今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「 戦争中は申分のない大義名分をふりかざす隣組長のたぐいがいて、それに賛成しない人を
非国民だと『村八分』にした。以前の原爆絶対禁止運動にも申分はなかった。申分がなけ
ればないほど、私が狐疑するのはそのころの名残である。
けれども文学者のなかには、十分な理由があって署名しない人があるはずである。新聞は
もっぱら署名した人に聞かないで、しない人にも均等に聞くべきである。聞いても言わな
いとすれば、それはすでに言えない空気ができているのである。署名しない自由はなければ
ならない自由である。
〔Ⅱ『署名する人しない人』昭57・3・4〕」
「 ここにおいて一躍して私は植物になる。人は植物をあなどって一段低いものと見るが私
は見ない。植物は人よりはるかに敏感である。鋸でひけば白い血を流す。四キロも離れ
た孤独な銀杏(いちょう)同士はある日ある時風に乗って飛んで花を咲かせ実を結ぶ。植
物がいかに高貴か分ったろう。何よりいいのは常にすっくと立って移動しないことだ。
人類の諸悪の根源は移動するにある。何用あって月世界へ――。
ごく手短に言うとこれが日本植物党の主旨である。来(きた)るものは拒(こば)まない。
〔Ⅹ「『日本植物党』宣言」平10・9・17〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)
「 戦争中は申分のない大義名分をふりかざす隣組長のたぐいがいて、それに賛成しない人を
非国民だと『村八分』にした。以前の原爆絶対禁止運動にも申分はなかった。申分がなけ
ればないほど、私が狐疑するのはそのころの名残である。
けれども文学者のなかには、十分な理由があって署名しない人があるはずである。新聞は
もっぱら署名した人に聞かないで、しない人にも均等に聞くべきである。聞いても言わな
いとすれば、それはすでに言えない空気ができているのである。署名しない自由はなければ
ならない自由である。
〔Ⅱ『署名する人しない人』昭57・3・4〕」
「 ここにおいて一躍して私は植物になる。人は植物をあなどって一段低いものと見るが私
は見ない。植物は人よりはるかに敏感である。鋸でひけば白い血を流す。四キロも離れ
た孤独な銀杏(いちょう)同士はある日ある時風に乗って飛んで花を咲かせ実を結ぶ。植
物がいかに高貴か分ったろう。何よりいいのは常にすっくと立って移動しないことだ。
人類の諸悪の根源は移動するにある。何用あって月世界へ――。
ごく手短に言うとこれが日本植物党の主旨である。来(きた)るものは拒(こば)まない。
〔Ⅹ「『日本植物党』宣言」平10・9・17〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)