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萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

山岳点景:朱色山嶺

2015-05-31 00:21:00 | 写真:山岳点景
花咲く色



山岳点景:朱色山嶺

山躑躅が木洩陽に透けていました。

季節の彩り 6ブログトーナメント



椹池の森@甘利山下部は今が見ごろ、池の畔はレンゲツツジも咲きます。



まだ山頂はレンゲツツジが蕾がちです。



林道から山頂まで、レンゲツツジとヤマツツジあざやかな甘利山です。



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山岳点景:ある日の雲

2015-05-28 23:00:00 | 写真:山岳点景
翼ひと時、



山岳点景:ある日の雲

相模川の夕暮れ、こんな空が見られます。

朝日夕日空13ブログトーナメント

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第83話 雪嶺 act.2-side story「陽はまた昇る」

2015-05-27 22:00:00 | 陽はまた昇るside story
Which brought us hither 君の行方
英二24歳3月



第83話 雪嶺 act.2-side story「陽はまた昇る」

沈黙は守るほうが無難だけれど、でも解らなくなることも多い。

そう告げたのは君だ。
そのままに今も電話きっと繋がらない、そんな現実が迫る。

「三月だからね、県警の山岳警備隊は遭難対応でアテに出来ないからウチが動く、っていうのは建前で極秘処理するためだよ?」

指示するテノールはいつも通り明るい、けれど硬質な緊張わだかまる。
その理由は「極秘」のせいだ、そんな現実を上司は隊員一同へ告げた。

「犯人は山岳ガイドの男で山小屋に立て籠もり中、人質は小屋主ほか3名。内1名は総務省官房審議官、犯人の要求は強盗殺人犯の無罪判決だよ、」

総務省官房審議官、

その肩書に肚底ぐわりこみ上げる。
そこにある「極秘処理」そして明方の夢が英二を引っ叩いた。

『約束したよね英二、必ず見せて…なにがあっても、』

君が言っていた「何」はこれのこと?

―籠城事件ならSATが出る、官僚の救助なら尚更だけど総務省だって?

なぜ「総務省」なのだろう?

考えだして記憶いくつも重なりだす、これは「何」かある。
もう蟠りだす予兆とさっきの記憶に先輩が挙手した。

「小隊長、1月に起きた強盗殺人の容疑者が起訴されたとニュースで聴きましたが、犯人が要求するのはこの件ですか?」
「アタリだよ、ソレの件で立て籠もられちゃったね、」

応えてくれるテノールは落着いて明るい。
それでも静かな緊迫感に上司は口開いた。

「もう解かってるだろうけどSATが出るからね、で、現場が雪山だからウチがサポートしろってワケ。県警も一部の人間しか今は知らないから口外禁止です、」

説明する雪白の顔の向こう、窓ふる雪は積もりだす。
あわく白く滲みゆくガラスに気温が解かる、まだ正午前の時計に上司は言った。

「全員に拳銃携行と防弾ベスト着用を命じます、15分に救助車で集合。黒木は装備点検お願いします、浦部と宮田は手伝いあるから残ってね、」

指示されて速やかに動きだす。
そして三人だけになった部屋、秀麗な雪白の顔は溜息と訊いた。

「あのさ…浦部も宮田も射撃は上級だね?」

ほら「何」か告げられる。
この答もう解かるまま英二はきれいに笑った。

「俺にやらせて下さい、山での発砲は俺のほうが経験あるはずです、」

きっとそういう事だろう?
その予測に先輩が呼吸ひとつ訊いた。

「小隊長、サポートって狙撃もあるんですか?SATが出るのに、」
「可能性はある、」

すぐ応えてくれる声は落着きながら硬い。
きっと苛立ち隠している、そんなトーンが続けた。

「射撃上級者で雪山に強いヤツを1名選んどけって指示がきてる、ウチでは浦部と宮田と、あとは俺だね、」

該当者は3名、そこにある意図は何か?
それくらい予測はつく、だからこそ英二は踏みこんだ。

「その3人なら俺が適任だと思います、国村小隊長は指揮官ですし浦部さんは今回ガイド役になりますよね?」

名前に肩書つけて呼びかけて、その相手が真直ぐこちら見る。
いま立場を利用させてほしい、そんな意図くらい解かる男はため息吐いた。

「宮田の言う通りです、浦部は長野に詳しいからって県警からもガイドに推薦されたね、浦部には遭対協にも伝手があるよってさ?」

推薦されて当然だろう、だって地元だ。
そこに知人も多い先輩は尋ねた。

「国村さん、そんな提案が県警からあったということは県警の山岳警備隊は誰も出ないということですか?」
「それが上からの命令だね、」

即答して真直ぐに見つめてくる。
この「上から」は大元どこなのか?もう解かるまま微笑んだ。

「では俺が就くことで決まりですね、」

他の誰でもない、自分だ。

そんな予兆は目覚める前に始まっている。
だから夢を超えて約束は告げられた、そんな確信が可能性を見てしまう。

今日、君に再会できるのかもしれない?

―きっとSATは周太が選ばれる、そのために俺は、

今日もし君が選ばれるのなら、そのために自分は今ここにいる。
その行く先は安全など遠いだろう、それでも自分は後悔など欠片もできない。
こんな本音に全てが符号あわさってゆく、そして意図「あの男」が望む結末を覆したい。

―総務省官房審議官が人質なんて見え透いてるな、でも本人は何も知らなくて、

人質、いま被害者にされている男は何も知らないだろう。
きっと「あの男」が巧妙に仕向けたことだ、そう解かるから決めた願いに言われた。

「宮田、話したい人がいるなら伝言を託してください。きっと無事にすむと信じてるけどね?」

覚悟しろ、でも信じている。
そう告げてくれる眼差しは緊張して、それでも透けるよう明るく温かい。
そこにあるリスクの可能性は解かっている、それでも信頼と願いへ笑ってうなずいた。

「必ず無事に任務は果たします、」

約束を笑って、そうして願いごとひとつ見つめてしまう。
この願いはリスクと背中合わせ、それでも渇くよう願っている。

きっと今日の涯は死線、けれど君の行方に寄添えるならそれでいい。


(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】

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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚365

2015-05-26 20:56:59 | 雑談寓話
「私ならバイセクシャルでもつきあってくれるから一緒にいるのかな、だったら私じゃなくてもいいんだよね?」

なんて花サンが言った秋@小田代が原

彼女が言う通りかもしれない、けれどソレダケじゃ一緒にいられないだろう?

なんて思いながらも正直なんとも言えなかった、
だって花サンが求める「一緒にいる」は御曹司クンの等身大とは違う。
そのギャップをどう埋めるかなんて言ったところで本人たち次第だ。

いまさら自分が言っても仕方ないよな?

と思いながら話それまでにして小田代が原を楽しんで、
だけど車に戻って走り出すと花サンは言った、

「ね、もし彼に彼氏ができたら別れるって言われるのかな?」

可能性は何パーセント?
そんな質問に本人の言葉まま答えた、

「男との恋愛と女の人との恋愛は別らしいよ、御曹司クンには、」

別の感情

それが御曹司クンの本音だった、
そして比率は彼女の願いとは逆向きだ、そんな現実にため息吐かれた、

「やっぱりそれって…結婚は体面と子供つくるためってことかな、」

人間模様ブログトーナメント

出先ですけど少し書いたのでUPします、
コレや小説ほか楽しんでもらえてたらコメント&バナーお願いします、

取り急ぎ、



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Short Scene Talk 初夏点景-Side Story act.49

2015-05-25 00:36:11 | short scene talk SS
未来点景@初夏、ある休日
side story第83話+XX日後@陽はまた昇る続篇その後



Short Scene Talk 初夏点景-Side Story act.49

「見て英二、あそこ石楠花が咲いてる…きれい(ご機嫌笑顔)」
「うん、きれいだな周太?(石楠花に見惚れてる周太に見惚れる俺ああ幸せ)」
「僕ね、自生の石楠花が咲いてるとこ初めてみたんだ…ありがとう英二?(英二のお蔭だな照)」
「周太の初めてが俺で嬉しいよ?(別嬪満面笑顔)(なんでも初めては嬉しいなでも何よりあの初めては)」
「は…(じめてってえいじまたへんなこといってくるもうやだこんなとこでまでえいじのばかっ)…(照真赤)」
「周太?どうした、黙りこんじゃって、(疲れたのかな元気いっぱい歩いてたけど)」
「…なんでもありませんちょっとはなしかけないで(でも僕またひとりかんちがいかもぼくこそほんとは)」
「え?周太、なんで話しかけたらダメなんだ?…俺なんかダメだった?(しょんぼり顔)(石楠花であんなにご機嫌だったのに)」
「…だめかもしれないけどいまはいいから(照×真赤)(ほんとは僕がかってにへんなそうぞうしてるだけはじめ…に照×悶々)」
「周太、ダメなことちゃんと言って?俺がんばって直すから(ってアレとかアレとか直してって言われたらどうしよう困る)」
「…あのおねがい今ほんとちょっとほっといて?(照×真赤×悶々)(ああ英二また気にしちゃってくれてるでも困るからもう)」
「あっ、周太なんでいきなりハイペース?(周太けっこう速いよな山でも森林限界までは速いから)」



英二と周太の二人シーンが連載で縁遠い、とコメント戴いたので書いてみました。
もし続きが気になったらコメントなどで急かしてください、笑

Aesculapius「Dryad44」+第83話「雪嶺1」読み直したら校了です。
校正ほか終わったら第83話かFavoniusの続きを予定しています、久しぶり読切かもしれません。
小説・写真ほか面白かったらバナーorコメントお願いします、続き書こうって励みになるので。

取り急ぎ、



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山岳点景:竜の銀鱗

2015-05-24 16:36:15 | 写真:山岳点景
森の底、光のかけら



山岳点景:竜の銀鱗

銀竜草です。
ずっと見たくて今日やっと逢えました、笑



森の底、初夏ひそやかに落葉から芽ぶきだす。



銀色やわらかに透ける花は不思議な空気があります。



山の森林帯に隠れるよう咲く花です。
移植は難しく採られたら絶えるだけ、けれど触れず残せば毎年そこで逢えます。



だからまた来夏、こっそり行く予定です、笑

そして今年も行きました↓笑
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山岳点景:山藤峠

2015-05-23 21:00:00 | 写真:山岳点景
春の残像、夏の兆し



山岳点景:山藤峠

山藤@山梨県笹子峠です。



標高の高いここでは今、藤の季。
園芸種より涼やかな花姿は凛と気品さわやかに清らかです。



藤は公園より山が似合うな、という個人的感想でした、笑

5月の風景(2015) 2ブログトーナメント
花咲く山  1ブログトーナメント

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山岳点景:初夏の夕空

2015-05-22 21:00:00 | 写真:山岳点景
夏、近くに



山岳点景:初夏の夕空

相模川の夕景です。

朝日夕日空11ブログトーナメント


ブログ書きましたブログトーナメント

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第83話 雪嶺 act.1-side story「陽はまた昇る」

2015-05-21 22:00:00 | 陽はまた昇るside story
‘it’s a dull and endless strife はてない朝
英二24歳3月



第83話 雪嶺 act.1-side story「陽はまた昇る」

夢、そう解かっている。
それでも白銀あざやかな蒼穹まぶしい、雪山の朝だ。

―この稜線はあそこか、もう標高3,000は超えてる、

夢、けれど吐く息あわく凍えて白い、めぐらす銀嶺のきわ融けてゆく。
頬なぶる風は髪も凍えさす、呼吸あがる鼓動が熱い、この感覚リアルに温まる。
いま眠っているのだと自覚していて、それでも白と青の世界が嬉しくてたまらない。

登っているんだ、三千峰に。

『…英二?』

呼んでくれる声、でもリアルにこの場所では呼ばれない。
けれど今こうして呼ばれるなら逢いたくて、また聴きたかった声が言う。

『英二、北岳草を見せて?』

約束、憶えてくれてるんだ?

そう訊きたくて振向いて、けれどいない。
見あげた先にもどこにもいない、こんなに逢いたいのに?

『約束したよね英二、必ず見せて…なにがあっても、』

なにがあっても、って「何」がある?

訊きたい、けれど声も出ない。
ただ視界だけ見まわして、そして姿ひとつ現れない。
ただ白銀まばゆい稜線、青い空、それから舞いあがる風花の光。

「…しゅうた、」

名前こぼれて視界ゆっくり披きだす。
ほの暗い天井は夜明が遠い、そうして現実の朝は明けた。



かたん、

椅子ひいて座った食堂、昼の香が腹を空かせてしまう。
こんな日でも人間は食べられる、そんな自覚おかしくて英二は独り笑った。

「ふ…俺もタフだな、」

つぶやいて、でも周り誰も聴いてはいない。
まだ早めの時刻に席は空いている、けれどすぐ埋まるのだろう。
その日常にジャージ姿で箸とった向かい、かたり椅子ひかれて笑顔が座った。

「宮田さん、トレーニングルームにいたんですか?」

あ、この声いま一番聴きたくなかったかも?

なんてつい想ってしまう自分に笑いたくなる。
こんなにも今はナーバスだ、けれど切り替え笑いかけた。

「おつかれさまです、浦部さんはランニングマシンでしたね、」
「見てたんだ?声かけてくれたらよかったのに、」

笑顔さわやかに返してくれる、でも今はなんだか小憎らしい。
そう想ってしまう本音はきっと夢の所為だ。

―なんで周太が三千峰で呼ぶんだ、登れない標高なのに、

いるはずのない場所、けれど声だけは呼んでいた。
どうしてこんな夢を見たのだろう?その心当たりに記憶がメール読みあげる。

From  :周太
Subject:Re:哲人
本 文 :写真すごくきれいでした、ありがとう。
    都心も冷えこんでいます、鍋料理がおいしかったです。
    沈黙は守るほうが無難だけれど、でも解らなくなることも多いって僕は想うよ?

この最後の一文ずっと考えこんでいる。

“沈黙は守るほうが無難だけれど、でも解らなくなることも多い”

これは何を伝えたい?
訊きたくて、けれど聴けないまま時過ぎてゆく。
こんなふう逡巡するなんてらしくない、もどかしさごと飯ひとくち呑んで呼ばれた。

「宮田さん?」
「はい?」

応え笑いかけた先、白皙の笑顔が瞬きひとつする。
端正な瞳すこし困ったよう見つめて、そのまま穏やかに訊いてくれた。

「なんだか宮田さんボンヤリしてますね、いつも緻密なのに。何かあったんですか?」

あった、でもおまえには話したくない。

そう肚底また毒づいてしまう、こんなのは八つ当たりだ。
そんな自覚また可笑しくてつい笑って応えた。

「俺もボンヤリくらいしますよ、話聴いてなくてすみません、」
「いや、たいした話はしてないから、」

爽やかなトーン言ってくれる、その言葉に他意はない。
こんなふう良いヤツだとは解かっている、それでも腑に落ちない核心ずばり言われた。

「湯原くんのこと話していたんです、高田がメールやりとりしたこと、」

ほら、そういうこと言うから癪なんだ。

―俺より周太の行動知ってるみたいでムカつくんだよな、盗聴器じゃメールは解からないし、

電話や会話ならいくらか把握している、それは小さな機械のお蔭だ。
それは安全確保のために使っていて、けれど本人が知ったら怒るだろう?

―無断で盗聴なんて周太きっと怒るよな、でも心配だし、

君が心配でたまらない、だって「普通」の状況にいない。
もし「何事もない」生活してくれるならこんなことはしない、でも今は違う。
こんな現実は本音やっぱり重たくて、だから見たかもしれない夢に訊きたくて尋ねた。

「高田さんには仲良くしてもらってるみたいですね、森林学講座の話ですか?」
「うん、本を教えてもらったらしいよ、」

なにげない笑顔さわやかに教えてくれる。
ごく当たり前の態度は警戒の必要ないだろう、けれど水飲みかけて言われた。

「高田と湯原くんが仲良くなったキッカケって、盗聴器のことだって聴いてる?」

え?

「っ…ぐはっ」

噎せこんで水ぐわり逆流する。
掌に口もと抑えこんでなんとか呑みこんで、けれど咳が始まった。

「ごほっ、こんごほっ」

ああカッコ悪い、こんな不意打ちくらうなんて?

いま盗聴のことを考えていた、だから後ろめたさが噎せこます。
こんな事態あまりに不甲斐なくて、その張本人がティッシュさしだしてくれた。

「大丈夫?こんな噎せるなんて風邪気味かな、」

おまえの所為だってば?

「ごほっ…だいじょ、ぶですっごほ」
「うん、でも風邪の前兆かもしれないよ?ここのとこ忙しかったし、今朝も冷えこんだから、」

応えながら食卓まわり拭いてくれる。
色の白い手、けれど大きく頼もしいのが今は癪で、それでも微笑んだ。

「風邪ではありません、ちょっと水に噎せただけです、」
「念のため今日はゆっくりしたほうがいいよ、せっかくの非番だし、」

大丈夫?そう微笑んでくれる言葉は優しい。
その優しさも癪で、こんな自分勝手おかしくて見た窓に声が出た。

「あ、雪?」

ふわり、白くガラスふれて消えてしまう。
その珍しさに先輩も頷いた。

「三月の雪だね、東京だと珍しいけど、」

三月の雪、

そんな言葉に去年が懐かしい。
もう一年経つ記憶は雪まとう、あの場所も人々も懐かしい。

―鋸尾根も雪が深いだろうな、吉村先生は往診かもしれない、

雪ふる山の町、そこが自分の日常だった。
温もりも厳しさも学んだ場所、あれから隔たった今を先輩が微笑んだ。

「今日は大学の合格発表なんだね、ニュースが賑やかだ、」
「はい?」

言われてふり向いたテレビ画面、見憶えあるキャンパスが映っている。
悲喜いりみだれた光景は例年通りで、そして本音すこし妬けてしまう。

―俺も受験したかったな、内部推薦なんかじゃなくて、

自分の大学受験は母が壊してしまった。
けれど本当に壊した人間は別にいる、その事実ゆるやかに肚焦がす。

―観碕がいなかったら俺もここにいない、そして周太も、

観碕征治、

あの男ひとりいなければ自分たちの今は違う。
それは幸せだったろうか、けれど出逢えなかったかもしれない。
幸福か不幸か、そのジャッジ決めかねるまま気になることを確かめた。

「浦部さん、盗聴器って国村さんの件でしょうか?七機に赴任したころ、」

そう表向きは始末されている。
そのままに先輩はうなずいてくれた。

「そうだよ、やっぱり聴いてるんだね?」
「はい、無線とラジオで探知したんですよね、」
「高田はあれが巧いんだ、工学部出身だけあるよ。湯原くんも工学部なんだってね、」

話してくれる笑顔は穏やかに清々しい。
この貌なら「湯原くん」も親しくなるのは当然だろう?納得に妬ける傍らニュースが言った。

「1月に…で起きた強盗殺人の容疑者が起訴されました、本人は否認するも…また余罪の可能性が」

この事件、前にも聴いた?
その記憶と箸うごかし会話して、ふっと足音に意識とられた。

―黒木さん?でもなんか違うな、

足音で誰なのか解かる、けれどいつもと違う。
かすかな違和感に顔上げてすぐ硬い声が呼んだ。

「宮田、浦部、すぐに来い、」

ほら、「何」かが起きた。



【引用詩文:William Wordsworth「The tables Turned」】

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山岳点景:金銀花の夜

2015-05-20 23:59:12 | 写真:山岳点景
薄暮の馥郁



山岳点景:金銀花の夜

忍冬、すいかずらが川に自生していました。
すいかずらは金銀花とも書きます、花が白から黄色と変化するためです。
薬効のある植物で漢方薬に使われています。

お散歩写真(2015/5月)ブログトーナメント




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