その「闇カジノ」は、大阪切っての繁華街、キタ新地の一角にある。
外見上は、ごくごく普通の飲食店ビル。
しかし注意深くビルの外観を観察してみると、ある不自然な点に気が付くことになる。
その不自然な点とは、
ビルは10階建てであるにもかかわらず、
このビルに入居している店舗の外看板が5階までしか掲げられていないことを指す。
実はこのビルの6階から上は、
建前上は「会員制ホテル」となっている。
このホテルのフロントは、6階部分に設けられており、
フロントへ行くには、専用のエレベーターを利用することになる。
もうすでにお気付きになった読者も多いと思うが、
この会員制ホテルこそが、まさに「闇カジノ」なのだ。
実際に「闇カジノ」に入店しプレイするまでには、監視カメラ付のエレベーター、フロントなど、
いくつものチェックポイントをクリアしなくてはならず、
かなり厳重な警戒体制が敷かれていることが窺える。
そしてこの「闇カジノ」を仕切っているのが、
関西エリアを地盤とする某広域暴力団なのだ。
大阪府警幹部が言う。
「違法トバク、闇トバクのほとんどが、暴力団の支配下にあると言っていいでしょう」
改めて指摘するまでもなく、
公営ギャンブル以外のギャンブルは、法的には違法行為として位置付けられている。
(ちなみにパチンコはギャンブルではなく、建前上はあくまでも遊技)
そして違法ギャンブルに関しては、そのほとんどのケースで暴力団が仕切っていると言っていいだろう。
「もし仮にカタギ、シロウトが違法ギャンブルに進出したとしても、
ほぼ100%暴力団に潰されるか、その支配下に置かれることになる」(関係者)
ここ近年、そうした違法ギャンブルの中にあって、
最もメジャーな存在となりつつあるのが、インターネットカジノだ。
その仕組みを簡単に説明すると以下のようになる。
まず日本側の主催者(暴力団)は、
外国(主として東南アジア)の政府公認カジノとの間で業務提携の契約を正式に結んだ上で、
日本側の闇カジノと政府公認カジノをインターネット回線で結ぶ。
その際に、第三国のサーバーを経由させることがポイントだ。
そしてディーラーは海外カジノ側に立ち、
日本の闇カジノ側に客、というスタイルだ。
ディーラーが配るカードには特別な仕掛けが施してあって、
ディーラーが配ったカードはリアルタイムで客側に表示される。
この種のインターネットカジノは、新宿、六本木、赤坂、などで営業しているとされる。
「一ヵ所の闇カジノで、一ヵ月の売り上げは100億円にも達するといいますから、
暴力団にとっても相当に太いシノギになっています」(関係者)
もっともこうした闇インターネットカジノの場合、
これまで警察当局から摘発されたケースは絶無だ。
「インターネットカジノの場合、サーバーを第三国に置くなど、
様々な仕掛けが施されており、仮に現場を押さえたとしても、摘発するのが非常に難しいのです」(警察関係者)
「摘発されにくい」ということは、客にとってみれば、安全性が高いということに他ならない。
そうしたこともあって、このインターネットカジノは、闇社会では大きなブームになっていると言っていいだろう。
こうした闇カジノの常連客は、
芸能人やスポーツ選手などの他に、比較的社会的な地位の高い人種、
例えば企業経営者、医者、弁護士などが多いとされる。
「いずれにしても新宿や六本木の闇カジノの場合、
ギャンブル依存症とおぼしきハイローラーが続々と集まってくる。
彼らの賭金は大きいですから、胴元もそれなりの資金力が必要になってくる。
それだけに山口組や住吉会など、
有力組織の独占ビジネスになってくるのです」(警察関係者)
闇カジノサイドにとって最も重要な作業は、
やはり何と言っても優良顧客の開拓だ。
数年前に、こんなことがあった。
都内に店舗を構える老舗料理屋でのこと。
ある時から、その店に都内に本社を置くIT企業の社長を名乗る人物が足繁く通ってくるようになった。
店で使う金も、毎回相当な額にのぼっていたという。
店にとってみれば、間違いなく優良客だ。
店のオーナーが挨拶に顔を出すと、2人はたちまち意気投合し、
時々、連れ立って飲みに行くようになったという。
ある時、若手経営者がオーナーをこう誘った。
「ちょっと面白い店があるんですが、一緒にどうです。」
行ってみるとそこは、闇カジノ。
若手経営者に手ほどきを受けるや、オーナーは、
たちまちギャンブルの魅力にハマってしまったという。
最終的に、その主人はバクチの負けで多額の借金を抱え、
店を手放すことになってしまった。
まさに絵にかいたような転落劇だ。
ここで改めて指摘するまでもなく、
このエピソードに登場する若手経営者(おそらく自称だろう)は、
カジノ側とグルだったことは間違いない。
闇カジノは、何も黙って獲物を待ち構えているばかりではない。
むしろ自ら進んで獲物を得るために、様々な形でワナを仕掛けているのだ。
(すだ しんいちろう)経済ジャーナリスト。1961年生まれ。東京都出身。
日本大学経済学部卒。経済紙の記者を経て、フリー・ジャーナリストに。「夕刊フジ」「週刊ポスト」「週刊新潮」などで執筆活動を続けるかたわら、テレビ朝日「ワイドスクランブル」、「サンデーフロントライン」、読売テレビ「たかじんのそこまで言って委員会」、ニッポン放送「あさラジ」他、テレビ、ラジオの報道番組等で活躍中。 また、内閣府、多重債務者対策本部有識者会議委員を務めるなど、政界、官界、財界での豊富な人脈を基に、数々のスクープを連発している。