この新資本論とも取れる本からなるほどと感じたエッセンスを取りだしコメントしてみよう。
資本主義が終焉にむかっているプロセスを米国の例で次のように示している。
要約すると米国は資本主義の延命策として「電子・金融空間」を作り出し、リーマンショック前まで実物経済をはるかに陵駕する100兆ドルのマネーをふくらませた。その典型例がサブプライムローンで、リーマンショックによりバブルが破裂した。その結果、「バブルの生成過程で、富が1%の上位の人に集中し、バブル崩壊過程で国家が公的資金を注入し、巨大な金融機関が救済される一方で、負担はバブル崩壊でリストラにあうなどのかたちで中間層に向けられ彼らが貧困層に転落することになる」
バブルが発生し、崩壊することを繰り返すことにより中間層がなくなり、購買力が落ちることにより市場は狭くなり、デフレになり、資本主義は終焉を迎える。このことは日本にも当てはまり、日本ではかつてバブルが破裂し、中間層がリストラにあい、非正社員化が進み、賃金は低下して格差が年々大きくなり22年デフレに陥ったという。水野氏の説明にはかなり説得力がある。
私は途上国の発展で市場は大きくなると思うが、水野氏は「資本(余剰マネー)はグローバルに動き、日本の自動車のように国内市場が満杯になると途上国に投資し、中国のように世界の工場へと発展する。しかし資本主義には内在的に過剰・飽満・過多を有するシステムなので限界に達する。エネルギーの制約から石油価格は高騰し、インフレとなりバブルと崩壊の繰り返しとなる」とし、中国バブルの崩壊をも予言する。
資本主義発祥の欧州について、水野氏はリーマンショック以上の危機をむかえていると指摘している。欧州は統一EUで市場の拡大を目論んできたが、若年労働者の失業率はドイツの社会学者ベックによれば「25歳以下のヨーロッパ人の4人に1人は職がない。アイルランドやイタリアでは25歳以下の3分の一が失業している。ギリシャやスペインでは若年失業率は53%」と行き詰まりを見せている。
欧州はかつて歴史的に資本主義を発展させてきた。「資本主義の性格は時代によって重商主義であったり、自由貿易主義であったり、帝国主義であったり、植民地主義であったりと変化してきた」と分析し、その最終形態がEUであったと水野氏は指摘する。
米国と違い大陸欧州は周辺国を併合させるモーメンタムが働き、東欧、バルト三国、バルカン半島へと拡大を続け、今ウクライナがその対象になっていると考えるとわかりやすい。ギリシャ危機で見られたように、ナショナリズムがぶつかり、現在の危機を乗り越えるどころか反EUを掲げる政党も選挙で躍進しており、暗中模索の状態が続くのではないか。
我が日本も、株内閣と揶揄されるように、国債の大量発行、日銀引き受けによる異次元緩和でマネーがあふれ、株価も回復しているが、水野氏の言うように資本主義延命だけに終わればやがてクラッシュが来ることになる。
水野氏は資本主義に替わるシステムが現れるまで、脱成長・定常状態を提言する。ゼロインフレであれば、今必要でないものは値上がりがないのだから購入する必要がない。豊かさを「必要な物が必要な時に、必要な場所で手に入る」とミヒャエル・エンデの言葉で説明している。