12/28(月) 16:56配信
夕刊フジ
新型コロナウイルスの感染拡大が続き、「医療崩壊」が叫ばれている。患者を受け入れている医療機関や現場の医療関係者が日々消耗する一方で、全医療機関の約8割、集中治療室(ICU)のある医療機関の4つに1つがコロナ患者を受け入れていないというデータもある。病床数世界一とされ、欧米より感染規模がはるかに小さい日本で、「医療緊急事態」となるのは、どこに問題があるのか。
政府は25日、病床が逼迫している地域で、重症者を受け入れる1病床につき1500万円、それ以外の患者は1床450万円をそれぞれ補助すると明らかにした。
ただ、即効性があるかどうかは不透明だ。田村憲久厚生労働相は記者会見で、「病床や医療人材の確保を進めるが、限りがある。感染者をいかに増やさないかが重要だ」と強調する。
「スタッフも体力の限界にきているが、最後の砦(とりで)として使命感を持ち、気力でやっている。だが、先行きが見えないと気ももたない」
重症者を受け入れている近畿大学病院(大阪府大阪狭山市)の東田有智院長はこう明かす。
同院は24日時点で重症者病床12床のうち10床が埋まっている。医師3人と看護師35人程度が対応するが、増床や要員補充は容易ではないという。
東田院長は、「医師や看護師の体力や慣れがないと重症者対応は難しく、感染対策や病室の隔離なども必要だ。人工呼吸器やECMO(エクモ=人工心肺装置)などの医療機器を動かせる人間もたくさんはいない。1人でも欠ければ対応できなくなる」という。
コロナ患者を受け入れている医療機関はいずれも似たような状況とみられ、病床使用率は大阪府や兵庫県で70%超、埼玉県、東京都、愛知県でも50%以上に達している。
日本医師会や日本看護協会、日本病院会などの9団体は、コロナ感染拡大に伴い、通常の医療を提供できない恐れがあると警告する「医療緊急事態宣言」を発表。記者会見などで、たびたび国民や政府に危機的な状況だと訴えている。
ただ気になるのは、病床数も多く、欧米よりも重症者や死者数が少ない日本で、なぜこのような事態に陥っているのかという点だ。
医療リスクマネジメントに詳しい総合内科専門医の真野俊樹氏は、「日本の医療は、がんセンターなど生活習慣病に重点を置いてきたため、感染症専門の病院はないに等しい。特に地方では病気別に役割分担しているため、1カ所でも院内感染でクラスター(感染者集団)が出れば、通常医療の継続が難しい状態になる」と解説する。
医療機関によって新型コロナ患者への対応にも違いがあるようだ。
厚生労働省によると、23日現在で新型コロナに対応する病院や病棟を有する重点医療機関数は全国に951、診断で確定するまで新型コロナ疑いの患者を受け入れ、専用個室や救急医療などを提供する協力医療機関数は871ある。
一方、同省の地域医療構想に関するワーキンググループの10月時点の資料によると、全医療機関のうち新型コロナ患者の受け入れ実績があるのは全医療機関の18%。受け入れ可能医療機関も23%にとどまっている。
もちろん規模や設備の問題で受け入れられない医療機関も少なくないのだろう。だが、ICU等を有する医療機関についても、人工呼吸器やエクモを使用した新型コロナ患者を受け入れているのは28%、人工呼吸器やエクモ使用以外の患者受け入れが47%、そして受け入れ実績なしが25%にのぼっているのだ。
■森田洋之氏「力があっても受け入れない病院がある」
前出の真野氏は、「一部の病院に集中しているのは事実だ。海外は公営の医療機関が多いが、日本では民間が多いことに起因しているのではないか」と指摘する。
医療ジャーナリストで医師の森田洋之氏は、「中小の病院のように資源不足で受け入れが厳しい病院もあるほか、行政と調整をしている例もあるので一概にはいえないが、力があっても受け入れない病院があるのは間違いない」と語る。
新型コロナ患者を受け入れている別の病院の幹部は、「新型インフルエンザの流行時と異なり、今回の新型コロナは診療をしない病院がある」と嘆息を漏らす。
「民間病院も『経営』があるので、責められる問題でもない」(病院関係者)との声もあるが、どう対応すべきか。
前出の森田氏は、「感染症は流行時期が限られるため『ビジネス』にはなりにくく、平時から病床などを確保しておくのは難しい。本来は第1波以降の約半年で対処しておくべき問題だが、いまからでも他の病床を感染症病床に臨機応変に転床できる態勢の整備が必要だ。政府は補助金で支援し、業界団体も医療機関への要請を進め、自粛は最終手段に残すべきだ」と強調した。