たんぽぽの心の旅のアルバム

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2000年『エリザベート』プログラムより-ウィーン初演から東宝ミュージカルまで『エリザベート』上演史

2024年01月13日 10時53分45秒 | ミュージカル・舞台・映画

東宝初演『エリザベート』_一路さんインタビュー記事 - たんぽぽの心の旅のアルバム (goo.ne.jp)

 

なつかしの雪組『エリザベート』日本初演 - たんぽぽの心の旅のアルバム (goo.ne.jp)

 

(2000年東宝初演『エリザベート』プログラムより)

 

「ウィーン初演から東宝ミュージカルまで『エリザベート』上演史-小藤田千栄子(映画・演劇評論家)

 

‐日本では宝塚雪組から‐

 最近の日本では、いちばん人気とも思えるミュージカル『エリザベート』は、ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場でスタートした。1992年9月3日のことである。ウィーンは、ヨーロッパのなかでは、ロンドンに次いでミュージカル人気の高いところで、英米の有名作品は、ほとんど上演しているほどである。やはり根本には、オペレッタの伝統があるからだと思うが、オペレッタの専用劇場フォルクスオーバでも、よくミュージカルを上演しているようである。英米の人気作だけではなく、ウィーン・オリジナルにも意欲的なところで、一時期、フロイトを主人公にした『フロイディアーナ』という作品が、日本でもかなり語られたことがある。

 こんなウィーンから生まれたミュージカルの決定打が『エリザベート』なわけだが、私が最初にこの作品を知ったのは、1993年6月のNHKBS2‐トニー賞特集のときだった。ブロードウェイのトニー賞のついでに、ロンドンとウィーンの最新作紹介があったのだが、そのとき『エリザベート』が入っていたのである。舞台面が一部紹介されたが、なんだか大掛かりな作品だなあという印象しか持たなかった。

 この日から2年数か月後の1995年9月、宝塚雪組での製作発表があった。のちに宝塚のプロデューサーに聞いた話では、宝塚には、かなり早い時期から「向いている」という情報が入っていたそうである。だがこのころ宝塚は、新しい宝塚大劇場が出来たり、ブロードウェイからトミー・チューンを招聘するなど、企画がめじろ押しで、『エリザベート』はそのままになっていたのだそうである。それが雪組で浮上してきたのは、多分、名歌手=一路真輝を擁していたからだと思うが、とのかく96年2月~3月=宝塚大劇場、同年6月=東京宝塚劇場と発表された。

 この発表を聞いて、私はモーレツにウィーン・オリジナルを見たくなった。宝塚版を見る前にウィーン・オリジナルを見たかったのである。それで厳寒のウィーンに行った。アン・デア・ウィーン劇場は、その昔、モーツァルトの『魔笛』が初演されたところだそうで、なかなか由緒ある劇場なのだが、のちにオペレッタの専門劇場となり、1960年代以降はミュージカルの名作をたくさん上演するようになったという。馬蹄型の見やすい劇場で、ここで初めて『エリザベート』を見た。

 ウィーン・オリジナルの『エリザベート』は、基本的にはスペクタクルと前衛が合わさったような作りであった。これは演出=ハリー・クプファーの好みだと思えたのだが、全編を歌で進め、さらに大掛かりな装置のスペクタクル性は、ロンドン・ミュージカルのの影響も見て取れたのである。なにしろ舞台面は、8つのセリが切られていて、それが上下に動くのである。オープニングなど見ていて恐いほどだった。

 こんな大掛かりな装置で驚かすものの、次第に狂言回し=ルキーニの案内で、ハプスブルク家の内部を語っていく緻密な構成が見事だった。知っているエピソードもあれば、全く知らなかった話もあるのだが、死=トートの誘いを振りきりつつ、皇妃エリザベートの人生が語られていく。

 ウィーンで見ていて強く思ったことは、実在のエリザベートという人自体が、大変なスターだったらしいということである。きっとどのエピソードも、ウィーンではおなじみの、よく知られているものなのであろう。それを死=トートを出して、ハプスブルク家を崩壊の視点から描いたところが、このミュージカルのいちばん新鮮なところであり、現代劇たりえているところだと思った。

  ウィーンから戻って、ほどなくして宝塚雪組の初演を見た。よく知られているように、宝塚は男役の世界である。いかにタイトルが『エリザベート』であっても、男役が主役でなければ収まらない。そこで潤色・演出=小池修一郎は、かなり手を入れて男役トートを前面に出してきた。

 ウィーン・オリジナルよりも、まず第一に出番が多いし、ほとんどすべてのエピソードに、トートが関わっているという構成にしていた。このあたりはすべてウィーンのオリジナル作家たちと相談ずみだそうだが、加えてトートのために新曲まで用意してしまった。サブ・タイトルにもなっていた「愛と死の輪舞」である。これを歌うことによってトートの存在は、さらに引き立つようになっていた。そしていかにも宝塚らしい豪華な舞台作りも魅力だった。トートは、ほとんどのシーンで10人の黒天使を引きつれて登場し、華やかなダンス・ナンバーも加わったのである。特に私は、フィナーレの群舞が好きだった。

 この公演は、一路真輝のサヨナラ公演でもあり、いかにもカッコいい男役トートを作りあげて、宝塚時代の代表作とした。サヨナラ公演で代表作を出した人も珍しい。雪組の主な共演者を記すと、エリザベート=花總まり、フランツ・ヨーゼフ=高嶺ふぶき、ルキーニ=轟悠、ルドルフ=香寿たつき(宝塚大劇場)、和央ようか(東京宝塚劇場)。

 

‐宝塚では星組・宙組も ‐

 雪組の東京公演が終わったあと、宝塚は星組での続演を発表した。麻路さきの星組である。96年11月~12月=宝塚大劇場、97年3月=東京宝塚劇場。

 この星組公演が始まる前に、ヨーロッパでは、ハンガリーでの公演が始まった。96年8月から、98年4月にかけてである。最初は東南部の古都セゲドで、ついで首都ブタペストのオペレッタ劇場での公演だったが、見てきた人の話によると、なんと宝塚版の、つまり小池修一郎潤色・演出版が、かなり取り入れていたそうである。加えて一路真輝のための新曲「愛と死の輪舞」も歌われていたとか。ということは宝塚版を見たオリジナル作家たちが、宝塚の作りを気に入り、許可を出したということなのであろう。

 宝塚星組の『エリザベート』は、雪組版と同じ台本、同じ楽譜であるにもかかわらず、味わいとしては、かなり異なるものになっていた。これはもう出演者たちの個性としか言いようがないのだが、分かりやすく言えば、麻路さきのトートは、よりビジュアル系と言えようか。主な出演者を記すと、エリザベート=白城あやか、フランツ=ヨーゼフ=稔幸、ルキーニ=紫吹淳、ルドルフ=絵麻緒ゆう。

 1997年3月に、星組の東京公演が終わり、『エリザベート』とも、もうこれでお別れかと思ったのだが、なんと私はウィーンで、もういちど『エリザベート』を見るチャンスに恵まれた。92年9月に始まったウィーンの『エリザベート』は、途中、シーズン・オフということで休場したこともあったが、1998年4月25日に千穐楽を迎えた。上演回数1278回、観客動員130万人の大ヒット作である。この千穐楽のフィナーレの舞台に、日本のオリジナル・トート=一路真輝と、星組のエリザベート=白城あやかが特別出演し、同時取材ということで見せて頂いたのである。

 ウィーンの千穐楽は、もう『エリザベート』オタク全員集合という感じの盛り上がりであった。取れないチケットを、やっと手にした興奮が伝わってくる。ミュージカル・ナンバーはといえば、もう1曲歌うごとに、すごい拍手。1曲ごとのショー・ストップ状態であった。そして物語は進み、いよいよフィナーレ。われらがスターの登場である。ウィーンのエリザベート女優さんが「日本から来た一路真輝」と紹介をし、一路真輝は宝塚から空輸されたトートの衣装をつけて「最後のダンス」を歌いはじめる。この時点で客席は、全員がステンディング・オヴェィション状態なので、後ろのほうの席からはよく見えない。ところが一路真輝が歌いはじめると、一瞬にして客席はシーンとなって、全員が着席し、一路真輝の歌に聴き入ったのである。私はこのとき、一路真輝の歌唱力とは、こういうことなのかと、あらためて感嘆したのであった。「最後のダンス」は、途中、マントを翻して踊るパフォーマンスもあり、ヴィジュアルも要素もたっぷりの、魅惑のワン・パースン・ステージとなった。歌い終わると、すぐさまスタンディング・オヴェイションになったのは言うまでもない。

 続いてハンガリーから招かれていたエリザベート女優さんが「私だけに」を歌い、ついで白城あやかが「愛のテーマ」を歌いながら登場した。衣装は、これも宝塚から空輸されたもので、その豪華なこと。曲の後半では、ウィーンのトート役が登場してデュエット。大トリでは白い衣装に着替えた一路真輝が再び登場して、ウィーンのエリザベート女優さん、ハンガリーのエリザベート女優さんなど、みんな登場しての大コーラスとなった。なんとも豪華なウィーンの千穐楽であった。

 このあと日本では、宝塚宙組も上演した。1998年にスタートした新組の、2本目の作品が『エリザベート』であった。98年10月~12月=宝塚大劇場、99年2月~3月=TAKARAZUKA1000days劇場。トート役は、歌では定評のあったしづきで、エリザベート役に、雪組時代に一路真輝と組んだ花總まりが、再び登場したのが話題だった。『エリザベート』は、上演するには非常に難しい作品なのだが、このあたりになると観客のほうは見ることに慣れてきて、なんとなく安心して見ることの出来る舞台となっていた。すでに『エリザベート』経験者が、何人も出ていたことも大きい。姿月あさと、花總まりのほかに、主な出演者を記すと、フランツ・ヨーゼフ=和央ようか、ルキーニ=湖月わたる、ルドルフ=朝海ほかる(宝塚大劇場)、樹里咲穂(1000days劇場)。

 

-新曲が入って東宝ミュージカル-

 このあとヨーロッパでは、1999年末から2000年にかけてスェーデンのカールスタッド劇場で、ほぼ同じころのスタートでオランダ・ハーグの劇場で『エリザベート』の上演が始まった。オランダ版は、かなりのロングランが想定されているようで、見てきた人の話によれば、これまでの『エリザベート』の集大成版とも言えるものだそうである。

 そしていよいよ東宝ミュージカルの『エリザベート』である。演出の基本は、エリザベート中心の、つまりはヒロインものとしてのウィーン版に戻すのだそうで、なんとエリザベート=一路真輝のために、作者たちは、また新曲を書いたそうである。出演のたびに、オリジナル作家たちから新曲を書いてもらっている一路真輝は、なんとも幸運なスターだが、それだけ信頼を得ているということでもある。となると、これはもう世界一のエリザベートを見せなければ、と勝手にプレッシャーをかけておこう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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