萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

葉月二十九日、百日紅―day after day

2018-08-29 23:47:30 | 創作短篇:日花物語
君ありて安閑を、
8月29日の誕生花


葉月二十九日、百日紅―day after day

雨がふる、時ふる雨が。

「…、」

無言に仰いだ空、雲めぐらす白に雫やわらかい。
軒端はたためく水滴の色、おだやかな響き鎮まらす。

たん、たん、たん、

おだやかに響く敲かれる、その音ゆるやかに慕わしい。
やわらかな音きらめいて軒に花枝ゆらす、こぼれる紅いろ光たたく。

たんっ、たん、たん…

あわく濃く色きらめいて雨がふる。
この色が咲いたら夏、あれから日毎ながめた紅色こぼれて光る。
散りゆく今きらめく水滴、その数より待ちわびた時が結露して花を敲く。

たん、たん、たんっ…

紅いろ零れる音きらめく、慕わしい声の約束の音。
あの日も雨はふっていた、あれから日毎ながめた色に今日の雨が敲く。

たん、たんっ…たん、

夏のはじめ共に聞いた音。
あのとき咲いた色、あなたの声にじむ音。
なつかしい音ひそやかに座る縁側、頬ふれる香そっと涼やかになる。

「…もう秋だ、ね」

くちずさんで季節、うつろう匂い雨がふる。
頬ふれて額ふれて、ほろ渋い甘い香かすかに肌を涼ませる。
この雫ふれたならどんなだろう?想い腕のばして掌、一滴の冷たたいた。

「つめたっ…」

ほら冷たい、もう秋が来る。
おとといの雨まだ温かだった、それでも今この掌は冷たい。
うつろう雨に夏はすぎて秋になる、そうして待ちわびる百日の終わり一滴はふる。

あとすこしで秋、そして待ち人きたるなら。


百日紅:サルスベリ、花言葉「雄弁、愛嬌、不用意」百日の約束に待たせた恋人の伝説から「百日紅」

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