◎明治20年代末の稲の種類(付・北海道の「チンコ坊主」)
一昨日、昨日に続き、下山作太郎『農業蚕業 帝国農民術要』(一九九八)から、明治二〇年代末における稲の種類を紹介する。本日は、その最終。
なお、昨日のコラムに訂正すべきところがありました。昨日、「静岡県における稲の品種が三種で、滋賀県におけるそれが一〇三種ということは、おそらくありえない。調査に精粗があったということであろう」と書きましたが、これは、著者の調査に精粗があったのではないのです。著者は、第四回「内国勧業博覧会」(京都府、一八九五)に出品された稲の品種のうち、「良種」として、受賞の対象となったものを、そのままリストアップしていたのです(テキストの読みが浅かったことを反省します)。静岡県が三種のみで、滋賀県が一〇三種もあることについては、静岡県の関係者が、この博覧会に対して消極的で、逆に、滋賀県の関係者が、この博覧会に対して積極的だったなどの理由を考えるべきでした。お詫びして訂正します。
●福井 反故、薄皮、雄町、白玉、金茶、吉平、石原錦、加賀、美濃、石白、妙見、今長者、〔12種〕
●富山 成瀬見出、国富、白石、千筋、毛前沢、西京、毛早高、鍋島、郡益、関取、南保白、白毛、〔12種〕
●鳥取 福山、改福、玉結、湿沢、玉都、〔5種〕
●島根 郡益、新四国、境切、真森、錦、福神、白玉、大和、大社、川品、奈良原、坂田、〔12種〕
●岡山 雄町、日吉、肥後、寿、美保穂、新撰、天狗、福山、荒蔵、白玉、富国、郡勝リ、亜垂、房吉、〔14種〕
●広島 小町穂、備前場、雄町、俵山、丸上、白玉撰、柳、白玉、力助、都、弘法切レ善、八反、日本一、備前坊、穂長、威儀、鬚穂、拾ヒ穂、三蔵、白藤、山伏、〔21種〕
●和歌山 大黒、高砂、上田、山城、九俵坊、瑞穂、白玉、〔7種〕
●山口 都、清玉、玉栄、撰豊穂、稲荷、房吉、新玉、振国、九上三造、白藤、山代、二桂、四国、名取坊主、白玉、新筑摩、砂鉢、神鈴、〔18種〕
●徳島 一本撰出、兵庫神力、撰金、白藤、阿波穂、穂増、四国、都、徳島、〔9種〕
●香川 土佐撰、目利、撰出、神力、阿波、尾張撰、小神力、大黒、白玉、神谷撰、日本撰、房撰、伊予撰、改良、雄町、瑞穂撰、蛭子、〔17種〕
●愛媛 栄吾、稲荷、神力、三宝、宇和島、山中、榎、簾込、赤早種、山城、隈撰、稔早稲、〔12種〕
●高知 王子千本、白中、小白坊主、大路、白穂、川場早種、白坊主、二意、〔8種〕
●福岡 御成所坊主、白玉、八ツ倉、万作坊主、若宮、小町、長者坊主、豊前坊主、富国、神力、三国、肥後坊主、勧業坊主、大和、今長者、原坊主、森田、小富士、白一本、〔19種〕
●熊本 穂増、白竹、三徳、神力、白藤、満願寺、国王、京都早種、御前坊主、難波早種、白玉、大坂早種、〔12種〕
●大分 戦争坊主、白玉、むら、金井種、白鳥、神力、白撰種、今富、大坂早種、〔9種〕
●佐賀 日本、豊年坊、米の山、白玉、八ツ倉坊主、奥州坊主、〔6種〕
●宮崎 三徳、肥後坊主、白玉、神力、八万石、江戸稲、天品、〔7種〕
●鹿児島 石割、白玉、関取、八ツ倉、金華山、神力、白藤、新堀、大坂早種、小関国王、金徳、穂増、京都坊主、〔13種〕
●北海道 赤毛、近成、白毛、白坊主、〔4種〕
以上で、明治二〇年代末における稲の種類の紹介を終わる。
なお、広辞苑(第五版)で「坊主」を引くと、八番目の意味として、「稲の在来品種。北海道の初期稲作の拡張に貢献」とある。この説明には問題がある。「〇〇坊主」という品種名は、いくらでもあるが、「坊主」という品種名はない。「坊主」は、ノギ(禾)が無いか、少ない品種であることを示す一般的な言葉である。広辞苑の説明は、誤りであり、訂正する必要がある。
これと関連して、北海道に、かつて、「チンコ坊主」という稲の品種が存在したということが、話題になったことがある。今でも、インターネットで、「チンコ坊主」を検索すれば、関連の記事に接することができる。しかし、この「チンコ坊主」を、北海道の品種と捉えるのは疑問である。北海道の米作が発展したのは、明治以降であって、他県の品種が移入され、環境に適合したものが残ったと考えられる。
ここからは推測になるが、北海道の「チンコ坊主」は、新潟県あるいは長野県から導入された「珍子」の異名で、たまたまこの品種が「坊主」(ノギが少ない)という特徴を持っていたことが、異名の由来であろう。なお、新潟県あるいは長野県において、「珍子」が何と呼ばれていたかは不明だが、少なくとも、「チンコ」ではなかったのではないだろうか。
今日のクイズ 2013・4・1
◎平安時代の皇女「珍子内親王」の読みで正しいのはどれでしょうか。
1 うずこ内親王 2 ちんし内親王 3 よしこ内親王
【昨日のクイズの正解】 3 ノギ(禾)の形状から。ノギがないか、もしくは少ない。■白毛、赤毛、毛強、半坊主、毛前沢、毛早高、鬚穂などの品種名は、いずれも、ノギの形状に由来するものであり、明治初期の稲は、ノギが多いものが主流だったことを反映している。ノギが多いものが主流だったからこそ、ノギの少ない品種が「坊主」と呼ばれ、珍重されたのではないだろうか。
今日の名言 2013・4・1
◎今後のご健闘をお祈り申し上げます
企業が就活生に不採用を知らせるメールには、必ずこの言葉がある。したがって、不採用メールを俗に、「お祈りメール」と呼ぶという。こんなメールばかりもらって、心を病む就活生もいるらしい。本日の日本経済新聞「学ぶ 磨く 育てる」欄より。