礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

今や帝国は隆替の岐路に立つている(東条英機)

2013-04-16 10:41:43 | 日記

◎今や帝国は隆替の岐路に立つている(東条英機)

 昨日の続きである。中川善之助・宮沢俊義『法律史』(東洋経済新報社出版部、一九四四)の付録にある文章を紹介する。
 昨日は、一面の冒頭にあった文章を紹介したが、本日は二面から。

◇南溟の前進基地マーシヤルの玉砕後敵アメリカはその大機動部隊の物量を恃み〈タノミ〉、南方地防衛の前衛基地たるトラツク、マリアナ諸島を連襲して来た。この相次ぐ侵攻に対しては敵アメリカの「日本に時を藉すな〈カスナ〉」の焦躁強引の戦略は軽視出来ぬものがある。
◇国内強化に於て、東条首相はこの事実を正視して「今や帝国は文字通り隆替の岐路に立つてゐるのである」と言明せられ愈々〈イヨイヨ〉以つて統帥と国務のより一層の緊密化をはかるべき大東亜戦必勝の要諦を吐露した。洵に〈マコトニ〉皇国隆替の秋〈トキ〉と云ふべきである。決戦段階に突入した今日対戦寄与に我々は倍旧の努力をいたすべきだ。
◇翻つて一億国民は此の秋にあたつて決戦体制に急進撃し勤務、防空の鉄壁態勢に突入すると共に、国民生活を徹底的に簡素化し、あらゆる困苦欠乏に耐へ、疎開への国家的積極性に協力して、迅速果敢なる被害の防止に努むべきである。
◇不合理な配給機構に於て特に末端配給機構の隘路〈アイロ〉に対し今や抜本塞源〈バッポンソクゲン〉的改革断行の秋であり、更に従来の「横流れ」や「闇」の現象を撲滅し流通面の円滑なる運営実践こそ急務にして、これが為に、都民「買出し部隊」への断も寧ろ遅きに失する憾みあり、爾後一層の協力を要望すべきである。
◇「世相史」刊行後日本出版文化協会が発展的解消して日本出版会と云ふ強力統制団体の誕生をみ、此の間出版の企業整備の大捲風〈ダイケンプウ〉の真只中〈マッタダナカ〉に、各社は太平洋の孤児にも等しい苦難の道を送つた。全国一千七百の出版社は揉みに揉んで百七十の世話人を中核として統廃併合の紆余曲折を経て遂に一段落し、再度の出発に華々しく邁進せんとしてゐる。幣社は此の名誉ある地位を確得し、この順風帆をあげた前途洋々たる大洋に、米英撃滅の旗印の下に乗出した。

 これも署名は「編輯子」である。戦争末期の矛盾や混乱をよく示す史料と言えるだろう。それにしても、これほど悲壮感が漂っている文章も珍しい。

今日の名言 2013・4・16

◎今や帝国は文字通り隆替の岐路に立つてゐるのである

 戦争末期における東条英機首相の言葉。東洋経済新報社出版部の「編輯子」が、中川善之助・宮沢俊義『法律史』(東洋経済新報社出版部、1944)の付録の中で、引いている。隆替は、〈リュウタイ〉と読み、盛衰と同義である。ところで当時の東条は、帝国が隆替の岐路に立つような事態を招いたのは、ほかならぬ自分であるという自覚を持っていたのだろうか。

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