2012年『エリザベート』‐ルキーニ役との出会いが、俳優としての世界を広げてくれた-高嶋政宏さん
(2012年『オモシィ・マグ』創刊号より)
「ウィーンで世界初演されてから20年、日本でも1996年の宝塚歌劇団での初演以来、数多くの観客に熱狂的に支持されてきたミュージカル『エリザベート』。2000年に上演の始まった東宝版は、今回のロングラン公演中に上演1000回を達成する。
筆者は今回、公演プログラムのために、日本初演から一貫して演出を手がけてきた小池修一郎氏にインタビューをする機会に恵まれたが、その際にも改めて痛感したのが、海外ミュージカル作品を日本の幅広い観客に愛されるべくアレンジを施す、氏の手腕の巧みさである。男役が主役を演じる宝塚での初演においては、”トート=死なる抽象的、概念的存在をセンターに据えざるを得ない。そんな思いきった冒険的出発点から、日本人にとってはなじみの薄いオーストリアの近現代史への理解を誘うため、ハンガリーの革命家たちを登場させ、トートの存在とも絡めて物語の運びにさらなる広がりをもたせてもいる。男女キャストにより、主人公がタイトロールの「エリザベート」に戻った東宝版においては、作品のダンサブルな要素をショーアップさせたいという氏の意図が、コンテンポラリー・ダンスの振付をセクシー&ワイルドに踊りまくる男性トートダンサーたちの存在を得て、激しいまでのスペクタクルとして実現されることとなった。再演を重ねるたび、新曲の追加や映像の使用など新奇なアイディアが加えられるのは無論、新たなキャストを迎えることで作品に新たな風が吹き込まれてもいる。今回、山口祐一郎、石丸幹二、マテ・カマラスと、三者三様の個性をもった”死=トート”役者が揃ったのも楽しみな限り。
日本と海外とでは根本となる文化が違い、ミュージカル作品を受容する観客の嗜好も当然異なる。演出家の眼差しの先には常に作品を受容する日本の観客が居る。その眼差しによって、ミュージカル『エリザベート』は日本において愛され続ける作品となり得たのである。」