・ある古典を読んでいましたら、奥様を愛するあまり、奥様の目の中に虫となってすみついてしまった男の物語に出会ってしまいました。
・人間の妄執というものをあらわしていて、なんともなんとも。この間亡くなった立川談志さんが、落語は人間の業であると言われておりましたが、この話もまた同じでありましょう。
・昨日書いた能の話で、百萬の世界もまた同様でありましょう。
・と、思っていたら、国語国文学の泰斗で、大学教授の女性のエッセーにこんな話が出ていました。ご自分の長男を乗せて船に乗ったところ、ちょっと船の洗面所に入られたのだそうです。まだご長男が小さいころで、ここにいるのよとおっしゃって船の椅子に座っているようにと言ったのだそうです。
・そして戻ってきたら、なんとご長男がいない。
・もしかして、海中に落ちたのかと、あるいは連れ去られてしまったかとか、いろいろと非常に不安になって、船の隅から隅まで探され、さらに船長に面会を申し込まれて、停船をお願いしたのだそうです。海中を探してほしいとのことでありました。
・百萬のことをどうのこうのと言えないわけであります。母性というのはそれほどありがたいものであって、百萬もまた母性のままに生きておられたわけであります。
・男性にはなかなかわからない心理状態であるかもしれません。業という単語でもって一概に言えないのだなぁと思った次第です。
・ですから、奥様の目の中に虫となって住み着いたとしても、それはそれ。業だなどと言えるわけもない。そんな単純なものではないわけであります。
・古典を古典として純粋に扱ってきたわけでもありません。ましてや、能の専門家でもない。室町期のことをあれこれと、調べているだけですが。
・それでも楽しみはこうした庶民の世界をかいま見ることでの「生きる意欲」を教えていただくことであります。
・受験勉強で今苦しんでいると、そういう実に豊かな世界が古典の世界には開けてまいります。基礎的な文法力はそういう時に役立つのであります。我慢、我慢です。
・船の中でいなくなった童子。
・どうしたと思いますか。
・なんと船室の中でおいしそうに老夫婦と煎餅をたべていたそうです。椅子と椅子との間に隠れながら。
・めでたし、めでたし。
・また明日!