萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

ヒマラヤの青、Meconopsisの光彩

2021-05-09 17:26:00 | 写真:山岳点景
初夏ひらく、空うつす花の色
山岳点景:ヒマラヤの青いケシMeconopsis 2021.4


ヒマラヤ山脈に咲く青いケシの花、朝陽に透ける色彩はきれいでした。
こんな瞬間に出会うと世界ってキレイだなーと楽しくなります。
【撮影地:神奈川県2021.4】

忙しかった一日、ほっと一息の夕時コンナ写真UPしてみました。笑
早く越境して山歩けるよーになりますよーに。
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皐月八日、山藤―wish

2021-05-09 00:44:06 | 創作短篇:日花物語
未来より、君
5月8日誕生花ヤマフジ山藤


皐月八日、山藤―wish

陽が昇る、そして聲。

「おめでとう、元気な男の子だよ?」

あざやかな産声に父が笑う、そして彼女の光る瞳。
産褥に克った目もと涙にじんで、けれど誇らかに笑った。

「ありがとう、雅也さん…おやすみの日に、こんなところでごめんね?」

山小屋のほとり、簡易テントの産屋に笑顔ほころぶ。
申し訳なさそうな言葉たち、そのくせ黒目あざやかな瞳に父が笑った。

「ははっ、医者の出番に休みはないよ?それに“こんなところ”で奏子ちゃんには最高だろ?」
「うん…最高よ、」

汗きらめく産婦が微笑む、その誇らかな光ただ眩しい。
このひとらしいな?素直な感想と湯を盥いっぱい、父に告げた。

「お父さん、産湯は人肌よりすこし熱めでよかった?」
「雅樹よく知ってるな、中学じゃ習わないだろう?」

すこし驚いた、そんなトーン穏やかに笑ってくれる。
かすかな鉄ふくんだ空気の底、陽ざしのテントに産声が明るい。

「元気いっぱいだな、」
「おめでとう、無事によかった、」
「本当にねえ、山頂のお産なんて初めてだわ、」
「よく無事にだなあ、」

テントの外から祝福が笑う、けれど「よく無事に」だ。
こんな場所このままでは高い危険、その現実に父の手が動く。

「産湯は短時間でさっとだ、肌を傷つけないように拭うのもそっとな、」

説明しながら動く指、その掌に生まれたての肌きらきら光る。
泣き声おおらかな響きの底、清められた命やわらかなサラシに包んだ。

「救急セットはいつも持っているけど、まさか山でこんなふうに使うとは思わなかったよ?」

深い穏やかな声が笑っている、まさか「こんなふう」が可笑しいのだろう。
僕だって「こんなふう」は思わなかったな?予想外の真中、澄んだ声が微笑んだ。

「雅樹くん、この子に名前をつけてくれる?」
「え?」

言葉に振りむいた先、黒目あざやかな瞳が笑ってくれる。
冗談なんかじゃない、ただ真直ぐな明眸が自分を映した。

「私が最初にこの町で会ったのは雅樹くんよ、そしてね、その子にはこの世界で最初に会ったひとだもの。だから名前を呼んであげて?」

陽ざし明るむテント、山の産褥に澄んだ瞳が微笑む。
この不思議な女性が現れた日、桜ふる山里の駅は明るかった。

『こんにちは、このひとを知ってるかしら?』

写真ひとつ尋ねる声、澄んだ瞳きらきら自分を映した。
あの日のまま自分を見つめる笑顔の前、登山ウェア姿の医師が言った。

「雅樹、この子と少し外に出てくれるかい?奏子ちゃんの支度をするからね、ヘリの要請も頼むよ、」

滅菌グローブ着けながら父が指示してくれる。
その声に肯いて、陽ざし当てないよう赤ん坊を抱きあげた。

「…重たいんだ、」

声こぼれた腕、サラシ包まれた命やわらかに重い。
ずしり湿ったような、そのくせ温かな重み抱きしめて外に出た。

「はぁ…っ」

呼吸ひとつ、森ひそやかな大気が涼む。
かすかに甘い深い風、どこか藤が咲いているのだろう。
この季節くゆらす薫風の頂、祝福の声わたって木蔭に立った。

「ここで少し待とうね、」

笑いかけた懐、やわらかな寝息が温かい。
黒髪やさしい額ほのぼの紅色、すこやかな寝顔に微笑んだ。

「君も疲れたよね…すこし休むといいよ?」

生まれる時、赤ん坊も力を振りしぼる。
そう本に書かれていたことは本当なのだろう、その現実が懐にある。

―赤ちゃんって温かくて重たいんだな、

温度ふれる重み、腕に胸に沁みてくる。
この温もりを感覚を忘れたくない、そんな想いに呼ばれた。

「おっ、雅樹くん!無事なようだなあ、」

肚響く声が呼びかけて、日焼け朗らかな笑顔が来てくれる。
見慣れた救助隊服姿に息ほっと吐いて、雅樹は抱きこんだ寝顔を見せた。

「はい、母子ともに無事です。でもすぐ病院に搬送したいので救助ヘリをお願いできますか?」
「今、連絡したところだ。あと20分ほどで着くだろうよ、」

日焼ほころばせ教えてくれる、その言葉も笑顔も頼もしい。
呼吸ひとつ、ゆるやかに背筋ほどいて微笑んだ。

「ありがとうございます、後藤さんが来てくれて父も安心だと思います、」
「さすがの吉村も今回はびっくりしたろうなあ?テント越しでも声かけてくるよ、」

ヘルメットのつば直しながら、深い瞳にこり笑って歩き出す。
ゆったり広やかな背を見送って、樹影のもと懐の寝顔に微笑んだ。

「君はすごいね…山頂で生まれるなんて、ね?」

ひそめた声の先、ちいさな寝顔すこやかに微睡む。
あんなに大きな産声きっと疲れたろう?そんな元気な命に笑いかけた。

「僕が君に名前をプレゼントするみたいだよ、どんな名前がいいかな?」

問いかけた真中、こまやかな睫ゆるく瞳がひらく。
黒目あざやかな光、その燈らす明眸に微笑んだ。

「この世界にようこそ、これからよろしくね?」


山藤:ヤマフジ、花言葉「優美、佳客、陶酔、至福の時、あなたを歓迎する、恋に酔う、決して離れない、ようこそ美しき未知のひと」

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