太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

千の風に・・・なりたくない人もいる

2013-03-12 20:27:48 | 日記
私が初めて、リーディングしてくれるセラピストに会った時のことだ。

当時、私は離婚したあとの恋愛に行き詰っており、

藁をもすがる思いでスピリチュアルな世界に踏み込んだのだった。

だからそのセラピストの元を訪れたのは、恋愛成就のためなのだが、のっけから思いもよらぬ展開になった。


「おじいちゃまがね、いらっしゃるんですよ」


10年ほど前に他界した祖父が、ここにいるのだという。

私の実家はささやかな自営業で、祖父が創始者で父が二代目。

私には男の兄弟がいないのだけれど、祖父は私に事業を継がせたいと思っているらしい。

私が離婚して実家に戻るのも、祖父はあの世で大喜びだったらしいのだ。


問題の恋愛相手が会社を継ぐかどうか以前に、

なにより私は会社を継ぐ気なんか、さらさらなかった。

従兄弟が既に入社していたし、私じゃなくたって会社はちゃんと続いてゆくのだ。



「亡くなったあとも、生きていたときの思いを持ち続ける人もいるんですね。
だから、生きている人に話すように話してあげればわかるんです」


「で、何を?」


「シロさんが、会社を継ぐ気はないこと、自分の幸せを大事にしたいこと、それらを
ただ正直に話せば、おじいちゃまもわかってくれますよ」


「でも、今ここにいるなら、もうわかってるんですよね?」


「・・そう・・なんだけど。
おじいちゃまって、厳格なかたでした?」


厳格かといわれればそうかもしれない。真面目で保守的で、心配性で神経質で融通がきかなくて、

人を笑わせようとかいったこととは無縁。祖父はそういう人だった。

そのまったく正反対が父で、

父が事業にかかわってからは、仕事のことで親子喧嘩が絶えなかった。

二人の共通点は、お洒落だということだけだ。



「おじいちゃまは、ここですべてを聞いて、もうわかってらっしゃるんですが、
ちゃんとお墓に来て話してほしいそうなんですよねー」



まったくいかにも祖父が言いそうなことだ。



昔、『千の風になって』という歌が大流行して、多くの人が共感して歌ったと思う。

♪私のお墓の前で泣かないでください、私はそこにいません♪

確かそんな歌詞があったように思うのだが、

しかし、祖父のように千の風になんかなってたまるか!という人もいるのだ。

話があるなら墓まで来い 、てなもんだ。



私は早速、その翌日、祖父の好きなお饅頭を買って、昼休みに祖父のお墓に行った。

なにしろ私の幸せがかかってるんだから、一刻の猶予もならん。




11月のおだやかな小春日和だった。

ところが、お線香に火をつけようとすると、いきなりブワーッと風が吹いて消えてしまう。

再びつけようとすると、また風が吹く。

まるで誰かが吹き消しているかのような・・・・って、祖父か???



「もー、おじいちゃん、お線香ぐらい付けさせてよ!」


何度目かでようやく火がついて、手を合わせた。



「昨日聞いててわかってると思うけど、こうしてちゃんと話しに来たからね。

おじいちゃんの気持ちはわかったけど、私は会社を継ぐ気はないんだよ、ごめんね。

今つきあっている人と結婚したいと思っていて、私は私の幸せを大事にしたいんだよ。

会社は○○ちゃん(従兄弟)がちゃんと継ぐから大丈夫なんだよ。よくやってるよ。」



ほう、そうかそうか、でもなけりゃなんでもない。

ただ、濡れた墓石が木漏れ日の下でじっと立っているだけ。

お線香の煙が、踊るように昇ってゆく。



「ねえ、わかったならわかったって知らせてくんない?」



人を笑わせることが大好きな父だったら、何かいたずらをしたかもしれないが、

なにしろ祖父だから、きっと言っても無駄だろう。


私はしばらくそこにいて、

「じゃあ、ちゃんと話したからね。昼休み終わっちゃうからもう行くよ。

期待にこたえられなくってごめんね」




と言って職場に戻った。



そうまでして成就させたかった恋愛だったが、それからきっかり半年後に

ばかみたいな理由で振られて終わった。

祖父はそれをどんなふうに思って眺めていたろうか。






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