大辞林 によれば、「同一労働同一賃金」とは量と質において同じ価値をもつ労働に対しては,性別・年齢・人種などにかかわりなく同額の賃金を支払うという原則。なるほどA君と自分は同じ仕事をしているから賃金は同じだと簡単に思うほど簡単ではない。先ず、仕事の中身がほんとに同じかと言うことだ。家電組み立て工場を例にとると、同じ洗濯機を組み立てているだけなら仕事(職務)は同じだが、となりの冷蔵庫工場で急に休む人が出て応援に行くことがあるがA君なら経験豊富ですぐこなせるが、B君は冷蔵庫の組み立ては未経験でできない。この場合、A君の方が賃金は高くても文句は言えない。また、洗濯機の組み立てと冷蔵庫の組み立てと同じ価値があるかということになるとその組み立て過程を良く分析してみないと判らない。同じ価値があるとなれば、洗濯機組立工と冷蔵庫組立工の賃金は同じということになる。
仕事(職務)を分析して、それを完全にこなせる人か、誰かの指導がなければできない人かによって同じ仕事をしていても賃金に差があっても合理性がある。日本の賃金体系は戦後長らく生活が出来る賃金を基本に、年齢(勤続)が進に連れ結婚、出産、子育てなどの生活費要素を補償する定期昇給のある基本給と職務あるいは職能に関わる部分とで構成されてきた。同一価値労働同一賃金は何となく後半の職務給もしくは職能給で行われてきた。
ところが、正社員の賃金体系とは全く異なる非正規社員が4割も占める時代となると、経験豊富なパートの賃金は基本給部分がないため、同じ仕事(価値労働)をしていても賃金格差が歴然としてしてきた。特にパートが過半数以上を占める小売業界では大きな問題となってきた。同一価値労働同一賃金を実現するためには正社員を含めた賃金体系の大きな変更が必要となる。
更に、ことは賃金だけでなく均等待遇という幅広い分野で改革を進めなくてはならない。日本では賞与という制度があり、非正規社員はそこでの差が激しい。また、有給休暇の消化、育児休暇などの福利厚生面でも同じ待遇を受けることから始めることだ。
JIPT(労働政策機構)の調査によると、先進欧州では「同一(価値)労働同一賃金原則」は人権保障の観点から施行され、「均等待遇原則(差別的取扱い禁止原則)」の賃金に関する一原則と位置付けられてる。EU法における男女「同一(価値)労働同一賃金原則」の間接差別に関する判例をみると、勤続年数、学歴、資格、勤務成績、技能、生産性、移動可能性(勤務時間や勤務場所の変更にどの程度対応 できるかという柔軟性)、労働市場の状況等が、広く賃金に関する異別取扱いを 許容する客観的(合理的)理由として考慮されている。
今後、賃金体系を考えるにあたってEUの判例が参考になろう。正社員と非正社員との賃金格差は上記下線の合理的な部分を含めた均等待遇の一環として考えるべきものだ。製造業や小売りなどサービス業とでは合理的な賃金格差は異なるが、きめ細かい職務分析と職務遂行能力の研究が基礎になることは間違いない。