子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男」:さっそくパリのライヴ盤を聴きながら

2015年05月31日 12時05分39秒 | 映画(新作レヴュー)
アメリカの数ある大衆音楽の中でも,ソウル・ミュージックほど「映画」というメディアと親和性の高いジャンルはないだろう。実在のアーティストを取り上げた映画だけに限っても,ジェイミー・フォックスがアカデミー賞主演男優賞を受賞した「Ray/レイ」から現在公開中の「JIMI:栄光への軌跡」まで,ロック・ミュージシャンのそれを遥かに凌駕する数の作品が作られてきた。
リアルな伝記映画以外にも,ドキュメンタリーや実在のアーティストをモデルとして作り上げられた作品まで含めれば膨大な数に上る作品群の中で,ジョン・ランディスの「ブルース・ブラザーズ」を,ソウル・ミュージックに対する制作陣のリスペクトが作品の質そのものにダイレクトに結びついた好例の一つとして挙げることに反対する人は少ないだろう。
その大傑作の中で,今はなきジョン・ベルーシに「バンドという啓示」を与えた宣教師役を嬉々として演じていたジェームス・ブラウンの生涯を,「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」のテイト・テイラーが丹念に描いた作品が本作「GET ON UP(なぜ邦題をそのまま『ゲロッパ』にしなかったのか疑問に感じるが,おそらくは井筒和幸監督の同名作への配慮なのだろう)」だ。

伝記系作品の殆どが持つ「貧困から努力と才能でスターダムにのし上がり,大きな挫折を経て波乱の人生に幕」という骨格構造を,本作も基本的には踏襲している。自分を捨てた母への愛憎,ひとりでどんどんと上昇していく自分に対する無名時代からの仲間の複雑な思い,そして無人の荒野を行くかの如き音楽的探究心。JB自身を取り巻くそういった複数の要素を手際よく捌いていくテイラーの手際は,長編の監督がまだ3作目とは思えないほど堂に入ったものだ。
何度かJBがカメラに向かって独白するカットが挿入されるが,自分で自分の心情とポジションを解説するかのような視点を附加する技には,「技巧に走る」といった印象はなく,ボブ・ディランを6人の俳優が演じたトッド・ヘインズの「アイム・ノット・ゼア」に通じるようなクールな自己批評性をもまとうことに繋がっている。

「やや冗長(139分)」で「演奏シーンをもっと」といった印象を抱く程度に,音楽伝記映画が陥りがちな泥沼に足を突っ込んでいる,という点で多少の不満はある。だがJBを演じるチャドウィック・ボーズマンの文字通り「ゲロッパ」な熱演と,先に挙げた「ブルース・ブラザーズ」で共演していたダン・エイクロイドが,「サビがない,曲が展開していかない」と新人時代のJBに文句を付けるレコード会社の社長に対して「そこが新しいんです」と擁護するプロデューサー役で出演していることが,そういった瑕疵を完全に修復している。何だかんだといちゃもんを付ける材料には事欠かないアメリカのショービズ界だが,常に先人と彼らが築いた伝統を尊重する,という一点において「リスペクト」せざるを得ないだろう。ゲロッパ,あっぱれ。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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1 コメント

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お久しぶり (beckett)
2015-06-01 18:59:01
OBの野田です。たまに見せてもらってます。サッカーは門外漢、ロックもなかなか聞けない、でも映画は・・。面白いし、文章が上手い。説得力もあるし、私の書くような稚拙さもない。「なるほど」と思いながら読ませてもらってます。
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