礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

シュタインの「日本人ハ東洋開明ノ義兵」発言

2013-04-19 18:20:01 | 日記

◎シュタインの「日本人ハ東洋開明ノ義兵」発言

 明治時代に出た『須多因氏講義筆記』(牧野善兵衛、初版一八八九年七月)は、オーストリアの国家学者ローレンツ・フォン・シュタインが、海江田信義や丸山作楽に対しておこなった講義を記録したものである。
 その五一三ページに、次のような一節がある。

 東方亜細亜〈あじあ〉ノ為ニ旗ヲ挙ケテ〈あげて〉宇内〈うだい〉ノ大勢ニ応セントスル者ハ、日本人ヲ措キテ誰レカアラン、日本人ハ東洋開明ノ義兵ナリ、諸君夫レ〈それ〉勉メヨヤ、此ノ功ニシテ一タヒ〈ひとたび〉成ラハ、東半球ハ日本ノ麾下〈きか〉ニ属シ、朝鮮支那以下ノ諸国モ、日本ヲ以テ新様文化ノ本源トセン、

 この言葉は、よく知られており、またよく引用される。例えば、瀧井一博氏の『ドイツ国家学と明治国制』(ミネルヴァ書房、一九九九)の二三八ページにも、上記部分の引用がある。
 瀧井一博氏は、シュタインのこの言葉を引用したあと、「シュタインの言説のなかには、日本の近代化の卓越性のみならず、その危うさもはらまれていたのである」とコメントしている。瀧井氏のいう「その危うさ」とは、このシュタインの言説が、その後、日本の国家主義者によって、意図的に引用されたことを指しているようである。
 もちろん、この指摘は重要なのだが、その前に確認しておくべきことがふたつほどある。
 それは第一に、シュタインの講義を聴いていた海江田信義や丸山作楽が、どういう思想性の持ち主だったかということである。シュタインは、聴く相手によって主張を変える、つまり、聴き手が喜びそうなことを言う傾向があったという。だからこそ、海江田や丸山やどういう人物だったかを、確認していく必要があるのである。
 第二に、シュタインは、どういう脈絡で、この発言をしているかを確認する必要がある。引用した一節の前には、実は、「夫レ然リ、早ク此ノ点ニ着眼シ、」という一五文字がある。ここが実は重要なのである。すなわち、シュタインが、何を以て「此ノ点」としているかを理解しておかないと、シュタインの真意を捉え損なう恐れがあるのである。【この話、続く】

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