「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2014・01・10

2014-01-10 07:55:00 | Weblog


今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

「 金で買えるものなんてたかが知れている、実はないのではあるまいかと若年のころ私は
 漠然と思ってはいたが、隠して言わなかった。一文なしの若者がそんなことを言ったら
 冷笑される。
 けれども間もなく金が少しはいってきたとき、はたして金で買えるものなんかたかが知
 れていると分ったのは、私の個人的なあまりに個人的な管見だと思うかもしれないがそ
 うではない。いま日本人の多くはそれを経験している。
  昭和三十年代までは『船橋ヘルスセンター』へ行くのが楽しみだった。高度成長はそれ
 を楽しみでなくした。大挙して熱海へ一泊旅行するようになった。それもつかのまで和
 歌山へ九州へ北海道へ旅するようになった。
 今はハワイへ行く。ハワイが昔の熱海になったのである。気のきいたのはパリへは再三
 行ったから今度はオーストラリアへ、はてはアフリカへ行く。何用あって行くか
  すこしでも差をつけるために行く地の果てまで行く近く行くところがなくなるだろう

                     〔Ⅵ『住み心地はどうか』平2・3・8〕」

  (山本夏彦著「ひとことで言う-山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)


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