佐佐木幸綱選
原発は可能の限り低減と言ひしが今は増設を言ふ 前橋市 荻原葉月
東日本大震災の復興だって完全ではないのに、ロシアによるウクライナ戦争で世界中にエネルギー危機が起きたからと、原発再稼働をごりおししてさらに新しく作るというこの国は、頭いかれてるのかと思います。
高野公彦選
耳遠き老いの二人の新年は禅問答のごとく始まる 西之表市 島田紘一
鶏の声が耳から離れぬと処分を終えし男が泣けり 観音寺市 篠原俊則
ともに「耳」が入っている短歌です。一首目のなんともほのぼのした感じがいいですね。二首目、今年度はものすごく鳥インフルエンザがあちこちで起きていました。養鶏の関係者は本当につらい思いをしました。卵の値段もどんどん上がってきましたよね。なんでも渡り鳥が感染源だとか。大事にしている生き物が殺されるというのだけでも辛いのに、経済的な大打撃です。地球環境の悪化(地球温暖化ということでしょうか)とエネルギー問題で、養鶏も酪農も事業継続が大変になってしまいました。私は牛乳もチーズも好きなんだけどなあ。
永田和宏選
双葉町の帰還かなはぬ屋内に残る暦は前の卯の年 埼玉県 酒井忠正
薄着して説く勝ち組と着ぶくれて聞く負け組や節電の冬 中津市 瀬口美子
ひとりづつ処刑さるるを見る心地PK戦て何と酷なる 名古屋市 三好ゆふ
一首目、まだまだ帰れない人たちがいるのに、空き家には害獣が荒らしまわってそのままなのに・・・。今年2023年は、あれからちょうど12年、一回りしたんですね。こんな状態でまだ国は原発を増やすという、この横暴をどうして止められないのか。二首目、裕福な人がテレビで節電をPRしているのか、それとも高い電気料金を払えるから薄着なのか・・?私は壊れて電気がつかないこたつに湯たんぽを入れていますが、この湯たんぽもお湯を沸かすのに夜間化ティファールだから、ガスや電気を使うんです。いったいどうしたらいいのでしょうか。三首目、処刑かあ、たしかにつらい戦いです。こんなんで決着付けるなんて、本当に気の毒でしかないです。
馬場あき子選
だんだんに小さくなりゆくバゲットを抱きて帰るパリは雪空 フランス 佐久間尚子
ドローンを無人攻撃機に仕立て殺戮するを進歩と呼べり 浜松市 松井恵
一首目、本来はバゲットって、長さやクープ(切れ目)の数までしっかり決まっているものなのに、値上げしないかわりに大きさを変えるなんて、ちょっとひどい話です。二首目、ドローンを殺人兵器にするというのを許していいのでしょうか。ロボットに殺されるのも嫌だけど、ドローンに追いかけられて殺されるなんてぞっとします。これが科学の進歩の結果だというのなら、何のための科学なのかしら。