旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

旅の途中 菜の花畑をレトロな気動車で往く

2016-03-19 | 日記・エッセイ・コラム

 昔懐かしいディーゼルカーに乗って、菜の花の丘を越えて房総半島を横断しよう。
JR内房線の五井駅から大多喜町の上総中野駅まで、まずは小湊鉄道線に揺られる。
オイルの匂い、ガタガタ大きな揺れ、レトロな車両が長閑な風景の中を往く。

 

五井駅の跨線橋上には弁当屋が出店、おばあちゃんがひとりで観光客を捌いている。
休日の小湊鉄道線はハイキングの人気スポットだから、お弁当が現地調達は助かるね。

五井駅の東側には車両基地、赤みのあるクリーム色とオレンジ色の車両が並ぶ。
このカラーは同社のバスと一緒、羽田空港など都内に乗入れる高速バスでお馴染みだ。

 

 ひと際大きく身震いをして、上総中野行きの2両編成のディーゼルカーが走り出した。
小湊鉄道の車両は昭和30~40年代に製造されたもので結構な車齢になっている。
ロングシートが埋まって少々立ち客が出ている。生活の匂いは全くしないのは多くの
乗客がカメラを手にしているからか。菜の花の頃、紅葉の頃はこんな感じのようだ。

 

ディーゼルカーは40kmに満たない路線を70分ほどかけて走る。かなりゆっくりな旅だ。
途中の里見を過ぎると勾配が徐々にきつくなって、幾つかのトンネルを潜って行く。
冒頭の写真、一面の菜の花畑が左手に広がると、まもなく養老渓谷駅に到着だ。

 

 養老渓谷の見所「粟又の滝」を見るため、駅前に待ち構えた路線バスに飛び乗る。
それにしても養老渓谷が温泉地とは知らなかった。バスは小規模な旅館街を抜けて行く。
遊歩道を降りていくと…「えっなんだぁこんなもの?」って云うのがこの滝の率直な印象。
緩やかな斜度の岩肌を水がちょろちょろとれて、これではキャニオニングもできない。
「粟又の滝」があまりにも拍子抜けで、散策はせずに折り返しのバスで駅に飛び乗る。

次の下り列車までは2時間空いている。でっ車窓で見た菜の花畑まで歩いてみる。
ちょうど上り列車がやってきた。眩しいばかりの菜の花とディーゼルカーを切り取る。

 

駅に戻ってあと1時間、これは飲んで潰すしかない。唯一軒の「あさひ屋」さんへ。
かなりの高齢の女主人が厨房には入らず、奥のテーブルに座って世話を焼く。
そのお祖母ちゃんにスーパードライの栓を抜いてもらって、まずグッと一杯呷る。
つきだしの "きゃらぶき" と "みぞおでん" で一杯。柚子がきいた味噌がとても美味い。
棚上のテレビで「NHKのど自慢」を眺めながら飲む、ゆったりとした日曜の午後。

名物は "元祖山菜そば"。何が元祖なのか判然としないけど、気持ちは分かります。
田舎の小母さんたちが丹精込めてつくった山菜そばを美味しくいただいた。

 2時間待ちに待った下り列車が入線してきた。終点の上総中野まではあとひと駅。
上り勾配に喘いだデーゼルカーは、2つめのトンネルを潜ると急に前のめりに走り出す。
どうやら分水嶺を超えたようだ。2両編成のデーゼルカーは上総中野に終着する。
段差のある、まるで小径のようなホームに降り立つ、ここにも菜の花が咲きそろう。
そして文字も半分掠れた駅名表示版。どこまでもレトロな小湊鉄道線の旅なのだ。

<40年前に街で流れたJ-POP>
春一番 / キャンディーズ 1976