のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

お縫い子テルミー/栗田有紀

2007年01月22日 23時15分30秒 | 読書歴
■ストーリ
 依頼主の家に住み込み、服を仕立てる「流しのお縫い子 テルミー」
 こと照美。生まれ育った島をあとにして歌舞伎町を目指したのは
 十五歳のとき。彼女はそこで、女装の歌手・シナイちゃんに恋をする。
 シナイちゃんは歌に片思い中。そんな彼のために、一針入魂、
 最高のドレスを作り上げる。切なくもまっすぐな、叶わぬ恋の物語。

■感想 ☆☆☆☆*
 私とはおそらく全く違うテイストだと思われるのに
 なぜか好みや趣味が一致する部分が多いタマ子さんから
 お勧めしていただいた一冊を本屋で見つけ、嬉しくなって
 購入した。

 ページを開いて数分後
 「私の名前は鈴木照美。名刺には『一針入魂 お縫い子テルミー』と
  印刷してある。ミシンは使わない。正真正銘の、お縫い子だ。」
 というテルミーに私の心は鷲掴みにされた。
 義務教育も受けず、自分の家に住んだこともないテルミー。
 暮らしていた家は常に他人の家。
 祖母と母はいるけれど、祖父と父親の存在はまったく知らない。
 生まれてからずっと、他人の家に居候し、居候するからには
 ご主人様に奉仕するのも当然だと思っていたテルミーは
 流れ着いた歌舞伎町で恋をする。

 決してありえそうにない世界設定の中で、魅力的に
 動き回る主人公たち、これこそが小説の醍醐味なのだ。
 私の知らない世界。私が歩むことのない世界。
 その世界で、テルミーはどこまでもかっこよく潔く生きている。
 彼女だけではない。
 彼女が恋をしたシナイちゃんも同様にかっこいい。
 すべての女性に優しくて、だから多くの女性に惚れられて
 けれども歌に片思い中だから、決して心は許さない。
 テルミーもシナイちゃんもかっこいいけれど、挫折だらけ。
 挫折している途中だけれど、前に進む足は止めない。
 枕を涙でぬらしても、辛くて寂しくてたまらなくても
 恋したことを後悔しない。自分の選択に対する自信は揺るがない。

 読み終わった後に元気が出てくること間違いナシだと思う。
 なんなら、テルミーのおばあちゃんの格言
 「たわむれに恋はすまじ」
 「一事が万事、すなわち皿を拭くなら裏までも」
 「足は泥にとられても、見あげりゃ空には星がある」
 この言葉だけでも元気が出てくるのだ。

 残念なのは短編より少し長いぐらいの短いお話だということ。
 できればもっともっとテルミーと一緒に過ごしたかった。
 同時収録の「ABARE・DAIKO」も面白かったので、
 満足度は大きいのだけれど。