私が初めて、リーディングしてくれるセラピストに会った時のことだ。
当時、私は離婚したあとの恋愛に行き詰っており、
藁をもすがる思いでスピリチュアルな世界に踏み込んだのだった。
だからそのセラピストの元を訪れたのは、恋愛成就のためなのだが、のっけから思いもよらぬ展開になった。
「おじいちゃまがね、いらっしゃるんですよ」
10年ほど前に他界した祖父が、ここにいるのだという。
私の実家はささやかな自営業で、祖父が創始者で父が二代目。
私には男の兄弟がいないのだけれど、祖父は私に事業を継がせたいと思っているらしい。
私が離婚して実家に戻るのも、祖父はあの世で大喜びだったらしいのだ。
問題の恋愛相手が会社を継ぐかどうか以前に、
なにより私は会社を継ぐ気なんか、さらさらなかった。
従兄弟が既に入社していたし、私じゃなくたって会社はちゃんと続いてゆくのだ。
「亡くなったあとも、生きていたときの思いを持ち続ける人もいるんですね。
だから、生きている人に話すように話してあげればわかるんです」
「で、何を?」
「シロさんが、会社を継ぐ気はないこと、自分の幸せを大事にしたいこと、それらを
ただ正直に話せば、おじいちゃまもわかってくれますよ」
「でも、今ここにいるなら、もうわかってるんですよね?」
「・・そう・・なんだけど。
おじいちゃまって、厳格なかたでした?」
厳格かといわれればそうかもしれない。真面目で保守的で、心配性で神経質で融通がきかなくて、
人を笑わせようとかいったこととは無縁。祖父はそういう人だった。
そのまったく正反対が父で、
父が事業にかかわってからは、仕事のことで親子喧嘩が絶えなかった。
二人の共通点は、お洒落だということだけだ。
「おじいちゃまは、ここですべてを聞いて、もうわかってらっしゃるんですが、
ちゃんとお墓に来て話してほしいそうなんですよねー」
まったくいかにも祖父が言いそうなことだ。
昔、『千の風になって』という歌が大流行して、多くの人が共感して歌ったと思う。
♪私のお墓の前で泣かないでください、私はそこにいません♪
確かそんな歌詞があったように思うのだが、
しかし、祖父のように千の風になんかなってたまるか!という人もいるのだ。
話があるなら墓まで来い 、てなもんだ。
私は早速、その翌日、祖父の好きなお饅頭を買って、昼休みに祖父のお墓に行った。
なにしろ私の幸せがかかってるんだから、一刻の猶予もならん。
11月のおだやかな小春日和だった。
ところが、お線香に火をつけようとすると、いきなりブワーッと風が吹いて消えてしまう。
再びつけようとすると、また風が吹く。
まるで誰かが吹き消しているかのような・・・・って、祖父か???
「もー、おじいちゃん、お線香ぐらい付けさせてよ!」
何度目かでようやく火がついて、手を合わせた。
「昨日聞いててわかってると思うけど、こうしてちゃんと話しに来たからね。
おじいちゃんの気持ちはわかったけど、私は会社を継ぐ気はないんだよ、ごめんね。
今つきあっている人と結婚したいと思っていて、私は私の幸せを大事にしたいんだよ。
会社は○○ちゃん(従兄弟)がちゃんと継ぐから大丈夫なんだよ。よくやってるよ。」
ほう、そうかそうか、でもなけりゃなんでもない。
ただ、濡れた墓石が木漏れ日の下でじっと立っているだけ。
お線香の煙が、踊るように昇ってゆく。
「ねえ、わかったならわかったって知らせてくんない?」
人を笑わせることが大好きな父だったら、何かいたずらをしたかもしれないが、
なにしろ祖父だから、きっと言っても無駄だろう。
私はしばらくそこにいて、
「じゃあ、ちゃんと話したからね。昼休み終わっちゃうからもう行くよ。
期待にこたえられなくってごめんね」
と言って職場に戻った。
そうまでして成就させたかった恋愛だったが、それからきっかり半年後に
ばかみたいな理由で振られて終わった。
祖父はそれをどんなふうに思って眺めていたろうか。
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当時、私は離婚したあとの恋愛に行き詰っており、
藁をもすがる思いでスピリチュアルな世界に踏み込んだのだった。
だからそのセラピストの元を訪れたのは、恋愛成就のためなのだが、のっけから思いもよらぬ展開になった。
「おじいちゃまがね、いらっしゃるんですよ」
10年ほど前に他界した祖父が、ここにいるのだという。
私の実家はささやかな自営業で、祖父が創始者で父が二代目。
私には男の兄弟がいないのだけれど、祖父は私に事業を継がせたいと思っているらしい。
私が離婚して実家に戻るのも、祖父はあの世で大喜びだったらしいのだ。
問題の恋愛相手が会社を継ぐかどうか以前に、
なにより私は会社を継ぐ気なんか、さらさらなかった。
従兄弟が既に入社していたし、私じゃなくたって会社はちゃんと続いてゆくのだ。
「亡くなったあとも、生きていたときの思いを持ち続ける人もいるんですね。
だから、生きている人に話すように話してあげればわかるんです」
「で、何を?」
「シロさんが、会社を継ぐ気はないこと、自分の幸せを大事にしたいこと、それらを
ただ正直に話せば、おじいちゃまもわかってくれますよ」
「でも、今ここにいるなら、もうわかってるんですよね?」
「・・そう・・なんだけど。
おじいちゃまって、厳格なかたでした?」
厳格かといわれればそうかもしれない。真面目で保守的で、心配性で神経質で融通がきかなくて、
人を笑わせようとかいったこととは無縁。祖父はそういう人だった。
そのまったく正反対が父で、
父が事業にかかわってからは、仕事のことで親子喧嘩が絶えなかった。
二人の共通点は、お洒落だということだけだ。
「おじいちゃまは、ここですべてを聞いて、もうわかってらっしゃるんですが、
ちゃんとお墓に来て話してほしいそうなんですよねー」
まったくいかにも祖父が言いそうなことだ。
昔、『千の風になって』という歌が大流行して、多くの人が共感して歌ったと思う。
♪私のお墓の前で泣かないでください、私はそこにいません♪
確かそんな歌詞があったように思うのだが、
しかし、祖父のように千の風になんかなってたまるか!という人もいるのだ。
話があるなら墓まで来い 、てなもんだ。
私は早速、その翌日、祖父の好きなお饅頭を買って、昼休みに祖父のお墓に行った。
なにしろ私の幸せがかかってるんだから、一刻の猶予もならん。
11月のおだやかな小春日和だった。
ところが、お線香に火をつけようとすると、いきなりブワーッと風が吹いて消えてしまう。
再びつけようとすると、また風が吹く。
まるで誰かが吹き消しているかのような・・・・って、祖父か???
「もー、おじいちゃん、お線香ぐらい付けさせてよ!」
何度目かでようやく火がついて、手を合わせた。
「昨日聞いててわかってると思うけど、こうしてちゃんと話しに来たからね。
おじいちゃんの気持ちはわかったけど、私は会社を継ぐ気はないんだよ、ごめんね。
今つきあっている人と結婚したいと思っていて、私は私の幸せを大事にしたいんだよ。
会社は○○ちゃん(従兄弟)がちゃんと継ぐから大丈夫なんだよ。よくやってるよ。」
ほう、そうかそうか、でもなけりゃなんでもない。
ただ、濡れた墓石が木漏れ日の下でじっと立っているだけ。
お線香の煙が、踊るように昇ってゆく。
「ねえ、わかったならわかったって知らせてくんない?」
人を笑わせることが大好きな父だったら、何かいたずらをしたかもしれないが、
なにしろ祖父だから、きっと言っても無駄だろう。
私はしばらくそこにいて、
「じゃあ、ちゃんと話したからね。昼休み終わっちゃうからもう行くよ。
期待にこたえられなくってごめんね」
と言って職場に戻った。
そうまでして成就させたかった恋愛だったが、それからきっかり半年後に
ばかみたいな理由で振られて終わった。
祖父はそれをどんなふうに思って眺めていたろうか。
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