のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

蒼い時/山口百恵

2008年04月29日 12時16分12秒 | 読書歴
33.蒼い時/山口百恵
■内容
 たとえスターでも、若い女性ならそっと胸の奥底にしまって
 おきたい思いがある。出生や生い立ち、恋や父母のこと。
 結婚を前に山口百恵が綴った赤裸々な自叙伝。

■感想 ☆☆☆☆
 読み始めてすぐに、この本は本当に山口百恵が本当に
 書いたのかな、という疑問を持った。そういった疑問を持つほど
 文章が落ち着いていて、客観的。自分のことを冷静な目で見つめ
 思いを的確な文章にしている。頭のよさが感じられる随筆だった。

 山口百恵さんの引退は私が2歳のときなので、山口百恵さんが
 どんなにすごいスターだったのか、どんなオーラを放っていたのか
 を実際に見たことはない。けれど、今も語り継がれる彼女の
 スター性、引退して30年がたとうとしているのにも関わらず
 未だに存在感を失っていない魅力から、時代を超えたアイドル
 だったことが伺われる。
 山口百恵さん、美空ひばりさん、石原裕次郎さんは、老若男女
 すべての世代に知られ、時代を映し出した人だったのだと思う。

 ただ、彼女の歌やドラマは知っていても、スキャンダルについては
 あまり知らず、彼女が父親と確執があったこと、裁判を起こして
 いたことはこの本を読んで初めて知った。
 特に面白く読んだのは三浦友和さんとの出会いから結婚に
 至るまでのくだりで、当時のアイドルがいかに人と接触を
 持つことが大変だったのか、ふたりっきりの時間が持てないまま
 どうして付き合うことができたのかを興味深く読んだ。

 少し前に読んだ三浦友和さんのインタビュー文で
 「こだわりある、と思う人は?」という問いかけに、
 彼は自分の妻の名前を挙げ、こう述べていた。
 「彼女はじぶんの生き方に対して、非常につよいこだわりを
  持っているようです。自分が大切にするものは勿論、
  自分の生き方そのものにこだわっているんだと思います。」
 この本を読みながら、その回答を思い返し、納得した。

 今更ながら、彼女がたった7年しか芸能界にいなかったこと
 引退したのが21歳だったことに驚きを覚える。この文章を
 書いたのは20歳のとき。この賢さ、頭のよさは何なんだろう。
 今、放送されているクイズ番組やバラエティ番組を見て
 彼女は何を思っているのだろう。
 芸能人だけではない。今の20歳と当時の20歳の違いは
 何なんだろう。そんなことを思いながら読み終えた。

生まれる森/島本理生

2008年04月29日 11時33分38秒 | 読書歴
32.生まれる森/島本理生
■ストーリ
 主人公の「わたし」は、大学に入ったばかり。だが高校時代の
 失恋をきっかけに、壊れた心を抱えたままでいた。数知れぬ男と
 寝て、堕胎し、友人の部屋があいたのをきっかけに家を出て、
 それでも埋められない何か。

■感想 ☆☆☆
 中編小説であっという間に読める。
 語り口も素直なので、とても読みやすい。

 失恋した主人公が今もまだ相手のことを吹っ切ることができないで
 いるのだけれど、その相手のことを思うたびに、吐き気を覚えたり
 足がすくんだりしてしまう様子が面白い。面白い、という表現は
 妥当ではないかもしれない。興味深い、かな。
 かわいさあまって憎さ百倍っていう気持ちが具体的行動を
 とり始めると、こういう生理現象にたどりつくのかな、と
 妙に納得できた。
 ただ、短い小説なので、主人公がなぜそこまで相手のことを
 忘れられないでいるのか、相手のどこにそこまで魅力を感じて
 いるのかが今ひとつ掴めず、感情移入できないまま、終わって
 しまったのが少し残念。

 出口を見つけたかもしれない、と思わせるラストは爽やかだった。
 どんなに苦しい思いをしても、相手が忘れられなくて苦しんでも
 そういった気持ちはやがて癒える。終わりが来る。そして
 人はまた誰かを好きになる。そういうのっていいな、と思った。

トトロの住む家/宮崎駿

2008年04月29日 11時25分13秒 | 読書歴
31.トトロの住む家/宮崎駿
■内容
 トトロが喜んで住みそうな自然に囲まれた家。
 住む人の心が偲ばれる懐かしい家。
 「トトロが喜んで住みそうな懐かしい家」というテーマで
 宮崎監督がみつけた東京近郊の6軒の家を、イラストと
 和田久士さんの写真を交えて紹介する。

■感想 ☆☆☆☆
 どれもこれも時代を感じさせる懐かしい家ばかり。
 見ながら、小学校3年生まで住んでいたおんぼろの我が家を
 懐かしく思い出した。住んでいた頃は、古くて古くて
 嫌だと思っていて、マンションに引越しが決まったときは
 うきうきしたというのに、思い返すと妙に懐かしい。

 ミシンと鏡台を置いてもまだ余裕があった縁側は
 家の中で唯一、日差しが注ぎ込む場所で日向ぼっこが
 とても気持ちよかったこと。
 長屋づくりで、隣の家とつながっていて、空き家だった
 隣家を物置代わりに使っていたこと。
 トイレのドアが木枠でできていて、閉めるのが怖くて
 たまらなかったこと。
 小さな小道の行き詰まりにある家で、家の前の道路を
 勝手に庭のように使っていたこと。

 今、思い返しても、よくあんな家に住んでいたな、と
 あの頃の自分たちを尊敬するし、あの家にもう一度
 住め、と言われたら勘弁してください、と思うけれど
 (母親はこの家に住むと決まったときに、思わず
 涙をこぼしたらしい)、子ども時代をあの家で過ごせたこと
 は幸せなことだったのかもしれない、と今は思う。
 あの家からもらったものもたくさんあったな、と思う。
 そんな気持ちをしみじみと思いださせてくれた本だった。

 人は便利を追求してきたし、これからも追求していくけれど
 結局のところ、何が一番幸せなのかな、どういった家が
 居心地がいい家なのかな、と考えさせられた本だった。
 結局、家なんて「モノ」で、その家に住む家庭の問題
 なんだろうな、とは思うけれど。

時代屋の女房/1983年日本

2008年04月29日 11時07分10秒 | 映画鑑賞
12.時代屋の女房/1983年日本
■ストーリ
 東京・大井町界隈で古道具屋“時代屋”を営む安さん(渡瀬恒彦)
 のところに、突然日傘を差して猫を抱いた謎の美女・真弓
 (夏目雅子)が現れる。一切の素性を語ろうとしないまま
 時代屋にいついた真弓を安さんはこころよく受け入れ、
 やがて二人は夫婦のように生活していく。
 しかし、真弓は突然姿を消して・・・。
■監督
 森崎東
■出演
 渡瀬恒彦、夏目雅子、津川雅彦、朝丘雪路、藤田弓子、平田満

■感想 ☆☆☆*
 見終わった今も夏目雅子さんの美しさが目に焼きついている。
 可憐で清楚、なおかつキュートでコケティッシュ。
 20年以上を経て、今もなお通用するこの美しさが映画の魅力を
 三割り増しに仕上げている。
 そして、渡瀬さんと津川さんのやんちゃなオトコぶりが見事。
 ふたりとも地に足がついていない、家庭に安住できない男の
 性みたいなものをかっこよく、そして同時にかっこ悪く演じて
 いる。
 彼らを見ていると、「どうしようもないなぁ、男って。」
 と思わせる人に限って、魅力的なんだよね、と納得してしまうのだ。

 ただ、登場人物が魅力的だったからこそ、もっともっと
 彼らのことを知ることができるエピソードがほしかった。
 「何も語らず、何も聞かないのが都会の流儀」だと言い
 自分の苗字も、過去に何をしていたのか、なぜ、時折、姿を
 消すのかを話さない真弓と、そんな彼女を問い詰めない安さんが
 最後までじれったくて仕方がなかった。
 家庭に安住できないでいた安さんが、時折、姿を消す真弓を
 「今度はもう戻ってこないのではないか。」と不安に思う姿は
 こういう感情が生じて、人は家庭を求めるんだろうな、と
 思わせるに足るもので、だからこそ、真弓になぜ姿を消すのか
 時折、姿を消しても戻ってくる場所は安さんのところと決めて
 いるのか、そういったところを確認してほしかった。
 そういったもやもやを解消して安心することが家庭を持つ
 っていうことなんじゃないかな、と思った。

 ただ、「何も聞かない」ことがこの時代(80年代)の空気
 だったのかな、とも思う。真弓がいなくなり、やけになって
 酔っ払ってしまった安さんと飲み仲間が歌う中森明菜の
 「少女A」はとても効果的。

 「私は私よ、関係ないわ。
  特別じゃない、どこにでもいる 私、少女A」

 深く関わらない。名前も名乗らない。
 人に深入りしようとしない。そういった時代の空気を
 感じさせられる映画だった。

 戻ってきた真弓を安さんはやはり何も聞かずに
 そのまま受け入れる。そのラストには釈然としないものがあるが
 それでも、日傘を差して戻ってくる夏目雅子さんの輝きと
 その姿を微笑み混じりに見つめながら待つ渡瀬さんの表情に
 「ハッピーエンドなんだ」という気持ちにさせられた。