◎『人喰いの民俗学』(1997)の思い出
鵜崎巨石氏が、今月一七日のブログ「礫川全次編著『人喰いの民俗学』」で、拙編著『人喰いの民俗学』(批評社、一九九七)について論評してくださっている。あいかわらずの鋭い切り口である。
どんな本であれ、完成した本を手にするまでには、企画し、出版社に打診し、ゴー・サインをいただき、調査し、資料を集め、考察し、編集・執筆し、校正を重ねるなど、何段階にも及ぶ手間があり、その都度、多くのストレスを味わう。しかし、鵜崎巨石氏のような「目利き」に、こうしたゆき届いた書評をいただくと、そうした手間やストレスが、吹き飛ぶような気持ちになるものである。
さて、『人喰いの民俗学』であるが、これは、「歴史民俗学資料叢書」第一期の二冊目として刊行されたものである。「歴史民俗学資料叢書」第一期全五冊の企画は、すでに了解されていたこと、第一冊の『糞尿の民俗学』の反応が意外によかったことなどがあって、比較的にストレスを感じることなく、編集作業が進んだ。
何よりも気楽だったのは、資料本文を「影印」で紹介できたことである。これだと、誤入力の心配がなく、ルビを振り、語注を付ける手間も省ける。ただし、その分、編著者の資料への読み込みは甘くなる。
鵜崎巨石氏は、同書への論評の中で、次のように指摘されている。
本書は、つぶれた活字の原典をそのまま写真製版するなど、読みにくいところが多い。
いつもは丁寧にふりがなを振り、親切に脚注をふる編者にしては珍しい。
いろいろ事情があったのだろう。
歴史民俗学資料叢書で、「丁寧にふりがなを振り、親切に脚注をふる」ようになったのは、第二期からである。第二期の発足にあたって、方針を変更し、資料の全文を入力し直し、ルビを振り、語注を付けることになった。この方針の変更には、もちろん「いろいろ事情があった」わけだが、ここでは、「字打屋」さんという、知る人ぞ知る「入力の達人」の存在が、そうした方針変更を可能にしたということを紹介するにとどめる。
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