のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

ハリネズミの道/青木奈緒

2007年01月17日 00時04分49秒 | 読書歴
■ストーリ
 留学生として南ドイツを訪れた日本人女性京(ミヤコ)。
 男女共同の学生寮に驚き、習慣の違いに戸惑いながらも、
 楽しい仲間に恵まれ、パーティやサッカー観戦、小旅行と
 ドイツ暮らしに夢中になっていく。幸田露伴、文、青木玉を
 継ぐ筆者が、人との出会いと別れ、美しい街の息吹を
 詩情豊かに綴る新感覚の長篇エッセイ。

■感想 ☆☆*
 エッセイと紹介されてはいるが、主人公の名前からして
 筆者と異なるため、連作短編集を読んでいるような気持ちで
 ページを繰り続けた。
 ひとつひとつが短く、あっさりとしている。
 よくあるような「留学」エッセイではなく、日本と南ドイツの
 人の特性や文化の違いについては、あまり触れられていない。
 学生時代に出会った人たちとの出会いを通して
 自分が何を考えたか、この学生時代の先に広がる未来には
 何があるのか、など内面を見据えた話が多い。

 筆者にとって、留学もそこでであった異国の人も
 「特別」ではないのだろう。
 どこであろうと、「学生時代」であり「青春時代」
 どの国の住民であろうと、「友人」という括りなのだ。
 このナチュラルさがグローバルというものなのかもしれない。

 ドイツの伝統的な暮らしや文化はよく分からないけれど
 様々な国の人たちの多様な考えに触れることは楽しそうだと
 思えてくる作品だった。

月読/太田忠司

2007年01月17日 00時03分26秒 | 読書歴
■ストーリ
 月読、それは死者の最期の言葉を聴きとる異能の主。
 故郷を捨て、月読として生きることを選んだ青年、朔夜一心と
 連続婦女暴行魔に従妹を殺され、単身復讐を誓う刑事、河井。
 ふたりが出会ったとき、運命の歯車は音を立ててまわりはじめる。

■感想 ☆☆☆
 今、私たちが生きるこの世界と限りなく似通っているのに
 どこかノスタルジィ漂う町並みが残っている現実とは
 少し異なる世界。そこでは死者の最後の思いが彫刻や
 匂いや風など様々な形で、その場に残る。
 そこに込められた思いが読めてしまう特殊技能者 月読。
 彼らが読み取った思いは、死者を取り巻く人たちが
 望んでいるようなメッセージではないことのほうが多い。
 例えば「ラーメン食べたい」というような他愛もない
 メッセージであろうとも、そのまま伝えることしか
 できない月読は、月読として生きるしかないのだ。

 どこまでも抑えた文章で月読の孤独を描き
 一方で理不尽に従姉妹を殺された刑事の焦燥によって
 月読という特殊技能の秀でた部分も描かれている。
 残された人は、どんな言葉であれ、死者の想いを
 知りたいと願ってしまうのだと思う。そこに何かの
 手がかりが隠されているのかも、と思ってしまうのだ。
 訪れた死が突然だったり、理不尽だったりすれば、尚更だ。
 しかし、せっかくの特殊技能が事件解決に一役買うことはない。
 解決を手繰り寄せるのは、月導が事件解決に貢献するに違いない
 と思ってしまう周囲の人々の行動だ。

 そのため、推理小説特有の読後のすっきり感はほとんどない。
 けれども、死者の言葉を聞くことで、
 彼らとの突然の別れに区切りをつけて
 前に進んでいく高校生たちの姿が
 私たちに爽やかな気持ちを与えてはくれる。