73.φ(ファイ)は壊れたね PATH CONNECTED φ BROKE
■ストーリ
旧友のマンションを訪ねた山吹はそこで奇妙な事件に遭遇した。
まるでおもちゃ箱のように、過剰なまでに彩られた部屋の中で、
背中に羽を生やした男の死体が宙吊りにされていたのだ。
現場は密室。そしてその密室には一部始終を捉えた『φは壊れたね』
と銘打たれたビデオテープが残されていた。
74.θ(シータ)は遊んでくれたよ ANOTHER PLAYMATE θ
■ストーリ
那古野で起こった転落事件。死体の額には口紅でギリシャ文字の
「θ」が描かれていた。最初は飛び降り自殺とされたその事件だが、
その後も相次いで「θ」の描かれた転落事件が発生する。1人目の
自殺者のパソコンには、『θ』という名の、人工知能と会話が
出来るサイトへのアクセス履歴があった。
75.ε(イプシロン)に誓って SWEARING ON SOLEMN ε
■ストーリ
偶然同時期に上京していた山吹と加部谷は、東京から那古野への
帰路で同じバスに乗ることになった。しかし、2人が乗ったバスは
発車して程なく1人の男にジャックされてしまう。
バスの乗客名簿には『εに誓って』という名の宗教団体の名が
記されていた。
76.λ(ラムダ)に歯がない λ HAS NO TEETH
■ストーリ
実験のためにT建設を訪れていた国枝研究室の面々は、
そこの研究所で奇妙な事件に遭遇。密室状態の部屋の中で、
歯を全て抜かれた4人の男が銃殺されていたのだ。
被害者のポケットには『λに歯がない』と書かれたメモが入っていた。
77.η(イータ)なのに夢のよう Dreamily in spite of η
■ストーリ
通常では考えられない、地上12メートルの松の枝で
発見された首吊り死体。現場近くの神社では
『ηなのに夢のよう』と書かれた絵馬が発見された。
その後も奇妙な場所での首吊り自殺が立て続けに発生するなか、
西之園は親友、反町愛の恋人である金子から両親の飛行機事故の
真相を知らされる。
■感想 ☆☆☆*
久しぶりに森作品をまとめて読破。Vシリーズ以降、森作品から
すっかり遠ざかっていたが、「イナイ×イナイ」で改めて森作品の
「西ノ園萌絵」にひかれ、手に取った。
シリーズよりも彼女の出番が多い点は、非常に満足。
特に2作目「θは遊んでくれたよ」は犀川先生の出番も多く、
特に面白く読み進めた。
ただ、そのふたりの登場シーンや西ノ園萌絵の両親の事故に関する
新事実以外は特に興味をひかれる部分がなかったのも事実だ。
新シリーズのヒロインの影が薄いように感じた。
78.東電OL殺人事件
■内容
1997年3月8日深夜。渋谷区円山町でひとりの女性が
何者かによって絞殺された。被害者渡辺泰子が、昼間は
東電のエリートOL、夜は娼婦というふたつの顔を持っていた
ことがわかると、マスコミは取材に奔走した。
逮捕されたのは、ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ。
娼婦としての彼女が、最後に性交渉した「客」であった。
衝撃の事件発生から劇的な第一審の無罪判決までを追った
ノンフィクション。
■感想 ☆(作品としては。ただ、事件そのものに色々と
考えさせられたため、気持ち的には☆☆☆☆)
「事実は小説よりも奇なり」
この言葉を強く実感した。12年前、ワイドショーが騒いでいた
ことをおぼろげに覚えている。それぐらい報道が過熱した事件だが、
改めてこの本を読み、その「事実とは思えない事実」に驚愕した。
ただ、驚愕している頭のどこか片隅で、被害者となった彼女が
なぜそういった生き方を選んだのか、そこをもっと知りたい、
彼女の本音を聞きたい、彼女と話したい、と思う自分もいて、
この事件があんなにもセンセーショナルに扱われたのは
単なるワイドショー的悪趣味な覗き見根性だけではなく、
当時も多くの女性たちがA子さんの選択を否定せず、
驚愕しながらも、「彼女をしりたい」と思ってしまったからでは
ないかと感じた。
とは言え、このルポ自体は非常に読みにくかった。
本来、冷静に事件を伝えるべきはずのルポライターの私情が
情緒的な比喩表現とともに、ふんだんに盛り込まれている。
特に男性特有の思い込み、というか「俺はわかってる」的な
事件の追いかけ方には、若干、いらだちを覚えた。
事件から10年以上経った今だからこそ、もう少し冷静に
この事件を再検証するようなルポが出てくれればいいのに、と思う。
事件から10年以上経っていたとしても、この事件について、
この事件の被害者であるA子さんの行動については
「古さ」が感じられない。そう思った。
79.TSUGUMI/吉本ばなな
■ストーリ
病弱で生意気な美少女つぐみ。彼女と育った海辺の小さな町へ
帰省した夏、まだ淡い夜のはじまりに、つぐみと私は、ふるさとの
最後のひと夏をともにする少年に出会った。少女から大人へと
移りゆく季節の、二度とかえらないきらめきを描く。
切なく透明な物語。
■感想 ☆☆☆☆*
久々に読み返した吉本作品。
何度読み返しても、彼女の文章表現の巧みさや文章の温かさに感動する。
読み返せば読み返すほど、そして年を重ねるほどに
彼女の文章の温もりをいとしく感じるようになった気がする。
ヒロインであるつぐみの魅力は飛びぬけている。
どんなに我がままでも、粗野な口調でも、乱暴なたたずまいでも
彼女の印象はキュートで繊細、どこまでも「オンナノコ」なのだと思う。
彼女がスカート姿であぐらをかく様子や
誰かに対して「おい、お前。」と乱暴に呼びかける様子、
体調を崩した時の青白い顔色や苦しそうな呼吸のもとで
「メロンを買ってこい。」とわがままをいう様子。
色あせない彼女の魅力が私の中に鮮明に残っていて
小説世界の人間とは思えないほどリアルによみがえってくる。
彼女のキャラクターだから、この作品からは「生きること」への
前向きさが伝わってくるのだと思う。そういった重いテーマを
軽やかに描いているところがこの作品の最大の魅力なのだと思う。
80.有頂天家族/森見 登美彦
■ストーリ
時は現代。下鴨神社糺ノ森には平安時代から続く狸の一族が
暮らしていた。今は亡き父の威光消えゆくなか、下鴨四兄弟は
ある時は「腐れ大学生」、ある時は「虎」にと様々に化け、
京都の街を縦横無尽に駆けめぐり、一族の誇りを保とうとしている。
敵対する夷川家、半人間・半天狗の「弁天」、すっかり落ちぶれて
出町柳に逼塞している天狗「赤玉先生」。天狗と人間が入り乱れて
巻き起こす三つ巴の化かし合いが今日も始まった。
■感想 ☆☆☆
「面白きことはよきこと哉」を座右の銘にしている狸が主人公。
というと、ふざけた内容のユーモア小説に聞こえるが、
そして、実際、堅苦しくまとまってはおらず、
どこまでもユーモアを基調にしてはいるが、
話の核は「家族」であり、「人と人との(狸と狸との)思いやり」
である。父親の死以来、ばらばらになってしまった家族が、待ち受ける
危機を目の前に、母親を、そして家族の誇りを守るために
一致団結していく姿がテンポの良い文章で綴られる。
クライマックスに向けての疾走感と高揚感が気持ちの良い一冊。
家族だからこそ、話せないこと、吐き出せない本音があるけれど
家族だからこそ、話さなくても傍にいるだけで分かること
分かりあえることも大きいのだとしみじみ思える作品。
81.夜の光/坂木司
■ストーリ
慰めはいらない。癒されなくていい。
本当の仲間が、ほんの少しだけいればいい。
本当の自分はここにはいない。高校での私たちは、常に仮面を
被って過ごしている。家族、恋愛、将来。問題はそれぞれ違うが、
みな強敵を相手に苦戦を余儀なくされている。そんな私たちが
唯一寛げる場所がこの天文部。ここには、暖かくはないが、
確かに共振し合える仲間がいる。
■感想 ☆☆☆
坂木さんらしい優しさに満ちた作品。
辛いこと、理不尽なことが日常にたくさん溢れていても、
その現実を共有できる誰かがいることで乗り越えられることは大きい。
現実を共有するだけでは、問題は解決しない。
しかし、問題が解決しなくても、誰かが分かってくれることが
大きな救いになるときはあるのだと思う。
主人公たち4人は、優しい言葉を掛け合うことも、
現在抱え込んでいる問題について悩みを吐露しあうことも
慰めあうこともない。必要以上にもたれあわないのに
お互いへの思いやりに満ちた関係が築けている姿が清々しく
さわやかな気持ちで読み終えることができた。
■ストーリ
旧友のマンションを訪ねた山吹はそこで奇妙な事件に遭遇した。
まるでおもちゃ箱のように、過剰なまでに彩られた部屋の中で、
背中に羽を生やした男の死体が宙吊りにされていたのだ。
現場は密室。そしてその密室には一部始終を捉えた『φは壊れたね』
と銘打たれたビデオテープが残されていた。
74.θ(シータ)は遊んでくれたよ ANOTHER PLAYMATE θ
■ストーリ
那古野で起こった転落事件。死体の額には口紅でギリシャ文字の
「θ」が描かれていた。最初は飛び降り自殺とされたその事件だが、
その後も相次いで「θ」の描かれた転落事件が発生する。1人目の
自殺者のパソコンには、『θ』という名の、人工知能と会話が
出来るサイトへのアクセス履歴があった。
75.ε(イプシロン)に誓って SWEARING ON SOLEMN ε
■ストーリ
偶然同時期に上京していた山吹と加部谷は、東京から那古野への
帰路で同じバスに乗ることになった。しかし、2人が乗ったバスは
発車して程なく1人の男にジャックされてしまう。
バスの乗客名簿には『εに誓って』という名の宗教団体の名が
記されていた。
76.λ(ラムダ)に歯がない λ HAS NO TEETH
■ストーリ
実験のためにT建設を訪れていた国枝研究室の面々は、
そこの研究所で奇妙な事件に遭遇。密室状態の部屋の中で、
歯を全て抜かれた4人の男が銃殺されていたのだ。
被害者のポケットには『λに歯がない』と書かれたメモが入っていた。
77.η(イータ)なのに夢のよう Dreamily in spite of η
■ストーリ
通常では考えられない、地上12メートルの松の枝で
発見された首吊り死体。現場近くの神社では
『ηなのに夢のよう』と書かれた絵馬が発見された。
その後も奇妙な場所での首吊り自殺が立て続けに発生するなか、
西之園は親友、反町愛の恋人である金子から両親の飛行機事故の
真相を知らされる。
■感想 ☆☆☆*
久しぶりに森作品をまとめて読破。Vシリーズ以降、森作品から
すっかり遠ざかっていたが、「イナイ×イナイ」で改めて森作品の
「西ノ園萌絵」にひかれ、手に取った。
シリーズよりも彼女の出番が多い点は、非常に満足。
特に2作目「θは遊んでくれたよ」は犀川先生の出番も多く、
特に面白く読み進めた。
ただ、そのふたりの登場シーンや西ノ園萌絵の両親の事故に関する
新事実以外は特に興味をひかれる部分がなかったのも事実だ。
新シリーズのヒロインの影が薄いように感じた。
78.東電OL殺人事件
■内容
1997年3月8日深夜。渋谷区円山町でひとりの女性が
何者かによって絞殺された。被害者渡辺泰子が、昼間は
東電のエリートOL、夜は娼婦というふたつの顔を持っていた
ことがわかると、マスコミは取材に奔走した。
逮捕されたのは、ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ。
娼婦としての彼女が、最後に性交渉した「客」であった。
衝撃の事件発生から劇的な第一審の無罪判決までを追った
ノンフィクション。
■感想 ☆(作品としては。ただ、事件そのものに色々と
考えさせられたため、気持ち的には☆☆☆☆)
「事実は小説よりも奇なり」
この言葉を強く実感した。12年前、ワイドショーが騒いでいた
ことをおぼろげに覚えている。それぐらい報道が過熱した事件だが、
改めてこの本を読み、その「事実とは思えない事実」に驚愕した。
ただ、驚愕している頭のどこか片隅で、被害者となった彼女が
なぜそういった生き方を選んだのか、そこをもっと知りたい、
彼女の本音を聞きたい、彼女と話したい、と思う自分もいて、
この事件があんなにもセンセーショナルに扱われたのは
単なるワイドショー的悪趣味な覗き見根性だけではなく、
当時も多くの女性たちがA子さんの選択を否定せず、
驚愕しながらも、「彼女をしりたい」と思ってしまったからでは
ないかと感じた。
とは言え、このルポ自体は非常に読みにくかった。
本来、冷静に事件を伝えるべきはずのルポライターの私情が
情緒的な比喩表現とともに、ふんだんに盛り込まれている。
特に男性特有の思い込み、というか「俺はわかってる」的な
事件の追いかけ方には、若干、いらだちを覚えた。
事件から10年以上経った今だからこそ、もう少し冷静に
この事件を再検証するようなルポが出てくれればいいのに、と思う。
事件から10年以上経っていたとしても、この事件について、
この事件の被害者であるA子さんの行動については
「古さ」が感じられない。そう思った。
79.TSUGUMI/吉本ばなな
■ストーリ
病弱で生意気な美少女つぐみ。彼女と育った海辺の小さな町へ
帰省した夏、まだ淡い夜のはじまりに、つぐみと私は、ふるさとの
最後のひと夏をともにする少年に出会った。少女から大人へと
移りゆく季節の、二度とかえらないきらめきを描く。
切なく透明な物語。
■感想 ☆☆☆☆*
久々に読み返した吉本作品。
何度読み返しても、彼女の文章表現の巧みさや文章の温かさに感動する。
読み返せば読み返すほど、そして年を重ねるほどに
彼女の文章の温もりをいとしく感じるようになった気がする。
ヒロインであるつぐみの魅力は飛びぬけている。
どんなに我がままでも、粗野な口調でも、乱暴なたたずまいでも
彼女の印象はキュートで繊細、どこまでも「オンナノコ」なのだと思う。
彼女がスカート姿であぐらをかく様子や
誰かに対して「おい、お前。」と乱暴に呼びかける様子、
体調を崩した時の青白い顔色や苦しそうな呼吸のもとで
「メロンを買ってこい。」とわがままをいう様子。
色あせない彼女の魅力が私の中に鮮明に残っていて
小説世界の人間とは思えないほどリアルによみがえってくる。
彼女のキャラクターだから、この作品からは「生きること」への
前向きさが伝わってくるのだと思う。そういった重いテーマを
軽やかに描いているところがこの作品の最大の魅力なのだと思う。
80.有頂天家族/森見 登美彦
■ストーリ
時は現代。下鴨神社糺ノ森には平安時代から続く狸の一族が
暮らしていた。今は亡き父の威光消えゆくなか、下鴨四兄弟は
ある時は「腐れ大学生」、ある時は「虎」にと様々に化け、
京都の街を縦横無尽に駆けめぐり、一族の誇りを保とうとしている。
敵対する夷川家、半人間・半天狗の「弁天」、すっかり落ちぶれて
出町柳に逼塞している天狗「赤玉先生」。天狗と人間が入り乱れて
巻き起こす三つ巴の化かし合いが今日も始まった。
■感想 ☆☆☆
「面白きことはよきこと哉」を座右の銘にしている狸が主人公。
というと、ふざけた内容のユーモア小説に聞こえるが、
そして、実際、堅苦しくまとまってはおらず、
どこまでもユーモアを基調にしてはいるが、
話の核は「家族」であり、「人と人との(狸と狸との)思いやり」
である。父親の死以来、ばらばらになってしまった家族が、待ち受ける
危機を目の前に、母親を、そして家族の誇りを守るために
一致団結していく姿がテンポの良い文章で綴られる。
クライマックスに向けての疾走感と高揚感が気持ちの良い一冊。
家族だからこそ、話せないこと、吐き出せない本音があるけれど
家族だからこそ、話さなくても傍にいるだけで分かること
分かりあえることも大きいのだとしみじみ思える作品。
81.夜の光/坂木司
■ストーリ
慰めはいらない。癒されなくていい。
本当の仲間が、ほんの少しだけいればいい。
本当の自分はここにはいない。高校での私たちは、常に仮面を
被って過ごしている。家族、恋愛、将来。問題はそれぞれ違うが、
みな強敵を相手に苦戦を余儀なくされている。そんな私たちが
唯一寛げる場所がこの天文部。ここには、暖かくはないが、
確かに共振し合える仲間がいる。
■感想 ☆☆☆
坂木さんらしい優しさに満ちた作品。
辛いこと、理不尽なことが日常にたくさん溢れていても、
その現実を共有できる誰かがいることで乗り越えられることは大きい。
現実を共有するだけでは、問題は解決しない。
しかし、問題が解決しなくても、誰かが分かってくれることが
大きな救いになるときはあるのだと思う。
主人公たち4人は、優しい言葉を掛け合うことも、
現在抱え込んでいる問題について悩みを吐露しあうことも
慰めあうこともない。必要以上にもたれあわないのに
お互いへの思いやりに満ちた関係が築けている姿が清々しく
さわやかな気持ちで読み終えることができた。