今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、再録。
「どんな席に出ても自分がいちばん若かったのに、いつのまにかいちばん年かさになってしまったとは
皆が皆嘆く嘆きである。これは人には本来年齢がない、女は永遠に十七である証拠だと言うと、電光の
ように理解する人と、理不尽で分らぬという人に分れるから念のために書く。
(略)
まことに歳月は勝手に来て勝手に去る。私たちの内部は永遠に年をとらないのに、
外部だけとるのは納得できないことである。それに年とったからといって少しも利口にならな
ければバカにもならない。いつかしわがよるのである。何よりおお男たちの見る目が違うので
ある。自分が男たちを見る目は違わないのに。
女のことばかりいったが、男も同じだと思ってくれ。白髪(しらが)は知恵のしるしではない。人間本来
男女なし老幼なし。だからその目で五十六十の女を見てごらん、もうろう彷彿として老いた顔
のなかに十七の顔があらわれ、次第にそれが全貌を覆うから。
〔Ⅵ『女は永遠に十七である』平2・6・7〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)