子供の頃、お習字を習っていた。
週に1度、先生が家まで来てくれて、毛筆と硬筆と、
「くろんぼ」(放送禁止用語じゃなかった?)という名前の、固いクレヨンのようなペンで書くのもあった。
それは本体が全部黒い芯でできていて、プラスティックのケースに入っている芯を、押し出しながら使う。
先生の名前は「きよみちゃん」といった。
祖母も母も「きよみちゃん」と呼ぶので、私たち子供も、先生と呼ばすにそう呼んだ。
きよみちゃんは二十代前半だったと思う。
まっすぐな長い髪を額の真ん中で分けて、華奢なからだに切り替えのないワンピースがよく似合った。
女優の梶 芽衣子に雰囲気が似ていた。
きよみちゃんの指は細くて長く、爪は、いつも角をまあるく切ってあり、
そこに透明のマニキュアをつけていた。
その爪がとてもきれいで、私はきよみちゃんが朱で直してくれる字ではなく、
指ばかり眺めていた。
きよみちゃんは、『時計やさん』のおばさんの娘さんだということは知っていた。
『時計やさん』は家から1キロほどのところにあり、母と時々訪ねていったことがある。
ずっとあとになって、私が大人になってから、『時計やさん』は両親の仲人さんだということがわかったけれど、
もうそのときには時計やさんは店をたたみ、どこかに引っ越したあとだった。
爪を切るとき、時折きよみちゃんのことを思い出す。
角をまあるく切って、透明のマニキュアを塗るのが好きだ。
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週に1度、先生が家まで来てくれて、毛筆と硬筆と、
「くろんぼ」(放送禁止用語じゃなかった?)という名前の、固いクレヨンのようなペンで書くのもあった。
それは本体が全部黒い芯でできていて、プラスティックのケースに入っている芯を、押し出しながら使う。
先生の名前は「きよみちゃん」といった。
祖母も母も「きよみちゃん」と呼ぶので、私たち子供も、先生と呼ばすにそう呼んだ。
きよみちゃんは二十代前半だったと思う。
まっすぐな長い髪を額の真ん中で分けて、華奢なからだに切り替えのないワンピースがよく似合った。
女優の梶 芽衣子に雰囲気が似ていた。
きよみちゃんの指は細くて長く、爪は、いつも角をまあるく切ってあり、
そこに透明のマニキュアをつけていた。
その爪がとてもきれいで、私はきよみちゃんが朱で直してくれる字ではなく、
指ばかり眺めていた。
きよみちゃんは、『時計やさん』のおばさんの娘さんだということは知っていた。
『時計やさん』は家から1キロほどのところにあり、母と時々訪ねていったことがある。
ずっとあとになって、私が大人になってから、『時計やさん』は両親の仲人さんだということがわかったけれど、
もうそのときには時計やさんは店をたたみ、どこかに引っ越したあとだった。
爪を切るとき、時折きよみちゃんのことを思い出す。
角をまあるく切って、透明のマニキュアを塗るのが好きだ。
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