる、そんな貌は照れ隠しだったろうか?
あの頃ぶっきらぼうだった君の声、呼んでくれる言葉も今とは違っていた、それでも嬉しかった想いのまま微笑んだ。
「おはよう周太、そろそろ行くか?」
もう行かないといけない、自分も君も。
もうあの夏には戻れない、だって時間はリセットボタンなんてどこにもない。
ただ明日へ一秒後へ動いて留まることなど無い、3ヵ月前と今ですら夏の終わりと冬の初めに隔たれる。
そんな時の距離に横たわったベッドは抱きあうことすらなくて、それでも3ヵ月後その先には願えるかもしれない?
だって時間は今も動いていく、だから願える可能性の瞬間に英二は穏やかに笑いかけた。
「周太、今度の夏は必ず北岳草を見せてあげるよ?絶対の約束だ、」
絶対の約束を幾つもう結んだろう?
けれど今ひとつも叶えていない、まだ足掻いているばかりだ。
あの男を捕える証言も証拠もまだ足りない、足りることなんて無いかもしれない。
これは涯など見えない独りよがりの喧嘩にすぎない、それでも願いたい唯ひとりは黒目がちの瞳きれいに笑ってくれた。
「北岳草を僕に見せて、英二…信じるから、」
ほら、もう夜明は近い、今は暁闇に昏くても。
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