◎「宇内ノ大勢」とは、欧米列強を中心とした世界秩序のこと
要するに、シュタインは、日本が世界の国々と交通し、世界の大勢に応ずるならば、東洋において、指導的な地位につけると言っているのである。
「日本人ハ東洋開明ノ義兵ナリ」という言葉だけを見ると、いかにも、シュタインが日本のアジア支配を容認しているかに読めるが、あくまでもこれは、日本が「東洋開明」=東洋の文明化の上で果たしうる役割についての話なのである。
なお、「世界の大勢」(宇内ノ大勢)とは、言うまでもなく、欧米諸国を中心とした世界秩序のことである。すなわち、日本は、欧米諸国を中心とした世界秩序に従う限りにおいて、「東洋開明ノ義兵」になりうるとしているところに注意したい。
朝鮮や支那は、「其伝来ノ文物ノミヲ尊テ〈たっとんで〉、他ヲ知ラン事ヲ欲セサル」保守的な姿勢を改めなかったがために、「世界の大勢」から取り残された。一方、日本は、「眼界ヲ広ウシ、進退ヲ人世ノ全局ニ計ラントスル」改新的な姿勢をとることができたがために、「世界の大勢」に加わることができた。
シュタインが、日本について、そのような評価をおこなってから半世紀のちの一九三〇年代、日本は、「其伝来ノ文物ノミヲ尊テ、他ヲ知ラン事ヲ欲セサル」民族至上主義に立ち、東洋の盟主となることを目指して、欧米列強を敵に回す路線に急旋回していった。さすがのシュタインも、こうした事態は予想していなかったのではないだろうか。