1 はじめに
日本語の特質について、愚生なりに考えてみろと言われて、ハタと困ったのである。確かに、これまで37年間も国語の教師としてやってきた。しかし、知識として日本語をどうとらえていたたのか、あるいはまた経験上、日本語が母語であるが故に、真剣に考えてこなかったという反省がある。特に、外国語文化圏から見た日本語の特質となると、まったくお手上げである。なぜなら、そもそも外国語ができないからである。
語る資格がないということであろう。
外国語ができないのだから。
それでもこのブログに書き付けてみようと思う。
2 日本語の特質
(1)公用語としての側面
日本語というのは、希有な存在であると思う。なぜなら、基本語が一つであるからである。中国語は、北京語があるが、地方によっては非常に違う言語のようだと聞いたことがある。インドは、公用語としてヒンディー語、準公用語が英語、その他に地方公用語が17あるとのことである。
日本語では東京弁が標準語と呼ばれている。東京弁もまた、方言の一種であり、関西弁とか博多弁、東北弁と変わらない。もっと言えば、江戸時代からの人口流入による各地方の混合された言語が東京弁であると言ってもいいと思う。これが明治維新によって、政治のあるいは権力機構の中枢がますます江戸に集中したために、政策的に作られた言語であると私は考えている。
(2)日本語は4種類の語種で構成されている
日本語は、漢字・ひらがな・カタカナ・ローマ字で構成されている。
文字の系統としては漢字圏に属しているから、中国系の言語であるかというとそうでもない。それはひらがなの存在があるからである。発音の面からひらがなを見ていくと非常に興味深いことがわかる。それは、原則として母音で発音が終わるからである。「a、i、u、e、o」のどれかで終わる。また、ヤ行とワ行は半母音と呼ばれ、その他は子音と呼ばれている。例外的に「ん」は、母音ではないが、英語のように子音で終わるということはない。
漢字があるというが、日本語における漢字というのは、それほど多数存在するわけではない。常用漢字というのがあって、1945字程度、その他ひらがな、カタカナ、ローマ字全部を入れても2100字程度で文章が書けてしまうのである。これだけでいろいろな文学作品や、言語体系が成立しているというのは考慮に値する。本来大修館の大漢和辞典で親字が5万字である。康煕字典至っては、49,030字、そして、日本で歴史的に作られ使われてきたいわゆる国字、地名、人名に用いられてきた異体字も含めると、8万字。略語や記号類も含めると、おおよそ約10万字である。常用漢字の漢字は意外と少ないのである。
また、漢字でもって新しい単語を作ることもできる。また、カタカナやローマ字で、外国語をそのまま持ってくることも可能である。外来語にも柔軟に対応できる。さらに、擬音語、擬態語、擬声語を自由自在に創作できるのである。
漢字が日本語に与えた影響は大きい。ひらがな、カタカナは漢字から派生したものであるし、その影響は大きい。しかし、それよりも文字文化になる以前から、日本語には「和語」と呼ばれる言語が存在していた。日本古来の言葉である。これを表記したのが、万葉集などに見られる漢字を用いた万葉仮名である。和語をそのまま音を用いて、漢字で表記したものである。これが大きな日本語の特徴であろう。
ところが日本語学習者にとっては、日本語の4種類の語種というのは大きな障壁になるだろうと思われる。母語を外国語としておられる方々で、日本語をほぼ完璧に扱うことができる本学大学院の博士課程在学者を見ていると、そもそもそれだけの学習に対する意欲と、能力に畏敬の念を抱かざるを得ない。それほど学習が困難であると感じる。
(3)日本語の文法の特色
日本語の文法の特色を外国語と比較しながら考えてみると、いくつかの傾向があることが理解できる。最初に、「人称による動詞の変化が少ない」ことがあげられる。例えば、英語では一人称の「I」と関連する動詞と、第三人称の「He」に対応する動詞では、「動詞+s」がついたりする。
二番目には、名詞に複数形は存在するが、文法には影響しない。女性名詞、男性名詞の変化もない。言葉としてはあるが。これはフランス語などとは違っている。
三番目が、文の終わりまで聞いたり、読んだりしないと結論がわからないということである。文末に動詞がくるのである。これも英語と全く違う。
四番目に、連体修飾語が名詞の前に来るのが基本である。「黄色い服」のごとくである。
五番目に、時間表記、場所、宛名、姓名等々は大きい方から書いていく。2012年6月28日とか、千葉県船橋市**のごとくである。
六番目に、敬語表現が非常に煩瑣である。時と場所、あるいは登場人物の関係で全く違った表現をする。できないと、社会的マナーの欠けている人間というレッテルまで貼られる。
七番目に、数詞の読み方が非常に複雑である。一つという概念を表現するのでも、一個、一本、一回、一枚、一匹、一丁、一坪、一口、一合等々、敬語表現と同等の複雑さである。
(4)日本語の表記について
日本語で用いる漢字は常用漢字にある漢字を使用するのが原則である。範囲外にある漢字は、言いかえるか、カタカナを使用したりする。
次に、常用漢字以外、あるいは特殊な読み方の場合はルビを振る。固有名詞、栄典、称号、官職名、文芸作品、美術品、映画、歌謡曲、古典芸能、学術用語等々である。もっともこれは最近の傾向としてはあまり守られない。
三つめには、連体詞、感動詞、助動詞、補助動詞、形式名詞、接尾語等々は原則としてひらがなである。意図的に「なり」を「也」と書く場合もあるが、その場合も時と場面が異なってくる。
四つめは、外来語や中国・朝鮮を除く外国の地名はカタカナが多い。ただし、西洋・米は例外的にそのまま外国語の表記を用いる場合もある。
五つめは、接続語、副詞、代名詞等々は原則としてひらがなが多い。
もっとも面白いのが、たった一字で意味を了解することができるというのが、日本の特質であろう。あるいはこの場合は漢字文化の恩恵を受けていると言った方がいいのだけれども。例えば、「火」である。この一字で理解できるわけである。漢字だからである。しかし,英語ではそうはいかない。「fire」と書かなくてはならない。英語は27文字しかない。しかし、その組合せによっていろいろと意味も文章も違ってくることは、むしろ日本語の特色でもある。
まだまだこれからの課題である。
参考文献 金田一春彦 「日本語(上)(下)」 (岩波新書)