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たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

『木靴の樹』シナリオ(22)

2019年03月07日 18時35分57秒 | 映画『木靴の樹』
(フランス映画社発行のパンフレットより引用します。)

*遠野(昼)

 畑の向こうから、陽気な歌声が聞こえてくる。ポプラ並木の道を、行商人フリキがやって来た。


*農園の中庭

  フリキの賑やかなカネを合図に、女と子供達が走り寄る。荷車に満載されている、色あざやかな布地、衣類、雑貨。

フリキ「フリキでござい。高級生地をお持ちしました!美しい数々の品の大安売り!目もあやなスカート!
さあ、ご覧ください」

フィナルダ「まただましに来たね」

フリキ「フリキはだましません。サル同様にご婦人を尊敬します。」

 手にとって品物を眺める女達。鐘の音。

フィナルダの声「口がうまいからね」

フリキ「ごらんください。旦那がたが見とれますよ。手ざわりのいい最高級品です。色とりどりの紐からボタンまで、今回もまた必ずやご満悦頂けます。」

ベッティーナ「これは何?」

オルガ「リボンよ」

フリキ「(フィナルダに)お似合いです」

フィナルダ「はでだわ」

フリキ「はで?では地味ななのでスカートを!」

フィナルダ「別なのは?」

フリキ「今回こそご満足いただけます。このエプロンは?」

 荷車の上の鳥籠の黒い鳥を見つめるピエリーノ。鳥がチャオ!という。

ピエリーノ「(トゥーニに)チャオだってさ」

フリキ「生地をよくご覧ください。お祭りにブラウスとスカートを」

ブレナの妻「(娘のマッダレーナのために品を選びながら、フリキに)本当に安売り?」

フリキ「掘り出し物です!どこにもない品です。ご存知ないか。パリ直送の品々です。第一級の外国品ばかり。私はアフリカでサルを見たが、人間さまより物わかりがいい。手にとってみてください」

フィナルダ「サルの話で私達をまどわせだます気なのよ」

マッダレーナ「これはいくら?」

フリキ「さすが、あんたは目が高い」

ブレナの妻「お嫁にいくのよ。安くしな」

フリキ「お嫁に?奥さんがたにきいてください。大奮発してます」

フィナルダ「お黙り、このいかさま師!」
 フリキ、歌をうたいはじめる。

フィナルダ「そうよ、あんたは嘘ばっかりよ」

フリキ「品物をご覧あれ!」


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『木靴の樹』シナリオ(21)

2017年12月03日 16時11分15秒 | 映画『木靴の樹』
(フランス映画社発行のパンフレットより引用します。)

*厩

フィナール「何をしている? それが仕事か? この碌でなしめ! 牛乳の入った桶はひっくり返すし」

ウスティ「自分でやれ(厩をとび出す)」

 厩で仕事をしているうちに、また派手な親子喧嘩が始まる。

フィナール「出て行かんと頭を叩きわるぞ、畜生め! とっつかまえて殺してやる! ドラ息子め!」

次男「パパと兄さんが喧嘩だ」

フィナール「おぼえてろ! 畜生め! 今度こそぶっ殺してやる!」

 犬がけたたましく吠え、騒がしさが増す。男達がかけ寄り、必死で2人をひき離そうとするが、なかなかおさまらない。

フィナルダ「神様、どうかやめさせてください」

 妻のフィナルダが嘆き、男達がフィナールを押さえつけると、ウスティが2階に駆け上がっていく。

フィナール「このごろつきめ! 畜生め、呪われろ!」

フィナルダ「おおマリア様」

フィナール「親に手向う者は、一生神の祟りに会うぞ」

アンセルモ「口をつつしみな。神は父親の罵りを許さんぞ」

 その言葉にハッとしたのか、疲れたのか、急にしゅんとなるフィナール。戸口に立って、遠まきに様子を見ていたバティスティ―ナとミネクとトゥー二。傍でフィナルダが泣いている。

バティスティ―ナ「(子供達に)ここにいなさい」


*小川(朝)

 ルンクの後家さんが洗濯をしていると、テレジーナが駆けつけてくる。

テレジーナ「母さん、牛が立ったわ!」

ルンクの後家さん「まさか!」

 厩に駆け出す2人。

*厩(朝)

ルンクの後家さん「じいちゃんに早く知らせて」

テレジーナの声「じいちゃん、母さんが呼んでいるよ。早く厩へ・・・。牛が起き上がったわ!」

ルンクの後家さん「(厩に貼ってある聖母マリア様の絵に)感謝いたします」


**********************

 12月最初の休日、部屋でずっと緊張しながらひきこもって荷物整理をしているのも疲れてしまうのでささやかな息抜きのひととき。これから美容院です。まだまだ捨てるものがあって荷物はなかなか減りませんが、明日からまたきびしい一週間が始まるのでそんなにやれず、ブログに書きたいこともまだまだあるのですがそんなに書けず、休日は終わっていきます。玄関口を出る時、目と鼻の先のオッサンは明らかにいる気配なのでスマホで音楽ききながらでないと緊張してしまって部屋を出ることができません。部屋を出る時不安神経症とたたかい続けているわたしにはこたえること。なんとかならんかね。コンビニかなんかとゴミ出し以外ずっと部屋にいるなんて心身が健康な者にはできないことなのでどんなリスクをもっているやら、気味が悪いばかりなり。当たり前みたいなことが実はいちばんむずかしいんですよね。何度も同じことを書いてしまいますが、普通がいちばんむずかしいんです。お父さん、お母さんと一緒の赤ちゃんや子どもちゃんをみると、普通の家に生まれてよかったねって思うこの頃、愛されながら無事に育っていきますようにと心の中で祈らずにはいられません。当たり前すぎると気づきませんが、当たり前みたいな日常こそが尊い、普通がいちばん。

 今度の土曜日は『Pukul』、久しぶりの生の舞台。タカラヅカスペシャルのライブビューイングまで2週間と五日になるのかな。待ち遠しいなり。

 




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『木靴の樹』シナリオ(20)

2017年09月29日 17時31分32秒 | 映画『木靴の樹』
(フランス映画社発行のパンフレットより引用しています。)

*紡績工場の外(夕)

 夕べの鐘が鳴る。小さな灯をつけた荷馬車が、若い男女の一段と共に通る。

*ポプラの並木道

 マッダレーナの前にステファノがあらわれる。

ステファノ「こんばんわ!」

マッダレーナ「びっくりしたわ」

ステファノ「どうして?」

マッダレーナ「なぜここに?」

ステファノ「君に会いたくて」

マッダレーナ「それなら、毎晩集会で会ってるわ」

ステファノ「それとは違う。みんなの中で会うのと、2人だけで会うのは違う」

マッダレーナ「今夜も寒いわ」

ステファノ「いや、水はもう凍っていない。もうすぐ聖母月がやってくる。君にキスがしたい」

 沈黙が流れる。2人の横顔。

マッダレーナ「そんなこと、だしぬけに言ってもだめよ。さよなら」

ステファノ「では、さよなら」

 期待は裏切られたが、恋心を打ち明けた喜びは大きい。マッダレーナを見送るステファノの顔は、心なしか晴れやかだ。


*バティスティの家・台所(夜)

 ミネクがノートをひろげ、勉強している。兄の姿をのぞきこむトゥー二。


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『木靴の樹』シナリオ(19)

2017年09月20日 18時17分36秒 | 映画『木靴の樹』
(フランス映画社発行のパンフレットより引用しています。)


*ルンクの後家さんの家・台所

 アンセルモが玉蜀黍粥(ポジンタ)をよそっていると、物乞いジョパが入って来る。共に祈るジョパ、アンセルモ、子供達。

アンセルモ「(十字を切るジョパに)腰かけて、冷めないうちに玉蜀黍粥(ポジンタ)をお食べ」

 のろのろと椅子に坐り、ほどこし物を口にするジョパ。それを見つめる子供達。

*厩

 ルンクの後家さんは聖水を大切に抱えて帰って来ると、寝そべっている牛に祈りを唱えつつ飲ませる。

*バティスティの家・台所(昼)

 ミネクが学校から帰ってくる。

バティスティ―ナ「お帰り」

バティスティ「火のそばに来て、足を暖めな。寒い日だ」

バティスティ―ナ「足がぬれている」

バティスティ「(ミネクを暖炉前に坐らせ)靴と靴下をぬいであたためなさい。今日は寒い、
霜やけにならんように。(食事を与えミネクの横にかがみこむ)、お食べ。先生の話は?」

ミネク「水の話をしたよ」

バティスティ「水の話?」

ミネク「水には小さい動物がたくさんいるって」

バティスティ「魚だね」

ミネク「おさかなじゃない。もっともっと小さな動物だよ。一滴の水のなかにもいるよ。飲み水のなかにもいるんだ」

バティスティ「飲み水にも?」

 ミネクの言葉に聞き入る両親。

ミネク「ものすごく小さくて、見えないんだよ」

バティスティ「見えないものが、どうしてわかる?」

ミネク「特別の道具がついた器械で水を見るんだよ」

バティスティ「医者が使う奴か!勉強になるな」



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『木靴の樹』シナリオ(18)

2017年06月18日 20時28分25秒 | 映画『木靴の樹』
(フランス映画社発行のパンフレットより引用しています。)

*厩の前(朝)

 ベッティーナが、柱のかげから馬車の上のビエリーノに尋ねる。

ベッティーナ「面白かった?」

 うなずくビエリーノ。ルンクの後家さんが急ぎ足で近寄って来る。

ルンクの後家さん「(ビエリーノに)桶に水を汲んでおいで」

 そのまま厩に入るルンクの後家さん。テレジーナとアネッタが続く。

*厩

 中に入り、ただならぬ様子を察したルンクの後家さん。

ルンクの後家さん「(後ろの子供達に)家に行ってな」

獣医「この牛はあんたのか、それとも地主のかね?」

ルンクの後家さん「神の恵で私達のものです」

獣医「その神の恵もこれまでだろう」

ルンクの後家さん「一体どうしたんでしょう」

獣医「奥さん、本当の事を言うともう危ない。すぐしなさい。金にもなる」

ルンクの後家さん「(桶を持って来たビエリーノを厩から出し)困ります。家はこの有様です。牛が頼りです」

獣医「早く、私の言う通りにしなさい」

アンセルモ「(厩から出ていく獣医の後ろ姿に)子供には黙ってて下さい」

ルンクの後家さんの声「先生へのお礼は?」

*厩の外

獣医「そんな心配はせんでよろしい」

 馬車で去る獣医の後を追う子供達。

*ルンクの後家さんの家・台所(昼)

 悲痛な面持ちの家族。突然ルンクの後家さんが何かを思いついたように葡萄酒の空瓶を洗い出す。

ルンクの後家さん「玉蜀黍粥(ポジンタ)のお湯をわかして(と頼んで出てゆく)

アンセルモ「玉蜀黍粥(ポジンタ)のお湯を沸かそう」

*林のむこうの礼拝堂

 神への祈りを唱えながら木橋を渡り、林をぬけるルンクの後家さん。オルガン曲<我を憐れみ給え、主なる神よ>静かに。

ルンクの後家さん「(十字を切る)主よ、私を見捨てないで下さい。今こそ私ひとりです。私は微力です。主のお助けなくては、何もできません・・・」

 やがて小さな礼拝堂にたどり着くと、彼女は祭壇の十字架のイエス像に膝まずく。

ルンクの後家さん「主よ、十字架上に死せし主は、われらの能力に関係なく・・・」

 祈りを続けながら、ルンクの後家さんは礼拝堂を出て、わきの清らかな小川の水を瓶に汲む。

ルンクの後家さん「・・・・その善意もて、受難の丘の下を流れる聖水にて、魂と肉体の悩みを洗いたまえ。主よ、我らの罪をゆるしたまえ。無知ゆえの罪をゆるしたまえ。主の五つの傷により、聖母マリアの悩みにより、諸聖人と正しき心により、主よ恩寵を与えたまえ。お願いいたします」

 再び礼拝堂に戻り、愛をこめてイエス像を見つめるルンクの後家さん。


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『木靴の樹』シナリオ(17)

2017年06月01日 19時53分41秒 | 映画『木靴の樹』
(フランス映画社発行のパンフレットより引用しています。)

*ルンクの後家さんの家・台所

 赤ん坊を抱いたテレジーナが入って来る。

テレジーナ「(母親に)じいちゃんが厩に来てくれって。早く!」

*厩

 牛をじっと見つめているアンセルモとテレジーナ。ルンクの後家さんが入って来る。

ルンクの後家さん「(アンセルモに)どうしたの?」

アンセルモ「朝から様子が変だ。食べないし、立ち上がらない」

ルンクの後家さん「どうか病気でないように」

アンセルモ「獣医にみてもらおう」

ルンクの後家さん「(テレジーナに)ピエリーノに獣医を呼びにやって」

 ワラの上で苦しそうにあえぐ牛。

*厩の外

テレジーナ「ピエリーノ!急いで獣医を呼びに行くのよ」

 しかしかくれんぼに夢中のピエリーノの姿は見えない。

アネッタ「ウサギ小屋よ」

*厩

 心配そうに、牛をなでるルンクの後家さん。

*畑の間の道(朝)

 獣医とピエリーノを乗せて走る馬車。

*厩の前(朝)

 馬車が入って来て止まる。

ブレナの妻「アネッタ、獣医さんが来たと母さんに知らせな」

 馬車が止まる。かくれんぼをしていた子供たちが、遠まきに見ている。

獣医「(馬車を降りてピエリーノに)カバンを」

 カバンを手渡したピエリーノの腕を、ねぎらうようにとんとんとたたいて、獣医は厩に入っていく。まだ馬車に乗ったままのピエリーノに、フィナールの次男とベッティーナが近寄る。

*厩(朝)

アンセルモ「こんにちわ!先生」

獣医「アンセルモ、牛がどうかしたか」

アンセルモ「病気です」




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『木靴の樹』シナリオ(16)

2017年05月12日 15時26分54秒 | 映画『木靴の樹』
・農園の外(朝)

 ペピーノが製粉場に向かう。明るい日ざしのもと、ルンクの後家さんが洗濯物を干す。

・納屋(夜)

 うす暗い納屋の中での、アンセルモとベッティーナのひそかな会話。

アンセルモ「閉めて」

ベッティーナ「どこへ行くの」

アンセルモ「種まきに(厩に入る)」

ベッティーナ「なんの種?」

アンセルモ「トマトだ(小さな木箱にトマトの種をまき、布をかぶせる)」

ベッティーナ「なにをしているの?」

アンセルモ「乾草をかぶせる。外が寒くても、芽が出てくる」


・兎小屋の前

 かくれんぼをしている子供たち。フィナールの次男、ベッティーナ、アネッタが鬼で数を数えているところに、わけもわからずトゥー二も加わり、4人並んで扉に顔を伏せている。オルガとビエリーノは、物かげにかくれる。

オルガ「(ビエリーノに)ここへおいで」

 枯枝のすき間にもぐりこむ2人。数を数え終わった鬼たちは、あたりをぐるりと見渡す。いち早くベッティーナがかけ出す。

アネッタ「(フィナールの次男に)どこ?」

フィナールの次男「(トゥー二に)坊主は向こうへ、(アネッタに)おまえはあっちへ」

 指示を与え、自らもかけ出すフィナールの次男。何もわからないトゥー二は、枝をふり回してきょろきょろするばかり。

 息を殺したオルガとビエリーノ。「小屋の中よ」という声に、オルガを見つめるビエリーノ。しっと指を立てるオルガ。

フィナールの次男「ぼくが行く」

 馬車の下をのぞくアネッタとベッティーナ。「厩の中を見たら?」の声に、身をすくめるビエリーノ。

オルガ「かくれるのよ。みつかるわ(ビエリーノを引きよせる)」

フィナールの次男「麦わらの下だ・・・戸のかげに!」

 見つめあうオルガとビエリーノ。





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『木靴の樹』シナリオ(15)

2017年05月10日 16時03分58秒 | 映画『木靴の樹』
(フランス映画社発行のパンフレットより引用しています。)

 楽しげな子供達を横目に、ルンクの後家さんとベビーノはテーブルで食事をとる。沈痛な面持ちで、考えこむルンクの後家さん、

ルンクの後家さん「今日、神父さんがみえたよ。わざわざみえたんだよ。アネッタとベッティーナを引き取ってもいいと。お前に話してからと答えておいたわ」

ベビーノ「預けないと困るのかい?」

ルンクの後家さん「こんな状態が続けば・・・」

ベビーノ「(真剣な表情で)春になれば、テレジーナが紡績工場に行く。ピエリーノも働ける。厩でも。おれが夜も昼も働くから、皆と一緒にいよう」

ベビーノの言葉に、複雑な表情のルンクの後家さん。ふたたび<我を憐れみ給え、主なる神よ>がしずかに入る。テレジーナがあやしていた赤ん坊が、沈黙を破って急に泣き出す。


********************************

 今手に入れたいのは、当たり前の暮らし、ほしいものは特にない、贅沢をしたいわけでもない、つつましやかな普通の暮らし。当たり前すぎると気づきませんが、わたし自身が普通の暮らしを失ったことと普通に暮らせなかった人たちの人生に触れたことで学びました。普通に暮らしていくこと、それがいちばん難しくてかけがえのないことなのだと。


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『木靴の樹』シナリオ(14)

2017年01月22日 19時33分09秒 | 映画『木靴の樹』
(フランス映画社発行のパンフレットより引用しています。)

・ルンクの後家さんの家・台所(夜)

 食事の支度をしているルンクの後家さん。アンセルモと子供達が暖炉を囲んでいる。製粉場からペピーノが戻ってくる。

ペピーノ「今夜は寒い・・・星がいっぱいだ」

ルンクの後家さん「お湯がわいているよ」

アンセルモ「(子供達に)火を消すな。おき火で寝床を温める」

ルンクの後家さん「(みんなに)冷めないうちにおあがり」

 めいめい皿を手に、暖炉の周りで食事をはじめるアンセルモと子供達。

ベッティーナ「じいちゃん、火の粉をとばしてよ」

アンセルモ「火の粉は地獄からぬけ出す悪魔じゃ」

アネッタ「なぜ地獄からぬけ出すの?」

アンセルモ「人間の魂をとりにくる」

アネッタ「なぜ暖炉の中に?」

アンセルモ「違うよ、悪魔が暖炉の中にひそんでいて、煙突から屋根に出て、魂をつかまえて、地獄におとすのだよ」

アネッタ「(暖炉をのぞき)悪魔は善人が怖いんだね」

アンセルモ「悪魔は正直な人間やよい子に出会うと、逃げ出すのだ」

アネッタ「(十字を切って)十字も怖いのね」

アンセルモ「お祈りをしているかい?」

アネッタ「してるわ」

アンセルモ「では怖くない、火を動かすと、悪魔の逃げていくのが見える。(火の粉を飛ばし)悪魔、出ていけ!出ていけ!悪い子はここにいない」




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『木靴の樹』シナリオ(13)

2016年08月07日 21時54分01秒 | 映画『木靴の樹』
(フランス映画社発行のパンフレットから引用しています。)

・畜舎

 フイナールの育てた豚を、柵囲いの外から 棒でつつく管理人。

管理人「見事なブタだ!」

フィナール「家で一杯どうです」

管理人「あとでもらおう」

何か気配を察し、さかんに鳴きわめく豚。

フィナルダ「もう殺されるのかい?いい豚なのに。かわいそうに!」

 農園の男達が豚を棚から出し、押さえつけ て腹を切り裂く。声をふりしぼる豚。したたる血をカメで受け、はらわたがえぐり出される。豚は後ろ足に棒を刺され、逆さに吊られる。の男は豚に熱湯をかけ、手ぎわよく真二つに裂いていく。

フィナール「どうだね?」

の男2「 りっぱだ」

ブレナ「満足?」

フィナール「もちろん」

 ドン・カルロ神父がやって来る。バテイステイが気づき、挨拶する。

神父「バティステイ、お前さんの息子に会ったよ。どうかね?」

バティスティ「子供は喜んでます」

神父「今に息子を自慢するだろう」

バティスティ「主の恵みがあれば・・・」

神父「ルンクの後家は?」

バティスティ「 川へ洗沼に・・・。呼んで来ましようか?」

神父「よろしい、私が行くよ。(豚を見て)見事な豚だ」

フィナール「おれが育てたんです。」

神父「人間よりも大切に。主を愛さぬと、この豚と同じ目にあう」

フィナール「おれは人を殺したことなんかない!」

神父「それだけでは十分ではない」

  管理人がなぜかいきなり帰ろうとするので、フイナールが追いかける。

フィナール「計量はどうします?」

管理人「君らにまかす」

フィナール「食べませんか?」

管理人「あとで、あとで。(馬へ)うしろへ!」


●農園わきの小川

  雨の中、洗燿をするルンクの後家さんのもとに神父が近づき、傘をさしかける。

ルンクの後家さん「こんな恰好で申し訳ありません。何がご用で?」

神父「かまわんよ、続けなさぃ。大事な話があって来たのじゃ。教会を休んだな」

  オルガン曲〈 我を憐れみ給え、主なる神よ〉流れだす。

ルンクの後家さん「その通りです。とても忙しかったので。子供が6人もいて・・・」

神父「咎めにきたのではない。家で子供の世話をするのはよろしい。ミサに先立つ勤めじゃからな。主もそれはわかって下さる。その子供らのことじゃよ」

ルンクの後家さん「うちの子の?」

神父「昨日、孤児院の院長先生と話をした。 院長は部屋に余裕がないと言つていたが、下 の娘2人を預かつてもよいと。上の子だけになれば、あんたも一息つける。どうじゃな?」

ルンクの後家さん「今夜長男が仕事から帰りましたら、相談をして・・・」

神父「気持ちはよくわかるが、無理にも限度がある」


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