「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2014・01・30

2014-01-30 07:40:00 | Weblog
  今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

  「 デヴィ夫人はくやしかろうが過去は消えないものである。人の口に戸は立てられないものである。

   夫人はそんなことはあるまいが、銀座のホステスは金次第で誰とでも寝室を共にすると信じられている。

  (略)

    デヴィ夫人は社交界の腐敗を知っている。美貌の貴婦人は何人も情人を持っている。とっかえひっかえ

   持っている。美しくない夫人もそのまねしてすこし持っている。醜い夫人は持ってないから貞女である

   にすぎない。

    デヴィ夫人は女はみな同じだと思っている。いかにもそうである。それなら一夫一婦は根本に無理を

   ふくんでいる。けれども男女の仲にほかに便法があるか。

    社交界ばかりか所詮この世はウソでかためたところである。醜女の貞淑が世間を覆うモラルなのであ

   る。デヴィ夫人は一つだけ誤っている。社交界の男女は同衾(どうきん)するつど金を払いはしない。

   払ったか払わなかったか、ここが大事なのである。湯水のように贈物したではないかと言ってもそれは

   通らない。これで一線を画(かく)さなければ、男女の仲は限りなく売淫に近づくのである。
〔Ⅶ『デヴィ夫人ヌードになる』平5・12・2〕」

   (山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)


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