風・感じるままに

身の回りの出来事と生いたちを綴っています。

“紅とんぼ”

2010-08-09 | 趣味
オレが通っているカラオケスナックが、この9月いっぱいで店じまいするという。

先週、店に入ってママの「いらっしゃい」の声を聞いた時に、???と思った。ママの顔がいつもと違っていた。カウンターに座り、いま入ってきたドアの方をふり返った時に、その訳がわかった。

ドアの内側には、“お客様へ”“皆さまに可愛がっていただきましたスナック○○は、9月末日をもちまして…”の張り紙が。
少し前にママからはそのような話を内緒で聞いてはいたが、いよいよかと。

オレがこの店に行くようになって1年くらいか、そんなに「常連」さんでもないが、週に1回くらいは通ってきた。
ママはあまり美人でもなかったし、カラオケの音響もそんなに良くはなかったが、気楽さが一番だった。

「店をつづけながらの治療も考えたけど、無理といわれた」と。「しばらく治療に専念し、治ったらまた、小さな居酒屋でも…」と寂しくいう。
じっと聞いていて、なにか励ます言葉をと思ったが、オレの本当の気持ちを表す言葉が見つからず、「まだ若いんやから、まずからだを治してからや」と、ありっきたりのことしかいえなかった。

ママが、「ヤマちゃん、唄ってよ!」とマイクを渡した。いつもなら、すぐ唄いだすオレだが、この時ばかりはちょっと戸惑った。なにを唄おうかと。
こんな曲を唄ったらどうかと思いながら、ちあきなおみの「「冬隣」を唄った。この日は、オレ以外に一人のお客さんがいたが、その人は唄わないというので、オレは、「ママも唄ってよ」といった。ママは気持ちを押えながら、時々音程を外しながら、努めて明るい歌を選曲した。

次にオレは、同じちあきなおみの「紅とんぼ」を、歌詞にでてくる駅名をこの店のすぐ近くの私鉄駅に変え、店の名前もこのスナックの名前に変えながら唄った。

そして最後に、「ママ泣かんといてや」といって、天童よしみの「泣かへんわ」を唄った。
唄いながらそーとママの横顔をみたら、やっぱり泣いていた。