リアル過ぎる夢を見たのでお話しますね。
日本百名山の中でも難関中の難関、北海道の『幌尻岳(ぽろしりだけ)』はいくつかの登山道があるものの、どれもこれもかなり難しくて、一度で成功させるのはなかなか難しいと言われています。
兼ねてから計画していた通り、仕事終了と同時に駅まで走ります。当然登る前から汗だくです。
羽田発札幌新千歳行きの最終便に乗り込み、夜間の到着となります。そのままレンタカーを借りて(札幌は23時までの営業です)登山口に向かいます。2時間半走って国道をそれ、林道に入ってから約2時間のダートです。夜間の林道は相当気を使います。熊こそ出てこないものの、鹿や狐は普通にバンバン出てきます。
轢いてしまう例もあるので、神経を使います。こんなに長い林道は北海道ならではでしょうね。ここは北海道電力の作業道なので、入林許可がいります。といってもノートに入山日、目的、居住地を記入するだけです。
林道が嫌になってきたころ登山口に到着しました。
え?こんなに停まってるの?
北電のゲートがあるここで一般車は通行止めです。この時期のみ林道のゲートをここまで開けてくれるのです。他の登山道は何度も何度も沢を渡ったり、テントを担いで数日かけて登頂したり、ゲートの鍵を借りて入山したりといった具合で事故や遭難も相次いでいます。
僕が選んだコースは北電ゲートからさらに18km歩いてたどり着いたところが登山口という呆れた行程です。
でも、そこが達成率が高いと判断しました。普通は3日かけますが、僕は2日しか休みがありません。
林道の果てに避難小屋があります。そこで一泊して翌日の登山にそなえます。翌日登頂を果たし、再び避難小屋に戻ります。そして3日目に再び林道を18km歩いて下山するという一般的な行程を、初日に林道をクリアし、登頂して小屋に至るという過酷な計画です。
というか、僕にはそれしか道は無いのです。
長い林道を自転車を持ち込んで時間と体力を温存する方法もありますが、人間がやっと通れるゲートがさらに奥にあります。折りたたみ式の自転車のハンドルを外して押し込めばなんとかなるのですが、ここは何としても人力にこだわりたい。
実際に歩いてみると本当に長いです。狂いそうになりながらも精神力で乗り切ります。
一般的には5~6時間かかるといわれていますが、4時間でクリアしました。ただ、アブが凄いです。
止まると全身くまなくアブに覆われます。これはこれで未体験ゾーンです。
小屋にシュラフやマット、食料や水の一部をデポして再スタートです。
この疲労感…ここから標高差1200を登って降りれる自信がありません。4時間で林道をクリアしたので予定よりもアドバンテージがあります。ヨロヨロとでも登るしかないな…。
スタートします。
最初はなだらかな感じですが、藪が凄い。と思った直後、狭い壁面をトラバースする場所で中年のご夫婦がこちらに向かってきました。すれ違い困難なので待っていると、なんとご婦人の方が足首に包帯を巻いています。
『足を骨折したの』と。
ええっ?それは大変だ。ここは携帯の電波も全く入らないところで、救援困難な奥深いところです。
『山頂なら電波が入るかも知れないので、救援の連絡をしてください』
わかりました。健脚そうな方に伝え上を目指してもらったそうです。
さらに20分ほど登るとザックや手回り品が散らかっていました。ここが現場のようです。しかし、ご婦人も我慢してよくあそこまで歩いたものだ…。
山ではほんの一瞬でこんなことにもなるのですね。たしかにここは危険な滑りやすい登山道です。さらに沢に向かって傾斜が付いているのです。あと少しでクリア出来るところに泥のついた岩面がありました。ここで滑って落ちたんだな…。
下山してきた人に荷物を少しずつ回収して、小屋に届けてあげるように話します。何人にも伝えたので、なんとかなったと思います。
やがて山頂付近に近づくと、無事警察に連絡がついたという人が出てきました。やがてヘリコプターが旋回する音が聞こえてきました。
この日の天候は霧。ヘリもギリギリではないでょうか。
ご主人の必死な顔が忘れられません。足元が悪い中、できる限り背負ってきたと思われます。眼鏡が汗で真っ白に曇っていました。
僕も疲労が溜まっているので、慌てずに時間をかけて登ることにしました。林道の疲れがこんなに響くなんて…。這うように果たした登頂は霧にまみれて、視界が10m程度でした。
すぐに下山体制に入りますが、雨と霧による泥と滑りやすい岩に苦戦しました。さらにずっと急登です。ぜんぜんスピードが上がりません。何度となく折れそうになりました。折れても何とかなるものでもないので、気合いを入れて頑張ります。こんな山を日帰りする人もいますが、はっきり言って人間じゃないと思います。でも、この時ばかりは人間じゃなくてもいいから登山力が欲しいと思いました。
やっと、本当にやっと小屋に戻ると、下山してきたお母さんとお嬢さんがいました。女性だってこの山登るんだから、僕も弱音吐いちゃダメだな…。
すれ違ったとき『ゲートから来たの?スゴいわねー』と言っていただきましたが、僕をパスしていった2人組は日帰りを狙っているようです。
下山時に2人組のうちの1人を抜かして小屋にいると『このまま一気に下山します』と言って、小屋を後にしました。
時刻は16時でしたので、おそらくゲートに届くのは20時になると思います。マネは出来ませんがただ、残りは林道なのでさほど不安はないかもしれません。
この日の荷物を軽量化するために、調理器具を持たなかった僕はカップラーメンすら水で調理しました。水だって1時間も置けば食べられるようになるのです。たった何食かの我慢です。そんなことは何とも思いませんでした。
が、僕のシュラフをセットしたのが先ほどの母娘の方々のお隣で、なんとバーナーを貸してくれました。大好きなコーヒーすらもペットボトルの水でシャカシャカ振って飲もうと思っていたので、相当嬉しかったです。
『どうせガスが余っても飛行機に乗せられないんだから、好きに使ってー』と。
あ、ありがとうございます。
北海道の山は水がエキノコックスという病原体が含まれている可能性があるので、煮沸の必要があります。(となりにいたおじさんは普通に沢水をそのまま飲んだといっていました。発症までに8年かかるから、もういいんだと…)
水もすべて担がないとならないので5リットル担いできましたが、これでもギリギリだと感じていたところでした。
やったー!沢水を煮沸してコーヒー2杯分飲むぞー。
結局、翌朝も借りてしまいました。本当に本当にありがとうございました。
翌朝一番で下山しました。
やっぱり4時間近くかかりました。下るというよりもアップダウンをこなす感じでした。
下山中、アブの攻撃を避けるために上は下着にカッパ、下は長ズボン、手にはグローブ、顔はネットという完全防備にしました。
当然暑いです。でもアブが身体中に張り付くことを考えれば我慢できます。背中からカッパを伝って汗がお尻の方に流れてきます。ズボンもビショビショです。
少しでも乾かそうと、ズボンを脱いで林道の運転はパンツ一丁でやってやりました。
こんな感じで長い長い夢は終わりました。まるで夢とは思えないようなリアルさでした。(笑)
日本百名山の中でも難関中の難関、北海道の『幌尻岳(ぽろしりだけ)』はいくつかの登山道があるものの、どれもこれもかなり難しくて、一度で成功させるのはなかなか難しいと言われています。
兼ねてから計画していた通り、仕事終了と同時に駅まで走ります。当然登る前から汗だくです。
羽田発札幌新千歳行きの最終便に乗り込み、夜間の到着となります。そのままレンタカーを借りて(札幌は23時までの営業です)登山口に向かいます。2時間半走って国道をそれ、林道に入ってから約2時間のダートです。夜間の林道は相当気を使います。熊こそ出てこないものの、鹿や狐は普通にバンバン出てきます。
轢いてしまう例もあるので、神経を使います。こんなに長い林道は北海道ならではでしょうね。ここは北海道電力の作業道なので、入林許可がいります。といってもノートに入山日、目的、居住地を記入するだけです。
林道が嫌になってきたころ登山口に到着しました。
え?こんなに停まってるの?
北電のゲートがあるここで一般車は通行止めです。この時期のみ林道のゲートをここまで開けてくれるのです。他の登山道は何度も何度も沢を渡ったり、テントを担いで数日かけて登頂したり、ゲートの鍵を借りて入山したりといった具合で事故や遭難も相次いでいます。
僕が選んだコースは北電ゲートからさらに18km歩いてたどり着いたところが登山口という呆れた行程です。
でも、そこが達成率が高いと判断しました。普通は3日かけますが、僕は2日しか休みがありません。
林道の果てに避難小屋があります。そこで一泊して翌日の登山にそなえます。翌日登頂を果たし、再び避難小屋に戻ります。そして3日目に再び林道を18km歩いて下山するという一般的な行程を、初日に林道をクリアし、登頂して小屋に至るという過酷な計画です。
というか、僕にはそれしか道は無いのです。
長い林道を自転車を持ち込んで時間と体力を温存する方法もありますが、人間がやっと通れるゲートがさらに奥にあります。折りたたみ式の自転車のハンドルを外して押し込めばなんとかなるのですが、ここは何としても人力にこだわりたい。
実際に歩いてみると本当に長いです。狂いそうになりながらも精神力で乗り切ります。
一般的には5~6時間かかるといわれていますが、4時間でクリアしました。ただ、アブが凄いです。
止まると全身くまなくアブに覆われます。これはこれで未体験ゾーンです。
小屋にシュラフやマット、食料や水の一部をデポして再スタートです。
この疲労感…ここから標高差1200を登って降りれる自信がありません。4時間で林道をクリアしたので予定よりもアドバンテージがあります。ヨロヨロとでも登るしかないな…。
スタートします。
最初はなだらかな感じですが、藪が凄い。と思った直後、狭い壁面をトラバースする場所で中年のご夫婦がこちらに向かってきました。すれ違い困難なので待っていると、なんとご婦人の方が足首に包帯を巻いています。
『足を骨折したの』と。
ええっ?それは大変だ。ここは携帯の電波も全く入らないところで、救援困難な奥深いところです。
『山頂なら電波が入るかも知れないので、救援の連絡をしてください』
わかりました。健脚そうな方に伝え上を目指してもらったそうです。
さらに20分ほど登るとザックや手回り品が散らかっていました。ここが現場のようです。しかし、ご婦人も我慢してよくあそこまで歩いたものだ…。
山ではほんの一瞬でこんなことにもなるのですね。たしかにここは危険な滑りやすい登山道です。さらに沢に向かって傾斜が付いているのです。あと少しでクリア出来るところに泥のついた岩面がありました。ここで滑って落ちたんだな…。
下山してきた人に荷物を少しずつ回収して、小屋に届けてあげるように話します。何人にも伝えたので、なんとかなったと思います。
やがて山頂付近に近づくと、無事警察に連絡がついたという人が出てきました。やがてヘリコプターが旋回する音が聞こえてきました。
この日の天候は霧。ヘリもギリギリではないでょうか。
ご主人の必死な顔が忘れられません。足元が悪い中、できる限り背負ってきたと思われます。眼鏡が汗で真っ白に曇っていました。
僕も疲労が溜まっているので、慌てずに時間をかけて登ることにしました。林道の疲れがこんなに響くなんて…。這うように果たした登頂は霧にまみれて、視界が10m程度でした。
すぐに下山体制に入りますが、雨と霧による泥と滑りやすい岩に苦戦しました。さらにずっと急登です。ぜんぜんスピードが上がりません。何度となく折れそうになりました。折れても何とかなるものでもないので、気合いを入れて頑張ります。こんな山を日帰りする人もいますが、はっきり言って人間じゃないと思います。でも、この時ばかりは人間じゃなくてもいいから登山力が欲しいと思いました。
やっと、本当にやっと小屋に戻ると、下山してきたお母さんとお嬢さんがいました。女性だってこの山登るんだから、僕も弱音吐いちゃダメだな…。
すれ違ったとき『ゲートから来たの?スゴいわねー』と言っていただきましたが、僕をパスしていった2人組は日帰りを狙っているようです。
下山時に2人組のうちの1人を抜かして小屋にいると『このまま一気に下山します』と言って、小屋を後にしました。
時刻は16時でしたので、おそらくゲートに届くのは20時になると思います。マネは出来ませんがただ、残りは林道なのでさほど不安はないかもしれません。
この日の荷物を軽量化するために、調理器具を持たなかった僕はカップラーメンすら水で調理しました。水だって1時間も置けば食べられるようになるのです。たった何食かの我慢です。そんなことは何とも思いませんでした。
が、僕のシュラフをセットしたのが先ほどの母娘の方々のお隣で、なんとバーナーを貸してくれました。大好きなコーヒーすらもペットボトルの水でシャカシャカ振って飲もうと思っていたので、相当嬉しかったです。
『どうせガスが余っても飛行機に乗せられないんだから、好きに使ってー』と。
あ、ありがとうございます。
北海道の山は水がエキノコックスという病原体が含まれている可能性があるので、煮沸の必要があります。(となりにいたおじさんは普通に沢水をそのまま飲んだといっていました。発症までに8年かかるから、もういいんだと…)
水もすべて担がないとならないので5リットル担いできましたが、これでもギリギリだと感じていたところでした。
やったー!沢水を煮沸してコーヒー2杯分飲むぞー。
結局、翌朝も借りてしまいました。本当に本当にありがとうございました。
翌朝一番で下山しました。
やっぱり4時間近くかかりました。下るというよりもアップダウンをこなす感じでした。
下山中、アブの攻撃を避けるために上は下着にカッパ、下は長ズボン、手にはグローブ、顔はネットという完全防備にしました。
当然暑いです。でもアブが身体中に張り付くことを考えれば我慢できます。背中からカッパを伝って汗がお尻の方に流れてきます。ズボンもビショビショです。
少しでも乾かそうと、ズボンを脱いで林道の運転はパンツ一丁でやってやりました。
こんな感じで長い長い夢は終わりました。まるで夢とは思えないようなリアルさでした。(笑)