今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「 私は広告が大好きで広告ほど面白いものはないと思っている。ところが広告を論じたものが
ない。あれば悪くちかおべんちゃらである。どうして電通は世界一になったか、電通と博報
堂を論じれば広告百年早分りになると、いまあの名高い『電通PRセンター十則』に及んだ
ところである。
『もっと使わせろ』『むだ使いさせろ』『季節を忘れさせろ』『贈りものにさせろ』『流行
遅れにさせろ』以下略すが二十余年前これが発表されたときは大騒ぎになった。
世間はそのあまりに露骨なのに驚いた。社会に対する公然たる挑戦だと機嫌を悪くしたが、
広告の本音はこれに尽きている。
必要なものはみんな売られている。必要のないものを売出すのだから骨である。
こんど流行らせるには、ついこの間流行らせたものを流行遅れにさせなければならない。
まことに現代はこの広告の謀略通り動いている。だから立腹したのである。
電通PRセンターは恐縮してあわてて引っこめた。
〔Ⅴ「社員でさえ読まない本『社史』再び」平元・9・7〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う-山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)
筆者註:「十則」の残り五つは「気安く買わせろ」「組み合わせて買わせろ」「きっかけを投じろ」「捨てさせろ」「混乱をつくり出せ」だとか。