馬場あき子選
原発の推進策に思うのは牛舎の壁に書かれし遺言 石川県 瀧上裕幸
ふきのとう十三年ぶりの天ぷらは苦み懐かし春の味する 須賀川市 近内志津子
一首目、東日本大震災で、東北の酪農家がどれだけひどい目にあったか、自殺した人もいました。それがこの歌です。こんな状況で、いまだに完全に復興していないというのに、エネルギー危機だからと簡単に原発推進策に切り替えるなんて、この国はどうかしています。ドイツはすでに原発停止を果たしたのに。二首目、ふきのとうの天ぷら、いいですねえ。私はつい出来上った天ぷらを買ってしまうけれど・・。春を味わうのは、筍だけじゃないって。この歌は高野公彦氏も選んでいます。
佐佐木幸綱選
鴨帰る空見上げれば遠来の黄砂にかすむ山の輪郭 中津市 瀬口美子
死ぬまでは紙の新聞取りますよ新聞屋さんと約束をする 四日市市 園田信子
一首目、黄砂は九州でとてもひどかったそうですが、ここ東京でも飛んでいました。なんでも、金属の粉も混じっているそうで、花粉症以外でも金属アレルギーの人も苦しいそうです。私もそれに近いので、その日は化粧して皮膚を保護して出かけました。偏西風が蛇行するために、黄砂がこちらにも来るのでしょうか、地球温暖化は怖いですね。二首目、来月から新聞代が値上げです。それでもやっぱり紙の新聞を撮り続けたいのは私も一緒です。最近はじっくり読む暇がなくて、後で読もうと取っておいた新聞が山になってしまっています。それと新聞にはさまっているチラシも重要な情報源だし、さらに猫トイレには必須の材料です。だから私もやめられません。
高野公彦選
芸術は政府のものにあらざると文化勲章辞退せし人逝く 東京都 上田国博
四百のミサイル買ふという国に三十一文字(みそひともじ)で我らあらがふ 朝霞市 岩部博道
一首目、これは大江健三郎氏のことですね。今回は大江健三郎氏の追悼の歌が多かったです。私は彼の作品を読んだことはないのですが、その生きざまは尊敬します。二首目、本当にそうですね。反対する意志を表現しなくては。
永田和宏選
そんなものいったいどこで拾ったの捨てて来なさい正義だなんて 長崎市 牧野弘志
「あら貴女もう来ちゃったの」って尼さまに言われているかも杏子先生 福島県 安部みさ子
一首目、すごく気の利いた皮肉ですよね。今の政治家には正義も何もあったものじゃないですから。二首目は、黒田杏子さんの追悼歌。尼さんは瀬戸内寂聴さん。本当にその光景が目に浮かびます。