萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

登山装備:遭難事故のNG心理

2017-08-31 21:57:26 | 解説:用語知識
自己分析×客観性=安全確保


登山装備:遭難事故のNG心理

今夏も遭難事故多発してましたけど、
トンデモ遭難者がブログ閉鎖したりもあったんだとか。
ツイッター&ブログで救助してくれた警察官に逆切れした一部始終UP

非難お叱り@リツイート&コメントその他

なんて顛末だったらしいですけど、
そりゃ遭難するだろーって装備&技術なヒトだなと。
で・遭難事故の起きやすい条件って何か?言うと、

「遭難したら警察or消防が助けにきてアタリマエ」

なんて安易な考えが一番の遭難原因で、笑
そんなトンデモ遭難者予備軍ホント最近多いです。

○単独行
○地図なし
○登山計画なし
○道迷いの対処も知らない←迷ったら「元来た道を戻る=登り返す」大原則を知らない。
○装備不足&レベル不足←各自装備・安全確保は自己責任

上の5つは警察・消防・民間どの山岳救助隊でもNGに挙げています。
これ5つ全部当てはまって遭難したら、そりゃー救助隊員に怒られてアタリマエ。
山の常識ワキマエナイ危険と恥をキッチリここで覚えないと、次は死ぬからです。

こーゆートンデモ遭難者は遭難時の対応をまったく出来ません。
対応できない=救助する側が無理を強いられます、そのために救助隊員が重傷・殉職した例は少なくありません。
それでもトンデモ遭難者は「救助隊員が死んだけど登山自体は楽しかった」なんて言っちゃったりします、
それくらい無謀遭難者は「自分が悪かった」自己責任が皆無です。

なぜダメなのか反省しない=学習能力が無い

ってことです、反省しないから欠点克服も出来ないワケです。
そのため同じように遭難して、次は死んでしまったなんて例も実際あります。
この8末に話題になったトンデモ遭難オバサンは単独行でしたけど、二人組女性が同じ場所で遭難した二度めに死亡しました。


で、なんで上5つダメなのか?っていうと、

1.単独行=アクシデント対応が困難。

山は危険な場所、アクシデントが普通に起きるところです。
たとえば「道迷い」のとき二人だと話し合うことで冷静になれます。
もっと差があるのは「野性獣との遭遇」クマなどに襲われる危険度は単独だとかなり高いです。
転滑落でも複数人数なら、無事なほうが救助対応&通報できるため生還できるパーセントが高くなります。

2.地図なし・登山計画なし・道迷い対処も知らない

この三つそろえば「道に迷う」条件コンプリート、笑
道迷い遭難の行く先は→崖や滝を無理に降りようとして転滑落→遭難死、
なんてこと珍しくありません。

で、こういう遭難事故は低山に多発しがちです。

標高が低い=安全、っていう誤解が事故直結なワケです。

標高が低い山は仕事での入山も多い=作業道が多い。
標高が低い山は野性獣も多く棲む=獣道が多い。

こういう道は登山図に載っていないものも多いです、
そのため登山ルートを知らず歩いて迷いこむ、なんてよくある話。
実際、行方不明看板よく見るのは標高2,000メートル未満の山域が多いです。

あと、よくあるのが「赤テープ」の誤認です。
登山ルートを示す赤テープだと思って辿ったら、途中で消えてしまった。
なんてよくある話で、元来た道を引き返せばいいのに無理に下るから迷います。

3.装備不足&レベル不足

水筒も各自で持たず、
運動靴でジーパンで、帽子も被らず、
手ぶらビーチサンダルで登山して、倒れそうフラフラ歩行。

悪天候の予兆あるのに無理に登る。
コースタイム知らず日没までに下山できない。

なんてやつら最近よく見ますけど、特に登山ツアーらしき団体サンに多いです。
登山ツアーは初対面同士+レベル違いも多く、引率の添乗員自身が山の知識皆無なんてことも。
実際に今夏、1時間以内に雷雨がくるだろうトコをムリに登っていく登山ツアー団体を見ました。

その30分後に麓でも雨が降りだしました、山は黒雲に覆われていたので視界カナリアウトだったと思います。

夏山の午後は雷雨がよくあります。
朝露が太陽熱で蒸発して雲になり、上空で冷やされた水滴が雷雨になるためです。
そのため夏は正午には下山完了することが安全原則、そういう基本も知らない添乗員に引率されるってことです。

キャンプや散策ついでの無防備登山も多いです。
男3人組4人組によくいるし、ご家族連れでもよくいます。
たいがい「行けるとこまで行ってみよう」なんて安易な考えから登るらしいですけど、

行けるとこまでが果てるとき=体力限界→遭難死

山で体力限界になれば「逃げられない」死を待つしかないってことです。
夏はよく無防備登山から行動不能、最悪は疲労凍死なんてこともよくあります。
夏に凍死なんてないでしょーなんて思ったら大間違い、もういちど「気化熱」について学んでください、笑

雨天の夏山は気温一気に下がります、雨でぬれた地表が冷めるためです。
人間の肌も同じこと、汗と雨に濡れた×山の強風で体温が一気に奪われます。
登山による疲労でカロリーを失ったところで体温を奪われて→疲労凍死に陥ります。

疲労凍死は夏から秋、午後の降雨が多いシーズンに多発しています。
観天望気と装備がちゃんとしていれば防げることです。

平地と山地は気象の別世界、
特にこれから秋、10月の山は降雪もありえるので雪山装備+車もタイヤチェーン必携です。
昨シーズンも11月初旬、標高2,000あたりから雪道になった林道で立ち往生している車いっぱい見ました。
登山道でもアイゼンなしで登っちゃったウッカリハイカーも立ち往生、すぐ登山中止を促しました。
そんな11月初旬@北奥千丈岳の山頂はコンナカンジです。


ここ近年、登山がファッションみたいに流行って、
イケメン俳優がボルダリングや登山をやってる俺カッコイイーみたいなこと言ってたり、
テレビ企画で登山させて感動するでしょうカッコいいでしょうみたいなこと演じちゃったりして、

そうだ山に登ろうWEBちょっと検索、

なんてヤマレコやハイカーブログとか見て、
軽装備カッコいいとか・無理矢理コースタイムがデキルヤツとか勘違いして、
そんなこんなで無謀無防備ハイカーになっちゃって結局、迷惑かけたくせに逆ギレしたりなんかする。

なんてバカしちゃって結果、遭難死とか哀しいのでこんな記事UPしてみました。
山を歩きたい誰もが・無事安全平和に山を楽しめるといいですね。


ねえ、ちょっと聞いてよ31ブログトーナメント
撮影地:山梨県、東京都

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第85話 暮春 act.34-side story「陽はまた昇る」

2017-08-30 09:33:00 | 陽はまた昇るside story
My world’s both parts, and,
英二24歳3月下旬


第85話 暮春 act.34-side story「陽はまた昇る」

雪の森が果てた、君が呼ばれる。
名前で呼んだ、この女が君を?

「なんで周太、小嶌さんが名前で呼ぶんだ?」

どうして君、あの女に名前で呼ばせてる?
訊きたくて見つめた肩越し、背負われる瞳がはにかんだ。

「あの…英二、おろして?」

このままは恥ずかしいよ?

そんな頬ゆるやかに赤くなる貌、オレンジ甘く香る。
この香こんな時でも甘い、それでも今はもどかしさ口開いた。

「教えないと降ろさない、なんで名前で呼ばせてんだよ周太?」

あの女にまで、なぜ?

離れている時間なにがあったのだろう、知りたい。
わからない靄に掻きむしられる、それなのに黒目がちの瞳はゆっくり瞬いた。

「なんでって…光一にも名前で呼ばれるでしょ?」
「光一は幼馴染だからだろ、俺よりつきあい先なんだからあたりまえだ、」

反論すぐ口ひらく、掻きむしられる。
渇いた唇の肩越し、澄んだ視線が見つめ返した。

「僕…今の大学の友だちも名前で呼んでる、よ?」

そんなこと聴いていない。

「どんなやつ?」

つい訊き返した喉が熱い。
渇くような感覚に黒目がちの瞳が言った。

「僕の研究パートナーだよ?僕、これから研究に生きるんだ、」

おだやかな声が自分を見つめる、真直ぐ逸らさない。
その意志もう解って、吐息ごと微笑んだ。

「そっか…よかったな?」

よかった、君は君の道を見つめている。
それがただ嬉しくて、けれど喉が熱い。

「またちゃんと話すね、大学のことも…聴いてくれる?」
「うん、聴かせてよ、」

相槌とりあえず唇を嗄れる。
こんな感覚は知らない、こういう感情なんて言うのだろう?
わからなくて、解らないまま背中の温もりが笑った。

「それでね英二、おろして?光一と美代さん待ってくれてたんだから、」

とん、

肩そっと君の手が敲く、敲かれて腕ほどかれる。
オレンジの香あまく頬ふれて、温もり離れてしまう。

「ありがとう英二、」

さくり、

雪かろやかに登山靴が降りる。
ただ見つめる真中、黒髪くせっ毛の笑顔くるり踵かえした。

「光一ありがとう…だいぶ待たせちゃって、ごめんなさい、」
「ホント待ったけどね、英二ほどはクタビレてないんじゃない?」

からりテノール笑ってこちら見る。
底抜けに明るい瞳いつもと変わらない、けれど喉が熱い。
さっきから自分はどうしたのだろう?わからないまま君の声が聞こえる。

「美代さんも待たせてごめんね、寒かったでしょ?」

そういえば君、あの女も名前で呼んでいるんだった。

「へいき、私の地元だもん、」
「あ、そうだったね?」
「そうだよ周太、美代は奥多摩ならヤマンバだからね、」
「やまんば?」

雪の森の涯、三人とも笑っている。
三月の冬に愉しげで、溜息ひとつ英二は車の鍵だした。

―顔合わせたくなかったな、やっぱり、

これはたぶん、疎外感だ?

どこか自分だけ違ってしまった、そんな想い運転扉のキー回す。
このまま車に籠ろうか、このまま帰るのもいいかもしれない?

それに、あの「呼出」そろそろ構ってやるほうが良いだろう。

『例の嘱託OBが長野の件を聴きたいらしい、』

新宿駅で呼び出されたコール、あの電話相手にも迷惑かかる。
想い左手首ながめた文字盤は短針2、もう下山時刻だ。
もう満足していい、だって君に逢えた。

『どんな貌でも逃げないことが愛することなんだよ英二!だから僕はここにいるんだっ、』

さっき君は言ってくれた、あれだけで幸せだ。
幸せなまま今を帰ったほうがいい、そう想う、けれど。
つい思いあぐねるドアノブの手、さくさく軽やかな雪音かたわら停まった。

「拗ねてんのかね、俺のアンザイレンパートナーはさ?」

そういうの今、ちょっと聞きたくないんだけどな?
けれど抛りだすのも違うだろう、ため息ひとつ呑みこんで笑った。

「ごめんな光一、俺もう帰らないと、」
「ふうん?今日はおまえ、週休なハズだけどなんで?」

白い息テノール笑って訊いてくれる。
元部下の予定ちゃんと把握しているらしい?そんな元上司にすこし笑った。

「上からの呼出を無視して来たんだ俺、山で自主トレしてるから戻れないってさ。遅くなると黒木さんに迷惑かかるだろ?」

これだけ言えば、この男は解る。
そんな信頼に元上司は唇のかたはし上げた。

「へえ?今朝のニュースが寝たジジイを起こしちまったかね?」

ほら解ってくれる。
白い息くゆらす林道の端、ちいさな安堵と微笑んだ。

「今は老人を寝つかせたいんだ、だから帰るな?」
「ふうん、?」

雪白の笑顔ちょっと首かしげて見せる。
その聡い瞳じっと自分を見て瞬間、額ばちり弾かれた。

「いてっ、」

じくり、眉間まんなか痛覚にじみだす。
痛みしかめた白銀の視界、底抜けに明るい瞳が笑った。

「あははっ、おまえでもソンナ貌するんだね?こりゃ眼福だ、」

青い登山ウェアっからり笑ってくれる。
あいかわらず陽気なザイルパートナーにため息吐いた。

「ごめん光一、今ちょっと揶揄われるのキツイから…わかってやってるだろ?」
「ちっともワカランけど?」

即答からり、聡い視線が笑ってくる。
その眼まっすぐ自分を映して山っ子は言った。

「今はおまえ、美代と話しな?ほら、」

青い登山ウェアが後ろ指す、そのむこう翡翠色が雪を来る。
白銀ふる森の涯、緑一点に山っ子は笑った。

「オマエが想ってるより美代は気難しヤだね、安心しな?」

ぽん、

背中かろやかに一発、敲いて青い背中くるり踵かえす。
白い息くゆらせ雪の林道、薔薇色の頬が目の前に立った。

「宮田くん、」

澄んだソプラノひとつ、真直ぐ自分を見あげる。
こんなふう見つめられたことがある、けれど前とは違う視線に微笑んだ。

「ひさしぶり、小嶌さん?」

何を話せと言うんだ、この女と?

―気難し屋だと安心って、なんだよ光一?

心裡つい尖りだす。
なんだか理不尽だ、そんな本音に紙コップ差しだされた。

「あのね、味噌汁の味見してください、」

塩からい芳香ふわり、湯気くゆる。
その言葉が予想外で、ひと呼吸に納得と笑った。

「農協の試作品?」
「そうです、感想を聞かせてください、」

ちいさな手ひとつ、紙コップの湯気くゆらす。
けれど出しかねる手に澄んだ瞳は言った。

「奥多摩交番にも届けてきたとこなの、アンケートも。宮田くんは自主トレで奥多摩に来たんでしょう?」

奥多摩交番、自主トレで奥多摩。
連ねられた言葉に意図わかって、つい笑ってしまった。

「それって小嶌さん、アリバイ証拠だって言ってる?」

この女にそんな提案されるんだ?
意外で笑った前、薔薇色の頬にっこり笑った。

「相互扶助は山のルールでしょ?アリバイ協力するからアンケートお願いします、冷めないうちに、」

言葉と芳しい湯気さしだされる。
受けとらざるを得ない、そんな香る紙コップつかんで温かい。


(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】


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深夜雑談:残暑にも温もりを

2017-08-29 23:49:00 | 雑談
残暑まだ厳しい8月下旬、とはいえ温かい紅茶もたまにはイイもんです、笑


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山岳点景:夏草の午後

2017-08-28 18:20:00 | 写真:山岳点景
残暑の陽、夏草ゆらす秋の青。


心象的原風景 op.7ブログトーナメント
撮影地:相模川@神奈川県

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山岳点景:太古の森、夏

2017-08-25 21:04:14 | 写真:山岳点景
山国の首都ふところ奥深く、太古の森。
苔むす磐根はしる水、木洩陽そめる緑の朝。


心象的原風景 op.5ブログトーナメント
撮影地:原生林の渓谷@東京都奥多摩某所

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第85話 暮春 act.33-side story「陽はまた昇る」

2017-08-25 14:00:40 | 陽はまた昇るside story
it dyes red souls to white.
英二24歳3月下旬


第85話 暮春 act.33-side story「陽はまた昇る」

銀色の静謐、君の音だけ温かい。

さくり、さくっ、

雪やわらかな足音ついてくる、規則正しい登山靴の声。
この音が幸せだった去年の冬、こうして雪山ふたり歩いた時間。

さくり、さくっ、

歩幅リズム規則正しい、几帳面な登山靴の雪。
たしかに君の足音で、でも小さな違和感どこか疼きだす。
こんなふうに幸せだった時間もう遠くて、けれど背中くゆらす香が甘い。

―はちみつオレンジのど飴だ、周太の、

さわやかに甘く柑橘が匂う、君との時間の香。
あの時間ただ幸せだった、ただ懐かしい香に英二は微笑んだ。

「周太は一人で雪山って初めてだろ、よくトレースして来られたな?」

前を見て脚止めないで、それでも香の貌なんだか分かる。
きっと黒目がちの瞳すこしはにかんで、あの唇すこし微笑む。

「ん、足跡ちゃんと見えたし…ぼくなりいっしょうけんめいで、」
「なんか嬉しいな、そういうの、」

振りかえらず笑いかけて、背中くゆらす香どこか甘い。
この香いつも隣にいた夜があった、春から夏、けれど二年も経っていない。
あのころより時間いくつも共にして、それなのに背後どこか遠くて、遠い分だけ甘い香に立ち止まった。

「…どうしたの英二?」

背中すぐ呼んでくれる、君の声。
けれど振りむく勇気ないまま笑いかけた。

「このペースで周太、大丈夫かなって思ってさ?雪のなか歩くの大変だろ、」
「ん…ありがとう英二、」

応えてくれる声、見なくても貌が解る。
穏やかだけど不思議そうなトーン、その気配に訊いた。

「もしかして周太、右脚ちょっと辛い?」

雪ふむ音、さっきから違和感がある。
気になっていた背後の香、かすかに身じろいだ。

「ケガしてるんだろ、周太?」

問いかけて返事はない、でも解る。
息白く笑って雪の上、片膝ついた。

「無理するなよ周太、おいで?」

背負わせてほしい、ゆるされるなら。
想い差しだした背中、そっと体温もたれた。

「…ありがと、」

ぼそり、つぶやくよう言ってくれる。
ぶっきらぼうなトーン懐かしくて、記憶と背負い笑った。

「周太、最初におんぶした時のこと憶えてる?」

あの時は夏だった、今はもう唇に息白い。

「ん…山岳訓練のときだね、警察学校で…」

答える息白く目の端かすめる、君は今こんなに近い。
また少し近づいた温もり嬉しくて、ただ幸せに笑いかけた。

「あのころより周太、すこし軽くなったな?」
「そう、かな…」

応えてくれる吐息が白い、かすめるオレンジの香ただ幸せになる。
幸せで、それでも気懸かり問いかけた。

「周太?どうして右足、ケガしたんだ?」

あの雪崩にも怪我は無かった、なのになぜ?

「長野の病院でか?駐車場で岩田に狙われたんだろ、」

問いかけて背中の温もり動く、君が身じろぐ。
きっと訊かれるだろうな?予想して問われた。

「…英二、伊達さんに会ったんだね?」
「怖い男だよな、あいつ、」

さっきと同じ回答して背中の温度、すこし熱くなる。
ちょっと怒らせたろうか?ちいさな心配くるんで問い重ねた。

「それとも観碕が仕掛けたのか?」

あの男が、また君を狙ったなら?

「周太、観碕に何された?」

そうしたら自分は今度こそ踏み外す、もう傷つけられたくない。
君を護りたいと願う、そして、同じくらい「あの男」追いつめたくて止められない。
これ以上もし髪ひとすじでも傷つけるなら、どんなことしても自分はあの男を、きっと、

「違うよ英二…僕が転んだだけ、」

穏やかな声が耳ふれる、白い吐息しずかにオレンジ甘い。
声に香に君がいて、そのまま君が微笑んだ。

「僕ね、長野から葉山のお家にきてから眠ってばかりで…熱にうなされてベッドでようとして転んで、捻挫したんだ…ほとんど治ってる、」

だから大丈夫だよ?

そんな温もり背中くるんでくれる、ウェア透かして伝ってしまう。
こんなふうに君は優しくて気づかされる、結局いつも支えられてきたのは自分だ、この今も。

「そっか、…」

そんな君を今も雪中、無理させてしまった。
こんな自分に揺らぐ、こんな自分が君といて幸せにできるだろうか?
疑問になって、それでも離せない温もりの背中に声やさしく響く。

「英二、もうじき登山口に着くよね?僕もう自分で歩けるよ、」

君はやさしい、こんなになっても。
だから離せなくなる、ただ想い背中に微笑んだ。

「背負わせてよ周太、今だけでもさ?」

今だけでも、どうか今この時だけでも温まらせて?
君の温もり背中くるんでほしい、そうしたら体温ずっと憶えている。

その記憶だけでも今どうか贈って?

「今だけって…英二?」

耳もと君の声が訊く、温かい白い吐息ゆるやかにとける。
オレンジの香やわらかに返事を待って、あまくて、呼吸ひとつ登山口に着いた。

「やーっとオカエリだねえ、エロ別嬪さん?」

懐かしい声が跳んで、ばちり額を弾かれる。
じわり痛覚に瞬いた視界、雪のまんなか青い登山ウェアが笑った。

「周太ちっとも帰ってこないから救助出動するトコだったね、退職したバッカリなのにさ?超過勤務の請求しちまおうかねえ、み・や・た?」

今ちょっと会いたくない相手だ?
そのくせ肩ふっと軽くなって、そんなアンザイレンパートナーに笑った。

「ごめんな光一、俺が周太と話しこんでたんだ。温かいもの周太に飲ませてくれる?」
「もう支度してくれてるよ、ほら?」

雪白の笑顔からり指さしてくれる。
その先たたずむ黒髪に唇そっと噛んだ。

―もっと見たくない顔だな?

黒髪ゆらす頬、薔薇色やわらかに雪を映える。
白銀の森ふもと、翡翠色あざやかな登山ウェア姿は笑った。

「よかった周太くん、ちゃんとつかまえたのね?」

今、なんて呼んだ?

(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】

第85話 暮春act.32← →第85話 暮春act.34

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未来点景 soliloquy 微睡の庭で―another,side story

2017-08-24 14:53:00 | soliloquy 陽はまた昇る
The Winds come to me from the fields of sleep,
周太another,ss予告編@第85話+XX日


未来点景 soliloquy 微睡の庭で―another,side story

君を待つ、眠りの水面。

「…ん」

瞑らす闇あわく光る、木洩陽きっと瞼の上。
ゆらゆら微睡む光の影、この影いくつ数えたら逢えるだろう?

“いってきます”

笑って君は扉を開けた、庭木立あの門をくぐり山へ発った。
木洩陽ゆれた輪郭まぶしい緑、あの横顔いくども描いて眠りに見る。
緑きらめく横顔すこし振りむいて、そうして門のかたわらガレージ空になった。

あの場所が埋まる時を待っている、いつものベンチ緑ゆれる夢。

「…まだお昼だ、ね?」

瞼の木洩陽に時つぶやく、ほら?ひとりごとすら待ちわびる。
瞑った明滅ゆれる光に時を読む、君が帰るころには光あわいだろう。
こうしてベンチ座るまでには来ない、それでも、もしかしたらと居眠り揺れる。

“ただいま”

その声を聴きたい、君の声で。
この頬ふれる風が涼しい、この温度が君の指になれ。
やわらかな甘い樹木の香、この芳香が君くゆる香になれ。

君は帰る?森から、僕の隣に。


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山岳点景:風湧く滝

2017-08-23 10:19:01 | 写真:山岳点景


水奔る谷、風ふきあがる飛沫。


林道から5分強、
崩れかけ水あふれる山道をたどると見える白布、白糸の滝です。


落差35メートル、豊かな水は風いつも巻き起こります。


ちいさな淵、けれど竜が棲む伝説の滝です。


第41回 ☆私の趣味はコレです!☆ブログトーナメント
撮影地:白糸の滝・今倉沢@山梨県小菅村

入渓口までの林道はダートコースもあり、雨後雨中の運転は危険です。
林道から滝まで5分ですが登山道になります、登山靴必須×落石山崩れ要注意です。
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山岳点景:夏色渓谷

2017-08-22 23:46:11 | 写真:山岳点景
緑滴る底ふかく、奔る水瀬の音


風景や街並み53ブログトーナメント
撮影地:今倉沢@山梨県小菅村

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休日雑談:安穏の窓

2017-08-20 12:45:07 | 雑談
おとといも昨日も風×雨×雷、ここんとこ不安定な神奈川の空は今日も曇天。
おかげで涼しいからエアコンつけず開けた窓、ノンビリ悪戯坊主は寝そべり。
そんな網戸ごし、朝顔も黄葉そめる秋の気配。


ネコ記事(14th)ブログトーナメントもふもふ白猫×朝陽に透ける朝顔黄葉、笑 
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