原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

子ども中心生活など直ぐに過ぎ去るものよ

2012年10月27日 | 自己実現
 冒頭から私事で恐縮だが、晩婚高齢出産にてこの世に生まれ出た我が子が来月19歳の誕生日を迎える。
 現役推薦合格ゲットによりこの春大学生になり現在1年次後期授業に入っている娘は、既に専門分野の初歩段階資格検定試験にも一発合格し、順調な学生生活を送っている。
 学業のみならず、日々トータルコーディネートにこだわり精一杯のお洒落をして出かける姿を見るにつけ、よくぞここまで成長を遂げたものと親として感慨無量の境地である。

 お陰で我が子出生直後より開始した「お抱え家庭教師」家業も一つの大きな山を越した実感が大きく、定年退職後“濡れ落ち葉”状態の身内 (我が亭主の場合飯“メシ”を食卓の上に出して置きさえすれば、後は私の自主性を尊重してくれるため比較的扱い易いのだが) を除いて、私らしい生き方が徐々に取り戻せそうな感覚がある今日この頃だ。


 このような記事を綴ろうと思ったきっかけは、少し古くなるが朝日新聞10月13日付「悩みのるつぼ」のスクラップを見直した事による。

 当エッセイ集に於いて久々の「悩みのるつぼ」の登場であるが、早速41歳会社員女性による『私が送りたかった人生なのか』と題する相談内容を以下に要約して紹介しよう。
 現在41歳の会社員、幼児1人の母だが、最近私はこんな人生を送りたかったのかという後悔に似た気持ちがある。 37歳で出産以来、自分の思い通りに行かないと強く感じている。 それまではやりたいようにやれたし、いざやる気になれば何でもできると思っていた。 しかし子ども中心の生活に変わり、自分のやりたいことを我慢し仕事も短縮している状態だ。これが子ども18歳まで続くのかと思うと、本当に自分が送りたかった人生なのかと思ってしまう。 私は西洋文化圏の国で生活基盤を作り世界を感じながら働きたかったし、欧米圏で3年弱大学生・大学院生だった時は生き生きと生活していた。 でも、節目で安易な方へ流れてしまった。 自分の夢に近づくため何かした方がいいのか、でも守るものが増えて思い切った行動が出来ず行き詰まりを感じている。 若い娘の悩みのようで恥ずかしいが、信念を持って人生を生きている上野先生にご助言をお願いしたい。


 相談者ご指名の社会学者・上野千鶴子先生が素晴らしい回答を述べておられるのだが、それは後回しにさせていただいて、ここで原左都子の感想及び私論を先に記させていただこう。

 高齢出産で子どもを産んだ事に関して、どうやら相談者と私との共通項がありそうだ。
 ところが私が19年程前に高齢出産した頃とは異なり、現在は女性の高齢出産者人口が急激に上昇している時代背景ではなかろうか。 おそらく相談者の周囲にも同様の母子が少なからず存在するであろうし、社会的にもそれを容認して支援する体制が整いつつあるのではないかと私は推測する。
 相談者と同様の悩みを持つ母親達はもはや例外的ではなく、その悩みに関して情報交換可能な場も数多いのではなかろうかとも考える。

 相談内容で気に掛かる第一点は、「37歳出産前にはやりたいことがやれたし、いざやる気になれば何でもできると思った」、との記述がある点だ。
 それならば、何故37年間のうちにそれを実行しなかったのか、と私は問いたい。
 いやいや、この相談者の場合結婚は早かったのかもしれない。 そうした場合、同居している配偶者の影響力も受けるであろうから、相談者個人の行動に制約があって当然だろう。
 私の場合はそれを考慮し、結婚などよりも自分の野望を第一に叶えたいからこそ主体的に独身を貫いたのだが、この点において相談者とは生活基盤が根本的に異なっているのかもしれない。

 もう一点気になる事(と言うよりも、これは原左都子にとっては羨ましい事象であるが)とは、この相談者が産んだ子どもさんは相談内容から計算するに現在4歳のはずだ。 おそらく何らの障壁もなく無事に成長されているのであろう。
 出産時のトラブルにより多少の事情を持って産まれ出た我が子が4歳の時など、我が「お抱え家庭教師」家業最悪期だったものだ。 さしあたって娘を無事に小学校へ入学させるべく日々病院通い、研究所通い、教育相談、娘の成長にプラスになるであろう習い事通い等々…… 東奔西走していた頃だ。 自分の夢へったくれなどに思いが行く余裕もなかった時代である。
 それでも私はその合間に自分が過去に培った医学専門力を活かそうとも考え、娘が幼稚園及び小学校低学年の頃、娘の帰宅時間まで某独立行政法人研究所(いわゆる“理研”だが)で医学基礎研究のアルバイトをしたりの試行錯誤もした。 ところが娘が学校で幾度もいじめに遭えば、それに対処するのが母親としての最優先課題であろう。 何をさて置いても娘を守る行動に出た結果、我が家は転居までして私は職を退いたものだ。 
 娘が立派に成長を遂げてくれつつある現在に至っては、実に懐かしい思い出として語れるのだが…

 さらにもう一点相談者の軟弱点を指摘するならば、この方、今に至って尚何故西洋文化圏で生活したいのかの確固としたポリシーが相談内容から感じ取れないのだ。
 欧米圏で3年弱大学及び大学院に通ったと言うが、その短期間で何を修得したのであろう?  それはともかく、そこで生き生きできたとの実感が得られたのならばそのままその地で(相談者が言うところの)“節目”を迎えて現地の男性と共同生活に入ってもよかったのではあるまいか? その種の行動こそが、相談女性が描く夢と理想に一番近かったのではなかろうか、などと私は推測するのだが…

 結局、この女性が今回「悩みのるつぼ」に相談を投稿したのは、数年前よりこの相談コーナー特有の“自分の社会的優位性を認めて欲しい”との切実な心理状態に他ならないのではあるまいか???
 こんな現代人が抱えている“歪んだ欲求不満”に答を出さねばならない回答者氏の苦悩を慮ったりもする。


 最後に今回の回答者であられる(原左都子も30年程前からファンである)社会学者・上野千鶴子氏の回答を端折って紹介しよう。

 困りましたね。アラフォーでこんなに「夢見る夢子ちゃん」状態では。 今の生活がイヤだからリセットしたいだけとしか聞こえません。 今現在の結婚生活もあなたの「夢」じゃなかったんですか? 大丈夫です。こんなにワリの合わない気分がするのは子どもが小さいころだけ。 「子ども中心の生活」なんてすぐに終わります。 あなたは子どもをひっかかえて海外生活することも可能だったはずなのに、いったいあなたは外国で何をしたいんですか? 学生生活ならお客様で済みますが、そこで暮らしを立てるなら死にものぐるいのはずです。 結局あなたの言う外国とは「ここではない場所」を意味しているんでしょう。 年齢をとって子どもを産む良い点とは、キャリアや気持ちの上で余裕が持て子育てを楽しめる事です。 せっかく持てたチャンスを楽しまなくちゃソンじゃありませんか。 (以下略)

 上野千鶴子氏のご回答に同意申し上げる事が出来るべく、現在我が子が順調に成長してくれている事を実にうれしく思う私だ。