想い、時の点景を
陽だまり香る、透ける甘い。
「ん…止んだね、」
つぶやいた息そっと白い。
もう三月の縁側、けれど踏んだ板敷しんと靴下を透る。
冷えてゆく爪先まだ名残らせる冬、それでも庭さき陽だまりに微笑んだ。
「かわいいね、」
微笑んだ真ん中、黄色がゆれる。
新雪やわらかな白い息、それでも花の陽だまり温かい。
こんなふうに雪の三月を過ごせるなんて、一年前は思えなかった。
『生きるんだ、生きろっ!』
ほら、あなたの声まだ新しい。
あの雪崩の底に呼んでくれた、低いくせ透る声。
「…生きてるよ僕…ここで、今、」
そっと声にして、吐息ふわり銀色くゆる。
暦は啓蟄も過ぎた、テレビは早咲きの桜を語る、けれど山里の今は白銀。
見あげる軒先はるか銀嶺が光る、もう、じきに雪雲も晴れてゆくのだろう。
ほら青空すこし山の端、たぶん昼前には晴れる、そうしたら菜摘みの誘い来るだろう、でも。
「しゅーうくんっ!いますかーっ?」
ほら?呼びに来た。
朗らかな声に微笑んで、庭長靴ひきだし履いた。
「はーい、」
応えながら雪さくり、銀色の庭を踏む。
生垣の雪に山茶花が紅い、その向こう明るい笑顔が手を振った。
「雪やんだね、ふきのとう出てるかも?いつものとこ早いもの、」
やっぱり菜摘みのことだ?
この季節いつものお誘い、ほっと嬉しくて笑いかけた。
「そうだね、南斜面なら出てるかも、」
「日当たりいいものね、ちょっと見に行ってみる?」
朗らかなソプラノ応えてくれる、その頬ふんわり紅い。
青空のぞく陽だまりの庭、けれど底冷え深い朝に微笑んだ。
「見に行きたいね、でも、風邪が治ったばかりでしょ?ちゃんと元気になってから一緒に行きたいな、」
まだ紅い頬、きっと熱が下がったばかりだ。
そんな幼馴染は大きな瞳ぱちり、瞬いて首傾げた。
「どうしてわかったの?お母さんが言ったの?」
「ううん、おばさんは何も。でも一昨日から見なかったし、いつもより頬っぺ赤いなって思って、」
答えて笑いかけた真ん中、大きな瞳が自分を映す。
明るい澄んだ瞳まっすぐ見つめて、ほっと息ひとつ笑ってくれた。
「いつもよりってことは、私いつも頬っぺた赤いの?」
「ん、冬は特に赤いよね?」
素直に答えて、雪の生垣に紅色まぶしい。
幼馴染ほころぶ温かな色、生きて弾む笑顔が言った。
「でも私、今すぐ一緒に行きたくて。去年の分も、」
去年の分も。
そう告げてくれる唇かすかに震える、その声やわらかに痛い。
こんなふう悲しませてしまう春の記憶、傷んで、それでも慕わしく笑いかけた。
「去年の分も行こうね。風邪ちゃんと治して、なんども一緒に行こう?」
なんども一緒に。
こんな約束ができるなんて、一年前は考えられなかった。
それでも今ここにいる、この全て、全部、あの雪崩に呼んでくれたから。
『生きるんだ、生きろっ!』
去年の春、あなたが叫んでくれた。
願ってくれた、そして今、春の雪そっと香る。
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3月12日誕生花パンジー
弥生十二日、三色菫―recollection
陽だまり香る、透ける甘い。
「ん…止んだね、」
つぶやいた息そっと白い。
もう三月の縁側、けれど踏んだ板敷しんと靴下を透る。
冷えてゆく爪先まだ名残らせる冬、それでも庭さき陽だまりに微笑んだ。
「かわいいね、」
微笑んだ真ん中、黄色がゆれる。
新雪やわらかな白い息、それでも花の陽だまり温かい。
こんなふうに雪の三月を過ごせるなんて、一年前は思えなかった。
『生きるんだ、生きろっ!』
ほら、あなたの声まだ新しい。
あの雪崩の底に呼んでくれた、低いくせ透る声。
「…生きてるよ僕…ここで、今、」
そっと声にして、吐息ふわり銀色くゆる。
暦は啓蟄も過ぎた、テレビは早咲きの桜を語る、けれど山里の今は白銀。
見あげる軒先はるか銀嶺が光る、もう、じきに雪雲も晴れてゆくのだろう。
ほら青空すこし山の端、たぶん昼前には晴れる、そうしたら菜摘みの誘い来るだろう、でも。
「しゅーうくんっ!いますかーっ?」
ほら?呼びに来た。
朗らかな声に微笑んで、庭長靴ひきだし履いた。
「はーい、」
応えながら雪さくり、銀色の庭を踏む。
生垣の雪に山茶花が紅い、その向こう明るい笑顔が手を振った。
「雪やんだね、ふきのとう出てるかも?いつものとこ早いもの、」
やっぱり菜摘みのことだ?
この季節いつものお誘い、ほっと嬉しくて笑いかけた。
「そうだね、南斜面なら出てるかも、」
「日当たりいいものね、ちょっと見に行ってみる?」
朗らかなソプラノ応えてくれる、その頬ふんわり紅い。
青空のぞく陽だまりの庭、けれど底冷え深い朝に微笑んだ。
「見に行きたいね、でも、風邪が治ったばかりでしょ?ちゃんと元気になってから一緒に行きたいな、」
まだ紅い頬、きっと熱が下がったばかりだ。
そんな幼馴染は大きな瞳ぱちり、瞬いて首傾げた。
「どうしてわかったの?お母さんが言ったの?」
「ううん、おばさんは何も。でも一昨日から見なかったし、いつもより頬っぺ赤いなって思って、」
答えて笑いかけた真ん中、大きな瞳が自分を映す。
明るい澄んだ瞳まっすぐ見つめて、ほっと息ひとつ笑ってくれた。
「いつもよりってことは、私いつも頬っぺた赤いの?」
「ん、冬は特に赤いよね?」
素直に答えて、雪の生垣に紅色まぶしい。
幼馴染ほころぶ温かな色、生きて弾む笑顔が言った。
「でも私、今すぐ一緒に行きたくて。去年の分も、」
去年の分も。
そう告げてくれる唇かすかに震える、その声やわらかに痛い。
こんなふう悲しませてしまう春の記憶、傷んで、それでも慕わしく笑いかけた。
「去年の分も行こうね。風邪ちゃんと治して、なんども一緒に行こう?」
なんども一緒に。
こんな約束ができるなんて、一年前は考えられなかった。
それでも今ここにいる、この全て、全部、あの雪崩に呼んでくれたから。
『生きるんだ、生きろっ!』
去年の春、あなたが叫んでくれた。
願ってくれた、そして今、春の雪そっと香る。
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桃や黄の色とりどりの景色に、強さのある言葉に足りなかった元気をもらいました。見られない、聞けないものに触れさせてくださってありがとうございます。
風邪が治ったら自分も春をさがしにいってみます、管理人さんは健やかな日々を過ごされてください。
ちょっとでも元気のお手伝いできたなら良かったです、こちらこそ感謝ですよ?
おたがいさま元気な春でありますように。