
先日、久しぶりに筑紫野図書館を訪れ、小説類の棚をみていたら瀬戸内晴美のタグが目に入り、借りてきたのが講談社文庫の「京まんだら」上下巻750ページと「寂庵浄福」の3冊。痛快!寂聴仏教塾という本を読み、若干この著者に興味があったものだから手が伸びたのだと思う。タイトルからしてなんとなく色っぽい内容を想像したのものだが、巻末の解説をみておどろいた。なんと昭和46年8月から47年9月まで日本経済新聞に連載された長編小説だという。コンサルタント時代に渡辺淳一さんの「失楽園」や「愛の流刑地」など日経小説は朝出社時の車中で読むのが毎日楽しみだったことを思い出す。

内容は14歳の時に、お茶屋はんて何するところですかと尋ねた主人公、扶佐が祇園に奉公して、お茶屋「竹乃家」の女将になるまでの彼女を中心に芸妓、舞妓、女性実業家、それを取り巻く実業家や役者、作家など祇園のお客との交わりを描いたものでほんものの男と女はどこが違うかやおんなの幸せとは何かが、祇園に生きる女の情と恋を縦糸に、京都の四季の移ろいを横糸にして華やかなまんだら模様に描かれ、さすがに作家瀬戸内晴美の力量を感じさせる名作。さぞやこの当時の経済人やサラリーマンの楽しみの日経小説であったろうと想像できる。わたしは大学をでて、最初の会社で営業をしていた26歳の頃でまだ日経新聞は読んでいなかったかもしれない。あまり記憶にない。
著者自身が26歳で夫と子供をおいて出奔、28歳で離婚して作家の道を歩んでいるようだが私小説的においもしないではない。菊池恭子というエッセイストが小説に登場するが東京から嵯峨野に居を移したり、著者が2年後、奥州平泉で得度をうけ、法名「寂聴」となって、のち嵯峨野に寂庵を築く、そんな予告めいた内容が小説に展開されている。

わたしも大学4年間は京都で過ごしたが、こんなにいいところがたくさんあったかなと思えるくらい、四季おりおりの素晴らしい京都が描かれている。あらためて小説にでてくる場所を訪れてみたいものだ。ただしこの時の京都は40年前だから今は大部変わっているとは思うが・・・