今日の「お気に入り」。
「名だけを知ってそれが何者だか分らないのは気になる。父母がよく知っているのに全く知らないのも気になるから知りたい。西郷隆盛はさすがに知らぬものはないが、桐野利秋篠原国幹別府新助以下は知る人が少い。西郷隆盛の股肱(ここう)である。司馬遼太郎の小説があんなに読まれるのは名のみを知ってそれ以上知らぬヒーローを紹介してくれるからである。
トルコやハンガリーでは東郷平八郎の名は今もとどろいている。大国ロシヤを破った提督だからで、いまだにロシヤに圧しられている両国では東郷は英雄なのである。
それを日本の子供が知らないのは、ただ軍人だというだけで教科書が抹殺したからである。どこにネルソンを知らない英国人がいよう。
戦前の子なら知らぬものがなかった人物を戦後の子が知らなければ、親と子の話は通じなくなる。文章もまた通じなくなる。伝承が絶えるということは一大事なのである。
〔Ⅳ『風の便りで知るのみ』昭60・10・3〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う-山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)
「名だけを知ってそれが何者だか分らないのは気になる。父母がよく知っているのに全く知らないのも気になるから知りたい。西郷隆盛はさすがに知らぬものはないが、桐野利秋篠原国幹別府新助以下は知る人が少い。西郷隆盛の股肱(ここう)である。司馬遼太郎の小説があんなに読まれるのは名のみを知ってそれ以上知らぬヒーローを紹介してくれるからである。
トルコやハンガリーでは東郷平八郎の名は今もとどろいている。大国ロシヤを破った提督だからで、いまだにロシヤに圧しられている両国では東郷は英雄なのである。
それを日本の子供が知らないのは、ただ軍人だというだけで教科書が抹殺したからである。どこにネルソンを知らない英国人がいよう。
戦前の子なら知らぬものがなかった人物を戦後の子が知らなければ、親と子の話は通じなくなる。文章もまた通じなくなる。伝承が絶えるということは一大事なのである。
〔Ⅳ『風の便りで知るのみ』昭60・10・3〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う-山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)