その場所を求めて、

secret talk64 安穏act.1 ―dead of night
知りたいと想ってしまった、君のこと。
「あのさ湯原、」
名前を呼んで隣ふりかえる。
警察学校の空まだ青い、夏くすぶる放課後の色。
こんな空もっと早く君と見ていたら、違う自分だったろうか?
「今度の外泊日、実家に帰る?」
問いかけて黒目がちの瞳が見あげてくれる。
この顔もっと見たい、そんな本音に小柄な顔ちょっと傾いだ。
「ん、そのつもりだけど」
「そっか、」
あいづち何気なく、でも鼓動が響きだす。
期待して、そのまま隣が訊いた。
「ん…宮田は?」
ほら訊いてくれた。
待ちわびた一言に英二はため息吐いた。
「俺ん家、全員それぞれ旅行でさ。留守なんだと」
父は出張、母はサークルの旅行、姉は社員旅行。
見事に全員重なった、でも、いつもどおりだ自分の家は。
―どうせ居てもいないと同じだもんな、俺の家は、
誰も重ならない、誰もが独り。
そんな家だともう諦めている、その中心も解っている。
だからこそ求めたい時間の真中、黒目がちの瞳ちょっと笑ってくれた。
「…留守番ダメなんだ宮田?」
「なんだよ湯原、他人事だと思って、」
笑い返して、ほら君の瞳やっぱり笑う。
だからもっと見たい。
―笑うと、ほんとかわいいよな…男なのになんでだろ、俺、
見惚れてしまう、もっと見たい。
ただ望むまま唇うごかした。
「誰も残るやつ、今回は居ないみたいでさ?どうしようかと思ってて。俺、寂しがりだから、一人って駄目なんだよね?」
困り顔してみる、望みたいから。
誰もいないなら勉強に集中できる、復習の良い機会かもしれない。
けれど君の顔もっと見てみたい、それにきっともう、夜は寂しすぎる。
―湯原の気配があたりまえになってきてるな、俺、
せまい寮室でひとり、勉強していても気配を感じられる。
同じ部屋に居なくても隣室、気配だけでも近くにある安らぎ。
けれど卒業すれば気配すらも感じられなくなる、そんな未来が近いから今、離れたくない。
だから君、言ってよ?
「…うち来る?」
聴こえた、君の声?
「え、」
確かめたくて訊き返す、すこし意外だから。
だって君が申し出てくれた、その幸福がそっぽむいた。
「…なんでもない」
君が視線を逸らす、呟く声は抑揚がない。
それでも優しいと知っているまま構わず訊いた。
「俺、湯原ん家に泊まって良いわけ?」
「そう言っただろ、」
ぼそり、ぶっきらぼう。
でも嬉しい、けれど、どうしよう少し途方に暮れる。
だって君の部屋で君の隣、「なにもしない」でいられるだろうか?
―男同士で「なに」するって話だけど、って俺ホント手遅れ?
男同士で「なに」かしたら、どうなるのだろう?
しかも警察学校の同期で、いわゆる「問題」だ?
けれど、湯原が過ごした場所を見たい。
この隣を育んだ家、そして生んだ人は?
―湯原の「母さん」か、
居心地がいい、そう初めて感じた相手を生んだ女性。
この隣をこの空気を育んだ存在、どんな貌だろうか?
―後ろめたいとか思うのかな、俺でも、
この隣が好きだ、その想い分だけ気持ちが湧くだろうか?
だから挨拶もしてみたい、理由が解るかもしれないから。
なぜこんなに惹かれるのか?
―きれいに見えるんだ、湯原だけが…なんでだろ、
想い歩いてゆく足もと、植込みの木洩陽あわく蒼い。
翳す蔭やわらかな青色が隣を照らす、君の頬なぞる輪郭ふかい。
あわい蒼い翳ゆれる陽かたむいて、そんな夕暮に黒目がちの瞳が見あげた。
「山で…ねんざしたあと、」
翳す青い影ゆれる、見あげる黒目きわだつ。
ただ瞳きれいで、見つめるまま静かな声ぼそり言った。
「ねんざで帰れなかった外泊日…宮田、残ってくれたから、」
言いかけて視線、そっと逸らされる。
もう前を向いてしまった瞳、けれど首すじ薄紅しずかに昇る。
―かわいいな、照れてる?
家に来たらいい、それだけのこと。
それだけのことに赤くなる、そんな横顔に離せない。
こんなふう離せないと何度これから想うのだろう?
その先に何がある?
―男同士で先なんて無いよな、だったら、
離せない、でも離れるしかないだろう。
それならばこそ傍にいられる今がほしい、願いごと英二は笑った。
「じゃ、甘えさせてもらおうかな、」
君を知りたい、君の場所も生まれも全部。
ただ願いごと笑いかけて隣、薄紅の首すじふりむいた。
「ん…わかった、」
こっちを向いた瞳、この自分だけ映して、微笑んで。
※校正中
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英二23歳side story追伸@第6話 木洩日

secret talk64 安穏act.1 ―dead of night
知りたいと想ってしまった、君のこと。
「あのさ湯原、」
名前を呼んで隣ふりかえる。
警察学校の空まだ青い、夏くすぶる放課後の色。
こんな空もっと早く君と見ていたら、違う自分だったろうか?
「今度の外泊日、実家に帰る?」
問いかけて黒目がちの瞳が見あげてくれる。
この顔もっと見たい、そんな本音に小柄な顔ちょっと傾いだ。
「ん、そのつもりだけど」
「そっか、」
あいづち何気なく、でも鼓動が響きだす。
期待して、そのまま隣が訊いた。
「ん…宮田は?」
ほら訊いてくれた。
待ちわびた一言に英二はため息吐いた。
「俺ん家、全員それぞれ旅行でさ。留守なんだと」
父は出張、母はサークルの旅行、姉は社員旅行。
見事に全員重なった、でも、いつもどおりだ自分の家は。
―どうせ居てもいないと同じだもんな、俺の家は、
誰も重ならない、誰もが独り。
そんな家だともう諦めている、その中心も解っている。
だからこそ求めたい時間の真中、黒目がちの瞳ちょっと笑ってくれた。
「…留守番ダメなんだ宮田?」
「なんだよ湯原、他人事だと思って、」
笑い返して、ほら君の瞳やっぱり笑う。
だからもっと見たい。
―笑うと、ほんとかわいいよな…男なのになんでだろ、俺、
見惚れてしまう、もっと見たい。
ただ望むまま唇うごかした。
「誰も残るやつ、今回は居ないみたいでさ?どうしようかと思ってて。俺、寂しがりだから、一人って駄目なんだよね?」
困り顔してみる、望みたいから。
誰もいないなら勉強に集中できる、復習の良い機会かもしれない。
けれど君の顔もっと見てみたい、それにきっともう、夜は寂しすぎる。
―湯原の気配があたりまえになってきてるな、俺、
せまい寮室でひとり、勉強していても気配を感じられる。
同じ部屋に居なくても隣室、気配だけでも近くにある安らぎ。
けれど卒業すれば気配すらも感じられなくなる、そんな未来が近いから今、離れたくない。
だから君、言ってよ?
「…うち来る?」
聴こえた、君の声?
「え、」
確かめたくて訊き返す、すこし意外だから。
だって君が申し出てくれた、その幸福がそっぽむいた。
「…なんでもない」
君が視線を逸らす、呟く声は抑揚がない。
それでも優しいと知っているまま構わず訊いた。
「俺、湯原ん家に泊まって良いわけ?」
「そう言っただろ、」
ぼそり、ぶっきらぼう。
でも嬉しい、けれど、どうしよう少し途方に暮れる。
だって君の部屋で君の隣、「なにもしない」でいられるだろうか?
―男同士で「なに」するって話だけど、って俺ホント手遅れ?
男同士で「なに」かしたら、どうなるのだろう?
しかも警察学校の同期で、いわゆる「問題」だ?
けれど、湯原が過ごした場所を見たい。
この隣を育んだ家、そして生んだ人は?
―湯原の「母さん」か、
居心地がいい、そう初めて感じた相手を生んだ女性。
この隣をこの空気を育んだ存在、どんな貌だろうか?
―後ろめたいとか思うのかな、俺でも、
この隣が好きだ、その想い分だけ気持ちが湧くだろうか?
だから挨拶もしてみたい、理由が解るかもしれないから。
なぜこんなに惹かれるのか?
―きれいに見えるんだ、湯原だけが…なんでだろ、
想い歩いてゆく足もと、植込みの木洩陽あわく蒼い。
翳す蔭やわらかな青色が隣を照らす、君の頬なぞる輪郭ふかい。
あわい蒼い翳ゆれる陽かたむいて、そんな夕暮に黒目がちの瞳が見あげた。
「山で…ねんざしたあと、」
翳す青い影ゆれる、見あげる黒目きわだつ。
ただ瞳きれいで、見つめるまま静かな声ぼそり言った。
「ねんざで帰れなかった外泊日…宮田、残ってくれたから、」
言いかけて視線、そっと逸らされる。
もう前を向いてしまった瞳、けれど首すじ薄紅しずかに昇る。
―かわいいな、照れてる?
家に来たらいい、それだけのこと。
それだけのことに赤くなる、そんな横顔に離せない。
こんなふう離せないと何度これから想うのだろう?
その先に何がある?
―男同士で先なんて無いよな、だったら、
離せない、でも離れるしかないだろう。
それならばこそ傍にいられる今がほしい、願いごと英二は笑った。
「じゃ、甘えさせてもらおうかな、」
君を知りたい、君の場所も生まれも全部。
ただ願いごと笑いかけて隣、薄紅の首すじふりむいた。
「ん…わかった、」
こっちを向いた瞳、この自分だけ映して、微笑んで。
※校正中
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