隣で、
9月27日誕生花コスモス
長月二十七日、秋桜―harmony
くすんだ甘い乾いた香、秋が匂う。
もう秋になって冬が来る、何度目?
「おい、」
慣れた声こつり、頬こづかれる。
ちいさな熱すっと滲んで、慣れた感覚に振り向いた。
「なあに?」
「上ばっか見てると危ないだろ、ほら?」
隣が足もと指さしてくれる、その手が大きい。
こんなに大きかったろうか?
「水たまり気づかなかったろ、ローファー濡らすぞ?」
学生服姿が指さしてくれる、その水面が青と黄色ゆらす。
うつろう色やわらかに輝いて、惹きこまれるまま踏みこんだ。
「うわっ、」
ぱしゃん、
飛沫はじいて声が跳ぶ、水面きらきら色はじける。
波ゆらす光ローファー輝いて、隣の革靴に光ちりばめた。
「きれい、」
想い声になって微笑んでしまう。
青と黄色ゆらす水鏡まんなか、低い声が笑った。
「おまえ、ほんっと変わらないよなあ。水たまり飛びこむとかさ、じょしこーせーのやることじゃねえだろ?」
低い声ほがらかに笑ってくれる。
その笑顔こそ変わらなくて、うれしくて笑った。
「そっちこそ変わらないよ?笑ったら幼稚園のまんまだもん、」
「幼稚園って、おまえこそレベル園児だろ?」
変わらない笑顔に木洩陽ゆれる。
笑ってくれる睫こぼれる陽、その先ふる色を仰いだ。
「もう黄葉してるな、」
「ん、」
水たまりから仰いだ頭上、黄色ゆらめく青まぶしい。
もう秋が来てしまった、うつりゆく時間に幼馴染が言った。
「受験まで4ヶ月ないな、」
黄葉そめる、もう9月が終わる。
そうして訪れる期日に隣を見あげた。
「あのね…大学どこにするの?」
問いかけた先、ほら視線が高い。
身長差こんなに違ってしまった、そんな瞳が自分を見た。
「やっぱ地元は受けないよ、そっちは?」
問いかけてくれる声、ほら?低い。
声から変わって、けれど変わらない瞳に口ひらいた。
「私は東京…行きたい学科だと、」
やりたいことがある、そのために行かなくちゃいけない。
けれど離れがたい公園の道、離れがたい瞳が笑ってくれた。
「同じだな?一緒にがんばるか、」
一緒に、そんな言葉これからも言ってくれる?
「うん、一緒にがんばろ?」
答え笑いかけて木々が薫る、くすんだ甘い深い香。
もう秋で、その先にある花を君が笑った。
「一緒に東京の桜、見ような?」
桜、さくらさく。
その意味たどりたい願いの先、この隣にいたい。
そんな願いごと唇なぞらせ薫る道、薄紅色ゆれて微笑んだ。
「そこにも秋の桜が咲いてるよ、合格祈願になるかな?」
秋桜:コスモス、花言葉「純潔、乙女の真心、調和、謙虚、愛と生活がもたらす喜び」
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