行雲流水

阿島征夫、一生活者として、自由に現代の世相を評す。時には旅の記録や郷土東京の郊外昭島を紹介する。

夏休みに読む本、壮大な歴史小説「ふりさけみれば」

2023-08-15 12:21:49 | 歴史

日経に連載されていた安部龍太郎「ふりさけみれば」が刊行され、本屋にならび始めた。阿倍仲麻呂と吉備真備を軸に、唐と日本での皇室を絡めた権力争いの中で、日本の皇室の正当性を大国唐に認めさせ、当時の国際的地位を高めるために奮闘する命がけの壮大な活躍が描かれ、これまでにない感動を覚えた。日本人として知って欲しい歴史的一コマだ。

717年第9次遣唐使で唐の都・長安に留学した阿倍仲麻呂、吉備真備をはじめ玄昉、井真成が登場する。阿倍仲麻呂は帰国の船が嵐で果たせず難関といわれた唐の科挙の試験を受け合格、玄宗皇帝に使え、信頼されある事情から最愛の妻を離縁し、楊貴妃の姉を妻にすることになる。この辺のドラマは安部龍太郎独特の発想だろう。唐の皇室の権力争いの中で仲麻呂はうまく乗り越えるが同じ留学生の井真成は殺害される。

玄宗皇帝の楊貴妃への寵愛は「長恨歌」に歌われてるとおり、悲劇に終わる。信頼していた安禄山に裏切られ(安史の乱)、逃避行の中、楊貴妃をなくすことになる。仲麻呂は玄宗皇帝と長安から避難する途中、天皇から秘かに命を受けていた唐の史書(大和朝廷をどう書いているか)「魏略38巻」を手に入れる。

吉備真備は仲麻呂と協力し合い、「魏略38巻」を日本に持ち帰ることが出来るが、仲麻呂はまたも乗船した船が嵐に遭い、帰国を果たすことが無く唐の高官として骨を埋める。

帰国した吉備真備は当時の最高知識者として右大臣まで出世し、朝廷に重用されるが、藤原一族の権力者恵美押勝との相克、また日本仏教を正統たらしめるべく、戒律の師である鑑真和上の招聘も実現し、引退するまで多忙で、彼の活躍は驚異的に描かれている。

当時、外国からもたらされた感染症で多くの人々が死亡する場面では、コロナパンデミックと重なり、ワクチンや薬のない時代ひたすら隔離するしか手段がない。遣唐使といえども帰国して太宰府に数ヶ月は滞在して、感染症がないことが判明してようやく都に移動できた。

2001年に西安(当時は長安)を訪れた時に郊外の玄宗皇帝と楊貴妃がすごした温泉宮(華清宮)を訪れた。高校の漢文で習った「温泉水なめらかにして凝脂を洗う」という長恨歌の一節を思い出した。現在の華清池には興ざめな楊貴妃の像が建っている。

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