旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

信州そばと浅間嶽とHIGH RAIL 1375と 小海線を完乗!

2023-09-16 | 呑み鉄放浪記

5番ホームに停車中のキハE200形はハイブリッド車両、停車時はアイドリングストップして静粛だ。
爽やかなスカイブルーのラインは、浅間山や千曲川それに八ヶ岳といった背景に映えるだろう。

かつて20往復の特急が停車した小諸駅も、今はしなの鉄道が運営するローカル駅。
それでも旧い駅舎には、小洒落たワインバーやカフェ、インフォメーションセンターができて
浅間山の登山口や信州観光の拠点としての面目を整えている。

小諸は城下町である。駅の裏手には小諸城址懐古園がある。
山本勘助が縄張りし仙石秀久が改修した小諸城は、千曲川の河岸段丘の断崖を天然の防御として利用した穴城、
城郭は城下町よりも低地に位置する格好となり、市街地から城内を見渡せる構造になっている。

三重の天守は寛永年間に落雷により焼失し、今では天守台の石垣だけが残っている。
小諸義塾の英語と国語の教師として赴任した島崎藤村は、小諸で「雲」「千曲川のスケッチ」を書いた。
その関係で城址には「千曲川旅情のうた」の詩碑が建てられている。

5番ホームに夏の観光列車 “HIGH RAIL 1375” が入ってきた。ワクワクの子どもたち。
ヘッドマークは、小海線の夜空と車窓に展開する八ヶ岳の山々をモチーフにして、
JR線標高最高地点「1375m」が描かれている。きょうは小海線で呑む。

っというか、すでにこの城下町で冷えた一杯をいただいているのだ。

小諸はまた前田家が滞在した北国街道の宿場町であり、本町エリアは今でもその面影を残している。
総欅造りの黒い漆喰仕上の土蔵「そば蔵 丁子庵」もそんな趣があるね。

ちょい冷えの “浅間嶽” はこの城下町の蔵で浅間山の伏流水で醸される。
さわやかな柑橘系?の酸味と甘みをほどよく合わせ持った純米吟醸が美味しい。
アテは漬物三点盛、信州育ちの呑み人にはこの “野沢菜” と “たくあん” が嬉しい。

純米吟醸を愉しむうちに “きのこおろしそば” が登場する。
たっぷりのきのこに辛み大根の汁、打ち立てのコシがあるそばを、ちょいと浸してズズッと啜る。
美味いなぁ。やはり信州を訪ねたら蕎麦に限るね。

沿線最大の町である佐久市の中心駅は中込駅、小諸と中込を結ぶ区間運転の列車も多い。
実際の乗降客は新幹線停車駅の佐久平駅はもちろん、岩村田駅の方が上回るらしい。
ちょっとだけ途中下車してみた。

明治8年(1875年)に完成した旧中込学校は、国内の学校建築のうち現存する最古級の擬洋風建築物。
松本の旧開智学校に遅れること2年、教育県と言われた信州人の教育に対する情熱がうかがえる。

“亀の海” の蔵元である土屋酒造店も中込にある。呑み人が好きな銘柄のひとつだ。
美山錦や佐久産米で醸した純米酒を仕込んだから、いずれ家呑みでご紹介したい。

HIGH RAIL 1375は、窓に向いたペアシートを出発1週間前に確保できた。窓は浅間山側に開けている。
早速カウンターで求めた “THE軽井沢ビール” は、華やかな香りと芳醇な味わいのピルスナーだ。

小諸から1時間50分、八ヶ岳の山々をモチーフにして小海の星空を散らした気動車は、
信濃川上で千曲川と別れ、ヘアピンを描いて転針すると、8kmの距離で250mの標高を稼いだ。

野辺山駅は標高1,345mに位置する。言わずと知れた日本で一番標高の高い駅だ。
八ヶ岳の峰々をシルエットに天の川が流れる駅名表示板が格好いい。

野辺山を発った気動車はJR鉄道最高地点(1,375m)をめざしてエンジンの唸りを上げる。
ペアシートからは、一面の高原野菜畑の向こう、カラマツ林の合間から巨大な白い構造物が覗く。
直径45m、国立天文台が世界一の精度を誇る宇宙電波望遠鏡、パラボラ・アンテナ群だ。

雄大な八ヶ岳の裾野を舐めるように、今度は小淵沢駅に向かって490mの標高差を下っていく。
右に傾く身体に急勾配を感じつつ、呑み人はと言うと “寒竹” の吟醸を舐める。
きりりとして爽やかなこの酒も、美山錦を醸した佐久は岩村田の酒だ。

HIGH RAIL 1375は、再びヘアピンを描くと、眩しかった西陽を今度は背に受ける格好になる。
築堤を下るほどに並走する中央本線の複線が浮かび上がって来るようだ。
小淵沢着16:57、八ヶ岳も富士も甲斐駒もすでにシルエットとなって、確実にやってくる秋を予感させるのだ。

小海線(八ヶ岳高原線) 小諸〜小淵沢 78.9km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
ガラスの林檎 / 松田聖子 1983