今日の「お気に入り」。
「 ご承知のように昭和三十年代までの男の子は、たとえば目ざまし時計のたぐいを必ずこじ
あけた。あけてみてどうして動くか知りたがって知った。ラジオくらいは自分で組立てた。
今の子はこれらいっさいをしない。電卓はつついてもこじあけようとはしない。ファミコ
ンを操ることは巧みでも、そのメカニズムを理解しようとはしない。
なぜしないのだろう。こわせば目ざまし時計は理解できるが、電卓はできっこないと一瞥
しただけで知るからである。
子供は何でも知っているという。これらが理解を絶するものだと三歳の童児も知ることに
私は驚くのである。そして私たちはいま理解を絶するものに包囲され、それは増えこそす
れ減りっこないと知るのである。
〔Ⅵ『子供は何でも知っている』平3・10・17〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う-山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)