礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

工場就業時間制限令(1939)

2015-01-15 07:40:09 | コラムと名言

◎工場就業時間制限令(1939)

 今月一二日のコラムでは、法政大学大原社会問題研究所編著『太平洋戦争下の労働者状態』(「日本労働年鑑」特集版、東洋経済新報社、一九六四)の第三編第三章第四節を引きながら、昭和一〇年代における長時間労働の実態の一端を紹介した。
 その日に引用した文章は、一九三九年(昭和一四)三月に公布され、同年五月から実施された「工場就業時間制限令」に言及していた。本日は、この法令の全文を紹介してみよう(原文はカタカナ文だが、これをひらがな文に直してある)。

 工場就業時間制限令(昭和十四年三月三十日勅令第百二十七号)

第一条 国家総動員法第六条の規定に基く工場に於ける就業時間の制限は本令の定むる所に依る

第二条 本令は工場法の適用を受くる工場にして厚生大臣の指定する事業を営むものに之を適用す

第三条 工業主は十六歳以上の男子職工をして一日に付十二時間を超えて就業せしむることを得ず

第四条 工業主は十六歳以上の男子職工に対し毎月少くとも二回の休日を設け一日の就業時間が六時間を超ゆるときは少くとも三十分、十時間を超ゆるときは少くとも一時間の休憩時間を就業中に於て設くべし

第五条 十六歳以上の男子職工を二組以上に分ち交替に就業せしむる為又は表務の性質上特に必要ある場合に於ては命令の定むる所に依り工業主は予め地方長官(東京府に在りては警視総監以下之に同じ)に届出で第三条の就業時間を延長することを得

第六条 已むを得ざる事由に因り臨時必要ある場合に於ては工業主は地方長官の許可を受け期間を限り第三条の規定に拘らず就業時間を延長し又は第四条の休日を廃することを得、但し命令を以て定むる場合に於ては地方長官の許可を受くることを要せず
臨時必要ある場合に於ては工業主は其の都度予め地方長官に届出で一月に付七日を超えざる期間就業時間を二時間以内延長することを得
第一条但書の規定に依り就業せしめたるときは遅滞なく地方長官に届出づべし

第七条 厚生大臣又は地方長官必要ありと認むるときは就業時間の制限に関し国家総動員法第三十一条の規定に基き工業主より報告を徴し又は当該官吏をして工場、事務所其他の場所に臨検し帳簿書類を検査せしむることを得、前項の規定に依り当該官吏をして臨検検査せしむる場合に於ては其の身分を示す証票を携帯せしむべし

第八条 本令は国の事業に之を適用せず

第九条 本令中工場法の適用を受くる工場とあるは朝鮮、台湾又は南洋群島に在りては当時十人以上の職工を使用する工場、樺太に在りては工場取締規則の適用を受くる工場とし十六歳以上の男子職工とあるは朝鮮、台湾、樺太又は南洋群島に在りては職工とす
本令中厚生大臣とあるは朝鮮に在りては朝鮮総督、台湾に在りては台湾総督、樺太に在りては樺太庁長官、南洋群島に在りては南洋庁長官とし地方長官とあるは朝鮮に在りては道知事、台湾に在りては州知事又は庁長、樺太に在りては樺太庁長官、南洋群島に在りては南洋庁長官とす

 付 則

本令は昭和十四年五月一日より之を施行す但し朝鮮、台湾、樺太又は南洋群島に在りては昭和十四年八月一日より之を施行す

「工場就業時間制限令」の趣旨は、あくまでも、工場における職工の就業時間に制限を設けることにあった。しかし、その制限令に定められている「制限」が、そもそも相当に緩い。しかも、その緩い制限をさらに緩くするような例外規定が設けられている。のみならず、その制限令自体が、ほとんど機能せず、ザル法になっていた可能性が高い。
 その背景は明らかである。工場主には、制限令を遵守しようとする気持ちがなく、行政や司法にも、制限令を遵守させようという強い姿勢がない。職工の側には、団結権や団体交渉権がない。したがって、「労働力の再生産」すら要求することができない。
 こうした事態について、これは戦時中だったからやむをえなかった、と捉えることは正しくない。なぜなら、「平時」である今日においても、法令による制限は緩く、その緩い制限に例外規定が設けられている。さらに、そうした法令そのものがザル法になっている実態があるではないか。経営者には、法令を遵守しようとする気持ちがなく、行政や司法にも、法令を遵守させようという強い姿勢がない。労働者の側には、団結権や団体交渉権がない。したがって、「労働力の再生産」すら要求することができない。
「法令」があるからといって、労働者の労働環境が守られるとは限らない。少なくとも日本に関する限り、こうした事情は、戦時であろうと平時であろうと変わらないのである。

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